第三十三話 『不帰の峡谷:探索』

「不可視状態の核を壊せるの?」

「……まだ確証は無いけど、もっと情報が欲しい。」

スライムの中心からズレた場所に黒い塊のようなものが渦巻いて見える。

ただそれが本当にスライムの核なのかどうかまではわからない、けれどスライムの緩慢な動きに対して動きが速い。

「ううむ、吾には何が見えてるのかは分かりませぬが……」

スライムが大きく膨らんだかと思うと表面が破裂して白い粘液が勢いよく噴出される!

「っ!」

被ってたローブを振り回し粘液を回避する、じゅう、とフードが溶けてボロボロの穴だらけになってしまった。

もうこれで隠すことは出来ないと判断して放り捨てる。

2人も何とか回避したようだ。

「カリス殿、無事ですかな?」

「なんとか、フードは無くなったけど」

「強酸とは、この峡谷では強酸が流行ってるのですかな?」

「頑固な汚れや落ちにくい物食べる為の強酸!流行ってるとかじゃない!」

オルキッソがそう返して杖を横に構えて、雑嚢袋から手探りでルーンの板を探り当ててまるで弓を構えるようにして力ある魔法の言葉フサルクを唱える。

「《飛翔、火の矢!》」

複数本の赤い光がスライムの身体に突き刺さり一部を蒸発させた。

それに悶えるように生やした複数の触腕を周囲に振り回してくる、それを姿勢を低くして避けながら踏み込む。

黒い塊に向かって長剣を突き出すが激しい動きによってズレてスライムを浅く切りつけるに留まってしまった。

「ふんぬっ!!」

竜人特有の巨体からでは想像できない程の素早い身のこなし、数発の衝撃音が同時に響き、スライムが吹き飛ぶ。

「うわ、すごい」

「まだ動くようですぞ!」

吹き飛んだスライムは平べったくなったがすぐ元の大きさに戻りこちらに向かってくる。

しかしこれでハッキリした、間違いなくあの塊はスライムの核だ。

オルキッソの魔法からも流れるように塊は移動した、イグニの拳で吹き飛ばされた際も僅かに露出した、更に言えば僕の剣の刺突も避けようと塊を移動させた。

「確信した、合わせてくれる?」

「ふむ、ならかけてみるとしましょう。」

「オルキッソ、燃やすんじゃなく、凍らせれる?」

「?、出来るけれど一部だけよ?」

「大丈夫、それでいい。イグニ、一部だけを大きく外へ出させるというのは?」

「タイミングが重要になりそうですな」

イグニはそう言って獰猛な笑みを浮かべるのを見ていけると言うことだろうと判断した。

オルキッソも頷いてタイミングを合わせてくれることになった。

「チャンスは一度、一気に行くよ。」

長剣を構え直してスライムと相対する。

スライムが再び大きく膨れ上がる瞬間

「イグニ!左上!」

「承知!」

再び素早い踏み込みと共に数発の衝撃音が響き、スライムの核のある左上の部分だけが大きく隆起する。

「今!」

「《飛翔せよ、氷の矢!》」

今度は青色の矢がその大きく隆起した部分を凍らせる、内部まで突き刺さったのか核のある所まで届いたようでその部分だけが元に戻らないのを認識して走り出す。

スライムも流石に狙いが分かったのか触腕を振り下ろして叩きつけようとしてくる!

それにより床が割れて煙が立ち上り視界を覆う。

「カリス殿!」

「カリス!」

スライムの触腕を避けて横を駆け抜け、振り向く。

スライムの核が逃げ出そうとしてるが凍っていて動けないようだ。

「これで、終わり!」

長剣を振り下ろし黒い塊を両断する!

同時にスライムの身体が戦慄きそのまま白い粘液状の液体になり広がって動かなくなった。

どうやら終わったようだ。

「終わった」

「すごいですぞ!カリス殿!」

「……まさか、本当に不可視の核を壊すなんて」

「観察してたから、かな。」

「しかし、このスライム、魔法生物でしたか」

「……普段はこんな事なかったのに急にどうしてこんな……」

オルキッソはスライムを調べようとかがみ込む、しかし微かに何かが聞こえた気がして辺りを見回す。

「今何か聞こえた」

「……そういえば、罠にかかった者は基本的にこの階層の光が届かないエリアに落ちてくるのだけど、おそらくそこね。」

「それだけじゃないみたい」

「む?何が来るのですかな?」

「さっきのスライムが複数、こちらに近づいてくる」

「……あれだけ派手に暴れたらそうですな。」

先ほどまでの戦闘音は響いていたから、気づかれるのも時間の問題だったが、戦ってる最中に来なかっただけでも幸運だ。

「オルキッソ、なるべく早く見つからない経路でいける?」

「いける、行きましょう。」

オルキッソも同意してくれた、オルキッソが先頭になり街の中を駆け回る。

走ってる途中で様々な建築物が後ろへと消えていく。

ここは、どんな人達が住んでいたのだろう?と思いを馳せながらも先を急いだ。

そうして辿り着いたのは鉄格子で区切られた檻のある唯一光の届かない区画だ。

それぞれの檻の天井部には十数個の穴が空いている為恐らくこの穴から罠にかかった者達はここに送られるのだろう。

その檻の中に大きな袋だけがあった。

駆け寄り袋の方を開けてみると中からあの吟遊詩人さんが眠った様子で入っていた。

口に手を当てると呼吸してるのがわかった、まだ生きてるようだ。

オルキッソは不思議そうに眺めて告げた。

「頭に傷が複数、けどこの吟遊詩人は魔法で眠らされてるようね。」

「解けない?」

「術者が解くか自然と起きるかしないと無理ね。」

「死んだりしてても?」

「死んで解ける場合とそうでない場合があるとだけ」

「しかし何故この者だけがここに」

「……このままここに置いていたらあのスライムや他の魔法生物に殺される可能性あるよね」

「……そうね、でも依頼としてはこの人を連れて帰るまでよ?これ以上あなたがやる必要性はあるの?」

冒険者としての依頼だけならこれで連れて帰れば終わりだ、とオルキッソはそう言ってるのだろう。

それでも、僕は進むことを選ぶ。

「僕でなくてもいける、確かにそうだけど、それでもやっぱり僕は後悔したくない。こんな事をしてオルシアも傷つけて逃げようとする悪を許したくない。」

だから行く、とオルキッソに答えた

「……なら、行きましょう。竜人、この吟遊詩人を背負ってなさい」

「分かりましたぞ。」

イグニが背中に括り付けて背負い込む。

そうした僕たちは奥へと急ぐ事にした。

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