第三十五話 『不帰の峡谷:追躡(ついじょう)』

イグニが構えたところでオルキッソは力ある魔法の言葉フサルクを唱えると手の中にオルキッソと同じくらいの丈の仄かに光るスタッフが出現した。

竜人ドラゴニック、これ使いなさい」

「かたじけない」

イグニはオルキッソに投げ渡されたスタッフを両手で構えて骸骨戦士スケルトンたちに向き直る。

「なるべく背中に攻撃を受けないように立ち回ろう」

「無論、そのつもりですぞ」

「くる!」

骸骨戦士たちが一挙に武器を振り上げて踏み込んでくるのと同時に動く。

背中に人を背負って動きにくいイグニを狙おうとする数体の骸骨戦士の剣を長剣で受け止める、数体分ともなれば流石に力負けしそうになるが踏みとどまった。

「っ、く……!」

「ぬんっ!」

ゴウっという風切り音がすると骸骨戦士達の腕がへし折れる音が連続していく。

骸骨戦士たちの体勢が大きく崩れると、そこにオルキッソが骸骨戦士の頭蓋骨に杖の先端を突き刺して止めをさすとそれは動きを止めた。

下から斜め上に骸骨戦士を斬り上げると剣を追うように金色の剣閃が煌めく。

同時に骸骨戦士は白い光に包まれて跡形もなく消滅する。

「やけに多いですな!」

イグニがスタッフを振り回し最小限の動きで破壊していくがまだいるそれらに対して愚痴った。

「前に来た時はこんな事無かったのだけど!」

「じゃあ誰かがこのアンデッド達を甦らせた、とか!」

「そうとしか思えないわね!」

オルキッソはイグニが転ばせた骸骨戦士の頭を砕いてあたりを見回しながら答える。

悪意の渦が更に蠢いて辺りの骸骨戦士に宿り復活させる、これではキリがない。

このままだと体力の方が先に尽きてしまうのは自明の理だ。

「オルキッソ、神殿までの道は?」

「ふたつ、最奥に神殿へ直接行く為の吊り橋と身を清める為の地下水脈の通路。」

「侵入者が最初に行くとしたら」

「水中呼吸の指輪がなければ吊り橋」

「よし、ならそこまで切り抜けよう!」

また骸骨戦士を唐竹割りをして浄化しながら言う。

「では燃やしてしまいますかな?」

「貴重な資料燃やす気?」

「ではどこを切り崩しますかな?」

「オルキッソ、最奥までの道を最短で行こう」

「なら、そっちの方が速い!」

杖の石突で骸骨戦士の頭をまた砕いて崩れていくのを傍目にオルキッソはその先へ指を指す。

骸骨戦士達の層が薄い先の道が伸びてるのが見えた。

「では、行きましょうぞ!」

イグニの振るうスタッフが骸骨戦士達を蹴散らして道を切り開いたのと同時に僕たちは駆け出しその場を離れた。


「それにしても、このアンデッド共多いですな」

「みんな同じ格好してるけど何処の?」

「おそらく数百年前の国の兵達」

立ち塞がるアンデッド達を蹴散らしながらもアンデッド達について話し合う。

「数百年前の、それも国の人がどうしてこんなところに?」

場違いじゃない?と聞く

「……この地は数百年前まで王国があったということを示す文献は幾つかあった、何かしらの関わりはあるでしょう」

「国があったというのは初耳ですな。」

「でしょうね、文献には突然歴史から消えたとだけあるから。」

「……何処かで聞いたような」

幼い頃に父から似た話を聞いた気がするが引っかかったように思い出せない。

「着くわよ」

目の前の岩の扉が開いたままになっていた、日光による影響を少しでも塞ぐためにこんなにも分厚いのだろう。

その扉の向こうには高い崖の壁が聳え立ち、神殿が川の中央に建てられている。

質素ながらも月光に照らされていて神秘的な雰囲気を醸し出している。

その神殿に行く吊り橋の向こう側で長剣を振り上げ、縄を斬り落とす男、ファトゥスがいた。

バンッ!という音と共に吊り橋が落ちてファトゥスが鬼気迫る顔でコチラを見たかと思うとニヤつくのが見えた。

これでコチラには向こうに行けないと思ってるのだろう。

「ジャンプするわけにはいきませんな」

「そもそも落ちたら泳げずに流されるだけよ。」

「……もうひとつの道に行こう。地下水脈の通路だよね?」

「ええ、この川の水を地下通路の一部に引かれてるけどこの分だと満潮で全部沈んでるわね。」

川と空に上がる月を見てオルキッソは呟いた、そういえば街で干潮と満潮とか言ってたような。

「早速役に立つわよ、水中呼吸の指輪。その人間にもつけてあげなさい。」

オルキッソから受け取った水中呼吸の指輪は淡い青い光を放っていた。

左手の指に嵌めると全身に薄い膜が展開されたような感覚がした。

指輪を見ればどうやら指の大きさに合わせて可変するようになっているようだ、イグニはそれによって指に嵌める。

後ろに縛り付けられた吟遊詩人さんにも袋から手を出して指輪を装着してあげた。

そしてオルキッソの案内で来た所は大きな地下への階段が水没していた。

どうやら此処から身を清める為の場所と神殿へと続く道のようだ。

「こっちの方は使ったことないけどいける、行くわよ」

「むむ、カリス殿泳げますかな?」

「泳いだ事ない、とりあえず掴まってればいい?」

「ええ、ではいきましょうぞ」

イグニの腕に捕まりオルキッソについていき水の中へと歩いていく。

冷たい水の感覚が全身を満たしていく。

水の中で動き辛いがイグニのおかげで何とかゆっくりと歩けるようになった。

水中呼吸の指輪のおかげで呼吸にも負担はない。

薄暗い水の中を僕たちは進んでいった。

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