第三十八話 『精霊魔導師の分析 Ⅱ アフェクオルキッソside視点』

この不帰の峡谷の闇の領域はダークエルフ達の為の居住区だ。

その為か発光する鉱石以外の明かりはない。

そこにこの骸骨戦士達が次から次へと襲撃してくるものだから先に体力が尽きてしまいそうだ。

「オルキッソ、神殿までの道は?」

「ふたつ、最奥に神殿へ直接行く為の吊り橋と身を清める為の地下水脈の通路。」

「侵入者が最初に行くとしたら」

「水中呼吸の指輪がなければ吊り橋」

「よし、ならそこまで切り抜けよう!」

カリスが周囲を見まわしてすぐに解答を叩き出す。

その際にカリスの剣は黄金の光を纏い骸骨戦士を浄化していく。

貴重な資料を一緒に燃やそうとするイグニにツッコミをしつつ立ち回る。

カリスの案によって最短距離を使って先ほど見えた微かな赤い明かりを目指す。

「それにしても、このアンデッド共多いですな」

「みんな同じ格好してるけど何処の?」

「おそらく数百年前の国の兵達」

立ち塞がるアンデッド達を蹴散らしながらもアンデッド達について話し合う。

「数百年前の、それも国の人がどうしてこんなところに?」

「……この地は数百年前まで王国があったということを示す文献は幾つかあった、何かしらの関わりはあるでしょう」

文献ではかなり繁栄していた国だったようだ、だが理由不明で尚且つ途切れているから詳細は分からない上に場所も不明確。

あの街の壁はその際の城壁の名残だとも言われている。

誓約とはどのようなものだったのだろうか、と学者達の議論は交わされているのだ。

最奥に光が見えた、そこまで行けば神殿まで行くための道だが目の前の岩の扉が開いたままになっていた。

その神殿に行く吊り橋の向こう側で長剣を振り上げ、縄を斬り落とす男の冒険者がいた。

アレがファトゥスだろう。

バンッ!という音と共に吊り橋が落ちてファトゥスが鬼気迫る顔でコチラを見たかと思うとニヤつくのが見えた。

これでコチラには向こうに行けないと思ってるのだろうか、愚かな事だ。

「……もうひとつの道に行こう。地下水脈の通路だよね?」

「ええ、この川の水を地下通路の一部に引かれてるけどこの分だと満潮で全部沈んでるわね。」

川と空に上がる月を見て計算する。

そろそろ満潮だろう。

「早速役に立つわよ、水中呼吸の指輪。その人間にもつけてあげなさい。」

カリスに指輪を渡して竜人の背中に括り付けられた人間に付けさせるのを待って、一緒に地下通路へと赴き水中を進んでいく。

相変わらず冷たいが水中呼吸の指輪のおかげでこの水中内でも活動ができるのは非常にありがたい。

だがあのファトゥスという冒険者は今頃入れないことに苛立っている事だろう。

何故なら元々ここはダークエルフと月の女神の信徒達のための神殿だ、月の女神の信徒達の祈りが終わるまでは入れないようになっていると文献には記されていたからだ。

通路から上がって女性を着替えさせる際に、横目で見たカリスの裸はあまりにも痛々しいものだ。

酸や火で焼かれ炙られたような火傷痕、切り傷に刺し傷と、痣となった膿んだ痕跡、枷から見える擦り傷もまた膿んでいたような痕跡。

上半身だけではなく下半身にもおびただしく埋め尽くされるほどに及んでいる辺り、あまりにもおぞましい悪意を10年も叩きつけられていた事実がそこにあった。

……どうしてくれようかあの冒険者

暫くして着替え終わりカリス達と共に突入した。

上りきるとカリスが嫌な声を上げたので聞いてみるとやはり私達にはわからないものを感じ取っているようだ。

最奥には見覚えのない老人のアンデッドが錫杖構えて呟いている。

途端、数十メートルはある巨大な炎を纏った精霊スピリットが現れた。

「精霊!?いや、混じってる、無理に融合させた?歪められてる!」

その精霊の中に炎の精霊以外の何かが混じり悲鳴をあげているのが聞こえて思わず叫ぶように言う。

少なくとも守護者ではないのは確実、あの老人のアンデッドは歪んだ魂レヴナントと呼ばれる蘇らさせられた死者だろう。

とすればあのアンデッドを倒せばいい!と、進言すれば竜人は賛成したが、カリスは反対した。

炎の精霊の攻撃によって散らされる爆発と火花を何とか避ける。

「オルキッソ、聖域にアンデッドがいるという例は以前にも会ったことあるけど、あれは違う!」

「どう言うこと?」

「あのアンデッドは悪意の塊じゃない!」

そういえばカリスは以前に死霊魔術師とどこかの神殿で相対した事があったのだ、とすればあのアンデッドはそれに類しないものとなる。

だが、あまりにも違和感が多い

誰が死霊魔術師に陽光の魔法の巻物を渡したのか、誰があの老人のアンデッドを蘇らせたのか。

まるで誰かが裏にいて糸を引いてるかのようだ。

炎の精霊の腕が勢いよく振り下ろされ、避けても爆風で弾き飛ばされる。

……?この感覚、炎以外に何か混じってる!

「……何が混じってる、本来ならああやっていう事を聞くはずはない。」

「どう言うこと?」

「基本的に精霊は大自然そのもの、命じられてやると言うのは何かが混じってるとしか思えない。」

通常の精霊や召喚に関する事を簡単に説明する。

竜人がそれを踏まえて攻撃しようとするが阻まれたのをみて詠唱を終え、魔法限定化させて範囲を狭めた魔法の雨を降らせるが勢いよく炎が燃え上がる!

……どういう事?炎の精霊のはずなのに、水を吸収した!?

召喚の魔法陣がその炎によって破られ、勢いついた拳をカリスに振り下ろす!

近づこうにもこの炎の勢いによって近づくことすら躊躇わされた。

だが、カリスは何を思ったのか懐に踏み込んで精霊に突き刺す!

また腕が振るわれるのを見てカリスに警告をすると即座にカリスは引き抜いてギリギリで避ける。

同時にあの老人のアンデッドが錫杖を振るいスライムを召喚した……え、なにあれ、カリスの記憶で見た神官がいるんだけど。

「……オルキッソ」

「擬態機能はない」

「だよね」

古代魔法で造られたスライムに人の皮を被って擬態する機能があってたまるか!!!

どうするかと考えているとカリスから炎の精霊に関する驚くべき事実を聞かされる。

炎の精霊ではなく水の精霊で尚且つその2つを合わさせられているのだと。

色々と納得した、同時にやはり裏に何かがいる事を確信する。

あの老人のアンデッドは精霊魔導師でもない、このような芸当をするには精霊に関する知識がないだろう。

更に言えば、精霊を本当に使役しているのなら更に同じのを呼び出せばいいはずだがそれをしなかった。

……気に入らない

口の中で黒幕に対する怒りを呟きながら構えた。

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