第四十話 『誓約の神殿:救済と断罪』
スライム達を焼殺させた土壁の向こうに佇む老人のアンデッドは、眼球の無い落ち窪んだ眼窩を見開いている。
錫杖を取り落としそうになりながらも呟いてる。
『オォ、オ……帰って、コラレ、た、ユルシを、オワリを』
縋るように老人のアンデッドの言葉に以前に父から聞かされた物語を思い出す。
確かあれは……
「滅する?またあの精霊を出されたら危ないわよ」
「アンデッドであるのならば火葬をした方がよいと思いますが?」
「いや」
「カリス殿?」
「あの精霊もスライムもあの老人……先代国王のものじゃない、あの錫杖が原因だからあれを壊せばいい。」
「国王?何でこんなところにいるのかしら。いえ、何故国王?」
「父から聞いた数百年前の話。」
数百年前まで誓約の女神を介して誓約を交わしていた国が突然手のひらを返して誓約を破った話だ。
その行いに誓約の女神は怒り、恩恵を剥奪。
ダークエルフ達は月の女神の信徒達と共に新天地へと去った後に当時の国が滅んでしまったらしい。
この話の教訓としては誓約は決して破ってはならない、破ったら厄災が訪れるぞ、だったのを覚えている。
「……多分、いやきっとあの老人は当時の国王の父親。誓約を破った当時の王に頭を抱えてそれでここに来たんだと思う。」
「……何故このような場所にと思いましたが、そうであるならばかの物はここを知っていてもおかしくないわけですな。」
「だとしても、あのスライムも精霊も操って使っていたのは事実、滅する事には変わりない。」
オルキッソは杖を構えてアンデッドに向ける。
「でも何故アンデッドとして蘇って尚且つあの精霊達を使えたのか気にならない?」
話を聞いてみない?と続けて言うとオルキッソは少し考えて杖を下ろす。
「……なら、あの錫杖を破壊しましょう」
「うん、ありがとう」
破壊しようと構えた途端、錫杖から黒い渦が噴出される。
「……、嫌な予感がする」
それは大きく広がり波打つ、まるで意思があるかのように蠢き、ゆっくりと老人のアンデッドを覆おうとしているように見えて飛び出す!
「カリス!?」
『オ、ぉ、ヴ』
……あの時の感覚を、思い出して、アンデッドを倒した時のあの神聖なる一撃を放った時の……!
月の女神に祈りながら長剣を振り上げると錫杖から衝撃波が発生して吹き飛ばされる。
「む、まさかまだ抵抗する気ですかな!」
「あの錫杖、何で出来てるかわからないけれど、これなら!」
オルキッソが腰のポーチから幾つかのルーンを取り出して唱える。
杖を横にして弓を構え、放つ!
不可視の矢が錫杖を持つ手に命中するとアンデッドはそれに耐えられずに手放した!
「ぬん!!」
それを追うイグニは大きく跳躍し空中で回転しながら竜人の踵落としが錫杖に炸裂すると同時に金属が押し潰され破砕する音が響く。
それにより床も大きく抉られる結果になったけど……強すぎない?
錫杖から発生していた黒い渦はそれを最後に薄れて消えていく、どうやらイグニの一撃で終わったようだ。
「……竜人、やりすぎ」
「ですがまた使ってあれを召喚されないとは限りますまい?」
「調べるところがなくなるわ」
「……頭に血が上ってましたな」
イグニがオルキッソに突っ込まれてバツが悪そうに破砕した錫杖を見る。
先端はほぼ原型をとどめておらず、残ってるのは持ち手くらいだ。
「でも、これで落ち着いて話はできるよ。」
「あなたはいいでしょうけど……」
不服そうにするオルキッソに老人のアンデッドに事情を聞けば何かわかるかもしれないからと言って老人のアンデッドの前に立つ。
老人のアンデッド、元先代国王はもはや戦う気力も意思もないようで先ほどからおとなしい。
それどころか僕を見て震えてるように見える。
『オォ、赦しを、ダークエルフ、民を、赦したまえ』
「……こちらの言うことに幾つか答えてくれれば考える。」
『答え、問いを、答え』
数百年前のアンデッドに無理に修正を求めるわけにはいかないため、アンデッドの調子に合わせて此方の質問に答えてもらう事にした。
「あなたは何者で、何故このようなところに?」
『わたし、ワタシは、この地の、王、の父だった、息子の、犯した罪、贖罪、神、嘆願』
「何故息子はそのような事を?」
「病、勘違い、ワタし、治療、されていた、息子、誰か、唆され、』
「つまり、突然歴史から消えていたのは愚王が唆されて尚且つ誓約を破ったから、と」
オルキッソは呆れたようにして呟く。
『誓約、聖域、不可侵、ダークエルフ、女神の民、この地、奪った、わタシ、ここ、請う、男、浅黒い、取引。』
「浅黒い男に、何を言われたの?」
気になる単語が出てきたからかオルキッソが詰問する。
『侵入者、盗掘者、殺し、贖罪、赦し、帰ってくるまで、ダークエルフ、彼らを、待つ、錫杖、頂いた』
つまりはその浅黒い男にあの悪意まみれの錫杖を貰ってこの地を護ってればいつか赦されると唆されたようだ。
それであの錫杖を使わせる為におそらく蘇らされたのだろう。
老人のアンデッドは嗚咽を漏らしながら懇願し続けている、こんな事を数百年続けていたのだろう。
「……貴方の罪は、僕に裁く権利はない、けれどその想いは届いた。おやすみなさい、僕は貴方を赦そう。」
優しく頬を撫でるようにしながら告げる。
黄金色の光が老人のアンデッドを包み込んでゆっくりと白い光に包まれ消えていく。
『……ようやく、これで……』
老人のアンデッドは浄化されながら眠るように消えるのを見送った。
そこに無遠慮な足音が聞こえてきた。
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