第三十六話 『誓約の神殿:歪んだ魂』
水飛沫をあげながら階段を登り切る。
周りは精密的な細工が施されたレリーフが刻み込まれている。
レリーフには黒曜石を嵌め込まれたダークエルフの姿と石でできた人間が月の女神へ祈る様子が描かれているようだ。
「ここが誓約の神殿の地下、階段を登れば着くけど、この道は使ったことないから扉がどうなってるかわからない」
「とりあえずはこの者を着替えさせて近くで寝させておきましょうぞ」
「それは私がやるわ、あなた達も着替えておきなさい」
「うん、わかったよ。」
イグニの背中から降ろされた吟遊詩人さんを床に横たえらせてから離れて着替える。
とは言っても、僕はこの神官服以外はわからなかったのでなんとか用意してもらったのだけど。
「……身体はしっかりと拭きませんとな」
「袋の中身は濡れるのはほぼ最小限になるというのは嬉しいよね。」
傷だらけの身体を拭いて奴隷の枷の内側も気をつけて隠れたところも綺麗にする。
タオルを絞っては拭いてを繰り返して綺麗にして新しいのに着替える。
傷口からは血は出ていないようで安心した。
イグニは渋い顔をしてたけど気にしない。
しばらくして着替えも終わり具合を確かめるとオルキッソが来た。
「オルキッソ、もういつでもいけるよ。」
「吾もいつでもいいですぞ。」
「なら、行きましょう。」
「吟遊詩人さんは、ここで眠らせておいた方がいいよね?」
「そうね、後で迎えに来ればいい。」
オルキッソによれば一時的に休む為の長椅子があったそうで、そこに横たわらせたらしい。
それにしても、上から悪意の渦と臭いが強くなるのを感じる、根源がこの上にいるのだろうか?
「ふむ、使いやすかったのですが残念ですな。」
「使いたければ後で出す」
「いえいえ、ここは吾の拳で折檻をしますから構いませぬ」
鋭い竜のかぎ爪のついた手を握ったり開いたりして誇示する、実際あの手だと一瞬で貫かれそうで、その様子を頭の中で思い浮かべてしまって身震いする。
オルキッソに追従して階段を登っていく、壁は全てダークエルフと人間についてのが段々と新しくなっていくのがわかった。
その度に臭いも強くなっていくのは中々にきつい。
登り切ると石造りの扉が見えた、オルキッソに勧められて扉に手を触れるとパチン、という軽い音と共にゆっくりと開いていく。
途端、凄まじい悪意の渦が辺りを覆うそこは質素ながらも荘厳な月の光が全方向から差し込み照らし出す神殿内だった。
「うわ……」
「どうしたの?」
「すごい臭いと渦が見えて」
同時に奈落の底から響くようなおどろおどろしい声が響き渡る。
『マモラナクテハ、ソソガナクテハ、ツミヲ、ハイジョセヨ、シンニユウシャ、コロセ』
ボロボロの赤いマントを羽織り、干からびた老人の人間が錫杖を構え呟いている。
悪意の渦が老人の周りを取り巻きながらもその呟きに応え、数十メートルはある巨大な炎を纏った
「精霊!?いや、混じってる、無理に融合させた?歪められてる!」
オルキッソが驚愕し悲鳴のように言う。
「何者か!」
『セイイキ、マモル、コロセ、オイダセ、ユルシテクレ、ユルシテクレ』
老人はイグニの言葉にも答えずにそんな事を呟く。
「オルキッソ、守護者とか、いるの?」
「いたとしてもアレじゃないのは確実!」
「あの精霊とやらを倒さなくては近づけないのでは、中々に厳しいのがあるのでは?」
「……でも、何か違和感があるような」
「あのアンデッド、
「あれもアンデッド?」
「だとすると、峡谷でのもあの者の仕業でしょうな。」
2人があのアンデッドに対して敵対する意志を明確にした途端、老人のアンデッドは錫杖を突きつけて叫ぶ。
『セイイキ、ケガスナ、カレラガ、カエルマデ、マモラナクテハ!』
巨大な精霊は炎を纏った拳を振り下ろし火球の如く床を叩き込む!
「っ……!」
咄嗟に飛び退ってその腕の直撃を避けるが、余波の熱が全身を打ち据える。
直撃した床は焼け焦げ黒ずんでいる。
「オルキッソ、聖域にアンデッドがいるという例は以前にも会ったことあるけど、あれは違う!」
「どう言うこと?」
「あのアンデッドは悪意の塊じゃない!」
以前の遺跡、選定の騎士のいた神殿の事を思い出した。
その時に出会ったあの
というのもあの精霊が悪意の塊によって融合させられて呼び出された時にあの老人のアンデッドには悪意の渦というのが無かったのだ。
「一体貴方に何が見えてるかわからないけど、アレをどうにかしないと死ぬわよ?」
「わかってる、作戦を考えよう。」
「ううむ、あの炎の鎧ですとブレスは効かないでしょうな」
イグニは冷静に分析しながらも構える
オルキッソも杖を構えて魔法の詠唱の準備をする。
長剣を抜き放ち、巨大な精霊と対峙する。
老人のアンデッドは精霊に命じて戦闘を開始させた。
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