第三十一話 『不帰の峡谷:異変』

現在 主人公カリス視点


嫌な予感がする

少なくとも悪意ががこの下からヒシヒシと感じるのがわかる。

空気も何処か重くて何かが腐ったような臭いが鼻をつく。

「……オルキッソ、死体とか放置されてない?」

可能性として1番に考えられるのは盗掘者、侵入者の死体が放置されている事だ、その次はその残滓という可能性もあるけど聞く。

「基本的にはない、定期的に管理されてるのだけど、どうしたの?」

「何か腐った臭いがする」

「臭いですと?吾には何も臭いませぬが」

「放置された食糧が腐ったら臭うけど、その臭い?」

「ううん、腐った食糧じゃないよこれ。」

「……お待ちを、一体何の臭いを嗅いでおられるので?」

「……え、腐った臭いがするだけで何かはわからないよ。」

同じように嗅ぐ仕草をしたイグニが怪訝そうに質問したのでそう答えた、僕自身それが何なのか全くわからないのだ。

「おかしいわね、臭いなんてしないけど……」

オルキッソも不思議そうにしてる、どうやらこれは僕にしかわからないようだが、ここで何かが起こってるのは間違いない。

……ん?あれ入った時確かにした血の臭いは?

「……血の臭いとかは?」

「……してない。」

「……ここ、どのくらい放置されてたの?」

「数百年くらい、基本的に魔法生物や精霊がここ綺麗にしてるけど、見る?」

「お願い」

実際に見た方が早いかもしれないと思いオルキッソの提案に乗り、奥へと進むことにした。

その際この大広間について聞くと、ここで共存していた者達の食事の場にも使われてたり、外部の人達との会合にも使われていたらしい。

それもこの下にある居住区の図書室にあった記録からわかったことのようだ。

岩をくり抜いて造られた窓の外は向こう側の崖に女神の神像が岩で建造されていたのが見えた。

後ろには大きな白銀の鏡のようなものがその神像の後ろにあり、月の光を反射させてこの大広間を照らしている。

「何とも素晴らしい神像ですな。」

「元々月の女神の信徒の為の神殿の一部らしいから。」

「でも、ここの神殿の神は誓約の神様ですよね?」

「ここでは神様との誓約の為に他の神様に誓願して呼び出して誓約をする、というケースが多かったとあるわ。」

だから歴代の聖騎士達も其々の神様に対する誓いをする為にここを利用していたのだとオルキッソは言った。

……だから歴代の聖騎士達にとっての聖域なんだ。

あの神像は僕の故郷にある神殿にも同じのがあったから月の女神様のだと自然と理解していた。

そっと神様に向かって両手を組んで祈り、オルキッソについて行く。


階段を見つけて下の階層へと入ると月の光が岩で出来た様々な形の家を照らしていた。

至る所に鏡が配置されているらしく、満遍なく光が当たるようになってるようだ。

おそらくは、日光がないと生活ができない人間の為の居住階層なのだろう。

その家の間に何かが蠢くのが見えるのと同時に黒く渦巻く何かが存在してるのが見えた。

そして、上で感じた悪臭が強くなるのも感じて嫌な予感が強まった。

家の間を抜けて小さな広間のようなところに出る、そこには床を這いずる人間の大人と同じくらいの大きさの白い粘液状の何かがいた。

悪臭が更に強くなる、黒い悪意の瘴気がその中に渦巻いてるのが見えた。

「この子がその魔法生物のひとつ、古代魔法で造られたピュアスライムよ。」

「つまりこれと似たようなものが管理してると言うことですな、便利なものですな。」

「この子の場合は雑食だから重宝されてたみたい、こういうのがいるから、魔法ギルドで管理されてるというのもある。」

「それは大変ですなぁ」

2人が会話する中、オルキッソの背後にいたそのスライムは大きくなり触腕を生やすのが見えるのと同時にオルキッソを突き飛ばすようにして横に跳ぶ!

じゅ、と服を掠めて溶かす音が聞こえ、2人で倒れ込む。

「な、なに!?」

「カリス殿!」

ピュアスライムが大きく唸りながら触腕を複数生やして形を変えていく。

「……オルキッソ、雑食性って言ってたけど僕らのようなものも対象?」

「対象外!なんでこんな事が」

突然の出来事にオルキッソは動揺している。

背中の長剣を抜き放ち構えるとイグニも不思議な構えをする。

「ひとまずこれを何とかしないといけませんが、よろしいですな?アフェク殿」

「っ、え、ええ、いいわ」

オルキッソも立ち上がり腰にさした宝石の付いた杖を取り出し力ある魔法の言葉フサルクを唱えると瞬間オルキッソと同じくらいの長さに変化した。

スライムもそれを感じ取ったのか触腕を振り回しながら大きく跳んだ!

「避けて!」

そう叫ぶのと同時に後方へ大きく跳躍する。

すると、先ほどまでの僕たちがいた場所がスライムが落ちてじゅう、という嫌な音を響かせる。

2人も何とか回避できたようで構えを崩してない。

……これ、物理攻撃通るかな?

あの粘液状の身体には物理的な力は通らなそうに見える、とすると魔法しかないのだが。

「オルキッソ、あのスライムに魔法は?」

「……属性にもよるけど基本的に炎が1番、物理でも方法はある。」

「どんな?」

「核を壊す事」

「核ですと?」

「普通の魔物モンスターにはあまりないけれど、魔法生物は大体核がある、それをつくのも常套手段よ。」

「その核がある場所は分かりますかな?」

「目には見えない、常に不可視状態になってる!」

「……出来るかもしれない」

2人は驚くように僕をみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る