第三十話 『不帰の峡谷:陥穽 冒険者ファトゥスside視点』
カリスが仲間と共に不帰の峡谷に来る少し前 冒険者ファトゥスside視点
人間が入った袋を紐で縛って背負い込んでいるからか遅くなってしまった。
途中で起きた際にその度に殴って気絶させていたがあまりにも効率が悪い。
「もうこのお荷物をここら辺に捨ててしまってもよいのではありませんの?」
「こんな村の近くで捨てたりしたら確実に俺たちがやったとばれるだろ!」
「でもこのまま不帰の峡谷に入るつもりですの?」
「そうだ、こいつが生きていたら確実に俺たちの評価に傷がつく。」
「途中でまた目覚めますわよ?」
「ちっ、
村へと入り一度袋を置いて辺りを見回し、魔法薬扱っている店を探す。
だがもう日が傾いて月が出てしまっている時間だ、こんな時間では道具屋もやっていないだろう。
となると後は魔法で眠らせるしかないが……アフマクは使えるのだろうか?
こんな時間でもちらほらと歩いている人はいる、そのどれもが好奇の目で俺たちを見ていた。
「見せものじゃねえぞ!」
「ファトゥス様、休むのも手かと思いますわ」
「それでこいつが逃げたら俺たちの事を確実にばらすぞ?」
「なら私が魔法で眠らせますわ」
「お前できたのか?何で最初から使わねえんだ!」
「
「それでもまだ使えるだろ!神殿についたら野営すればいい!」
「じゃあまともな食事のひとつでも作ればいいじゃないですの!」
「食事はお前の仕事だろ!」
「出来たら苦労しませんわ!」
「いばるんじゃねえ!!」
ぜいぜいと肩で呼吸しながらも頭を振り気を取り直す。
それでも使えるのなら使わせておいて損はない、それで少しは黙るのならそれでいいだろう。
「なら目覚める前に眠らせておけ、少し休憩したら峡谷に行って入り口を探すぞ」
「ふう、わかりましたわ」
思えば全ての雑事をあの
いたらあの奴隷を思いっきり蹴とばして発散できるのに。
「《昏くも貴き眠りの神よ、子羊に眠りの帳をかけたまえ》
袋の中で蠢いたかと思うとその紫色の光に包まれてそのままおとなしくなった、無事にかかったようだ。
「これで8時間は眠っている筈ですわ」
「ならまた運ぶぞ」
改めて背負い込んで紐で縛り固定する
そのまま村を抜けると荒涼とした荒地だった。
「……おい、その神殿の入り口何処だ?」
「そこまでは知りませんわ」
「神殿で聞いたんだろ!?」
「魔法ギルドが管理してるんですのよ!」
「じゃあ聞けよ!」
「聞いても答えなかったのをどうすればいいんですの!?」
「くそ、しらみ潰しに探すしかねえ!」
……神殿のやつらも何故この聖騎士となる貴族の俺とその仲間に話さない!そうすれば英雄譚の1ページに加えてやれると言うのに!
舌打ちをして暫く探していると大きな石碑が鎮座しており、その下に岩を削って造られた階段が見えた。
「ここか?」
「暗くて見えませんわ」
「何にしても降りるぞ」
「わかりましたわ」
慎重に階段を降りていく、壁は人の手でくり抜かれたからか荒い。
松明の灯りで照らされた階段はあまりにも不気味で何かが飛び出してきそうだ。
降りていくたびに足音が反響して俺たちの他に誰もいないように思えた。
遠くから何かが動く音がして振り返るが何も見えない。
「気のせいか?」
「まさか、入り口が塞がれたり……」
「そ、その時はその時だ!」
急ぎ足で降りたり登ったり曲がりくねった階段を歩いていく。
壁に何か文字が刻み込まれてるのを認識したが読めないのでそのままスルーをして進む。
「もうどれだけ歩きましたの?疲れましたわ」
暫く歩いても先が見えないのに流石に疲れが出始めてアフマクは言う。
空腹と疲労も重なってそれに苛立つ
「俺が最奥に辿り着きさえすれば俺が聖騎士になるんだ!そうすればお前も得する!」
そうだ、あの
ガコン、と足を置いた階段が深く押し込まれる。
「なんだ?」
瞬間、階段が斜面になり滑り落ちていく!
「きゃあああ!!??」
「罠かよ!!」
カチ、カチ、カチ!と連続した音が響くと矢の雨が岩の天井から降り注いで一部が突き刺さり激痛が走り、断頭台のギロチンが首を目掛けて降ってきたが何とか回避する!
ようやく滑り終わると同時に大岩が斜面の向こうから転がってくるのを認めて慌てて回避する!
「な、なんなんだここは!」
「きゃああ!!!」
「おい、どうし」
アフマクの全身に白くも巨大な粘液状の
「あつい!痛いい!!」
じゅう、という嫌な音が響くと皮膚が裂けてその中にも入り込んでいき血が溢れる。
「うわぁぁあっ!!」
「助け、だめ、入ってこな、ぁぁぁぁあ!!!!!!!」
ごぷん、という音と共に背後で悶え苦しむアフマクの悲鳴を背にしながら逃げるが壁に当たり激しく殴る。
「出せ、ここからだせぇええ!!」
壁の一部がガコン、と押し込まれたかと思うと同時に足下が無くなり浮遊感。
「うぁぁああ!!」
そのまま下へと落下して顔から地面へと激突する。
全身の激痛をそのままに顔を上げると鉄格子が嵌め込まれていた。
扉を押すと鍵が壊れていたのか簡単に開いた。
こいつはこのままにしておいてもいいだろう、そう考えて探索を開始した。
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