第三十四話 『不帰の峡谷:闇の領域』

魔法生物のスライムたちを避けつつ下の階層への入り口を探す事になって建造物の間を警戒しながら歩いていく。

周囲の音は這いずる粘液の音の方が多いが、人間の歩く音は僕たち以外には聞こえないことからもうこの階層にはいないかあるいは死んだという可能性はある。

それならそれで死体から回収すればいい……死体も回収する必要あるかな?

人間の法がどうなってるのかは知らないけど、あまり頼りたい気にはならない。

「こっち、そろそろ下の階層の出入り口よ。」

「うん、それにしてもすごく広いね」

「よもや峡谷にこのような遺跡があるとは思いませんでしたな」

「正確にはギルドで管理されてる診断の一部だけれども」

「魔法生物以外に何か管理してる?古代の演劇のとか」

「それは魔法ギルドの管轄ではなく研究者達の管轄」

「そっかー」

「……演劇の内容で魔法について記されてたりしていたらギルドに来ることもある。」

「それは知りたい!」

「帰ってからね」

「カリス殿は英雄譚もですが劇も好きなのですな」

「話に聞いただけだけど、地上世界で英雄譚を再現する演劇があるって聞いてたから楽しみで。」

「見たことないので?」

「ずっと外にいたし、自由に動けなかったから……」

「……そういえば何故逃げ出さなかったので?カリス殿の実力があれば出来たはずですが」

「出来なかったよ、それをしたらあの人達が死ぬから。」

「……どういう事?」

オルキッソの問いに逡巡して答える

「少しでも逆らったら逃げたりしたら僕の恩人でもある人達が死ぬと脅されたから。」

2人の空気が僅かに変わったのがわかる。

「……言葉だけなら確証はない筈ですが?」

「……言葉だけならね」

「………ゲス共が。」

僕の反応に想像がついてしまったのだろう、イグニは吐き捨てる。

実際、あの人達の身体の一部と身に付けていた物が目の前に投げ捨てられ、そう告げられたのだ。

それが嘘であるという可能性はある、けれどそれを確認する方法は無かったから従うしかなかった。

それに、逃げ出したとしても奴隷のそれもダークエルフともなれば保護しようと思う人はいないだろう。

人間達にとってダークエルフは恐れられる存在なのだと理解していたからだ。

ダークエルフの英雄譚以外での英雄譚の多くはダークエルフは悪役として語られていたのだから。

……あの人達はそんな事は無かったけど、生きているだろうか?

「あった、ここから降りれる。」

オルキッソの指示に従って出入り口を降りる、途中までは松明を置くところがあったが下へ行くに連れて青白く発光する鉱石が多くなっていく。

どうやらここからは闇の領域、僕のようなダークエルフ達にとっての故郷に1番近い所のようだ。

そうして降り立ったのは仄かに青白く発光する鉱石があちこちに点在している住居区だ。

「ううむ、先が見通し辛いですな」

「光源がダークエルフ達にとって快適な環境として造られてるから、地下世界の住人達以外には辛い環境よ。」

「僕は快適、キノコのベッドがあれば良いんだけど」

「そんなものはない。」

「残念」

「その代わり此処では中央区画に図書室が設置されてるから光源はそこを中心に広がるように配置されてるから分かりやすくていいけれどもね。」

「それは普通の人間達にとっても此処にきて学ぶ事も多いでしょうな」

「実際その事例が多かったみたい、ほとんどは神殿に関することと地上世界での娯楽の小説もあったから入り浸るというのもあったからかなり交流が盛んだったようね。」

「ここならみんな一緒に仲良く暮らせてたんだ、なのにどうしていなくなったのかな?」

「詳細はなかった、でも……」

「何かあったの?」

「"誓約は破られた、我々は女神と共に新天地に至る"とだけあったのよね。」

「……その人達どこに行ったのかな?」

「流石に何処にも書いてないからわからない、ほらあそこが図書室よ」

「うわ、沢山だ」

オルキッソの指示に従いつつ辿り着いた図書室は沢山の書物が積まれていた。

どれも埃をかぶっていないのはオルキッソが言うには精霊達が常に循環させて埃を散らしては管理してるからそうだ、精霊さん達もいるんだ。

それにしても、誓約は破られた、昔何処かで聞いたような気がする、何処だっけ?

「ほう、沢山ありますな。持ち去られていないとは」

「闇の精霊達も巡回してるからここは比較的安全、それにダークエルフが帰ってきたって喜んでるみたい。」

そう喜ばれると少し恥ずかしい気もするけど……

「あった、この領域の地図よ、人間達の為のだけどこれならいけるわ」

「これ、まるで蜘蛛の巣のようになってる」

「この方が管理しやすかったのでしょう、あっちね」

「……あそこ、赤い光が見える」

遠目に見えたのは微かに照らす火だ、松脂の燃える匂いもすることからあれは人間のものだろう。

「追いついたみたいね、行きましょう」

「……っ!構えて、来たみたい。」

「む、何が」

黒い悪意の塊が周囲を渦巻く、形作られたのは手に各々の武器を持つ骸骨戦士スケルトン達だ。

「どうやら何かがこの峡谷で暗躍しているようですな。」

「……気に入らない、さっさと終わらせましょう。」

その言葉に2人で頷いて構えた。

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