第二十九話 『不帰の峡谷:共生の証』

不帰の峡谷へと辿り着いた

でも、目の前に見えるのは沢山の岩山で埋め尽くされた荒涼とした荒地だ。

「………入り口、どこ?」

この中から見つけると言うのは非常に骨が折れそうだ。

日も既に落ちていて軽度の暗闇……人間にとっては闇の世界が月光で照らし出されている。

「これは中々に、厳しいですな」

「貴方のオトモダチのおかげで問題ないわ」

……あ、なんだか不機嫌そう

オルキッソはあの小人族から貰った地図を広げて、挟まっていたメモを取り出す。

「全部で十数個の入り口があって、そのうち1個は正解の道よ。」

「1個だけ、ですか?」

「ええ、まあ侵入者避けの罠よ、そこまで酷くはないと思うけど。」

「……よもやまさかと思いますが、地竜グラウンドドラゴンに押しつぶされるとか、竜の吐息ドラゴンブレスの罠があるのでは?」

「まさか」

流石にそれはない、とオルキッソは告げる

「そもそもここに来るのは信徒か呼ばれた者が多いからそんなのあったら逆に危険でしょう。」

「それもそうですな。」

「そんな罠とか、あるの?」

「父から聞いた話ではありますが、踏んだら竜の吐息の罠で黒焦げになった者を見たことあるとの事でしたのでな。」

「……すぐ死ねるだけまだ有情な気がする」

「カリス殿?」

主にファトゥス達によって普通の人間よりはかなり丈夫だからと言うことで罠に突き飛ばされたりして罠解除に使われて死にかけたことがあるだけに一瞬で死ねるのはまだ有情な気がする。

「カリス、それは有情でもない上に普通じゃないから」

「……そう?」

「兎に角入り口を見つけて行きませんとな、でなければ間に合いませんぞ。」

「そうだね、オルキッソ、お願い。」

「……分かった」

なんとも言えない表情を浮かべるオルキッソに早速案内してもらうことになった。

「そういえば、誓約の神殿ってどうしてこんな所にあるの?」

「神代の頃、原初の聖騎士が後の世代の為に造らせたから、と聞いてる。」

「わざわざこのような峡谷に造るとは、どのような方達だったのでしょうなぁ」

「数百年前まで住んでいた人達は何処かへと消えたらしいけど、少なくとも人間はいたみたい。」

地図を参考にして入り口を探す。

ひとつひとつ確認しながら歩いていくと2人分の足跡を見つけたので2人を呼ぶ。

「ねえ!こっちに足跡が!」

「なんと、しかも最近ついたもののようですな」

「あの大きい石碑の下にまで続いてる、行かないと」

「待ちなさい」

「オルキッソ?なんで」

「この道は罠がある方、それに今から行っても追いつけないわ。」

「じゃあもっと早く行ける入り口はどこ?」

「少なくとも、貴方には分かる印がある」

「僕には?」

オルキッソに止められて不満そうにするが、僕には分かる印があると聞いて首を傾げ、ついていく。

しばらく歩いて辿り着いたのは大きく亀裂の走った石碑が乱立しており、中央に新月を模したような黒曜石が嵌め込まれた石碑が鎮座している。

「なんとも立派な石碑、あちらとは違いなにが違うのか吾にはなんとも」

「……これ、僕達の、ダークエルフの印だ」

「なんですと?」

黒曜石に触れるとヒンヤリと冷たい。

石碑にこうして黒曜石を嵌め込んで地上世界との境目を表し、ダークエルフの生活領域であると示す為のものだ。

確か数百年前にいなくなったと聞いたけど、まさか。

「この下で、ダークエルフと人間が共存していたんだ。」

その黒曜石の横には太陽を模したような紋章が刻み込まれている、間違いない、これは人間とダークエルフが共存している所で使われる様式だ。

「でも、どうして」

数百年前すこしまえの事だから知らないけれど少なくとも彼らにとって何かしらの不都合があったようね。」

「アフェク殿?数百年前は少し前ではありませんぞ?」

イグニのツッコミを聞き流しつつ石碑の表面をなぞっていき、新月と太陽が刻み込まれた石畳に触れる。

途端、亀裂が走ったかと思うとゆっくりと口を開ける。

奥から臭うのは錆びた鉄の臭いだ。

「……奥から血の臭いがする。」

「この聖域に足を踏み入れて死んだ者達もいるでしょう。それのせいもあるわね。」

「中々に物騒な聖域ですな?」

「侵入者避けの罠にかかっても帰らなければ死ぬわよ」

普通そうでしょ、と続けるオルキッソに幼い頃にダークエルフ達が幾つかの入り口に勝手に入り更に奥へと進むと酷くなる罠を仕掛けていたのを思い出してそれはそうだと同意した。

「幼い頃に、同じような罠を仕掛けていたのを見たからそうだよね。」

「物騒な故郷ですな。」

「私達ハイエルフの故郷はこれとは違うわよ。」

「その話を聴きたくもありますが……」

「急ごう、この先にいる。」

そう言うと2人は頷いて、あとに続く。

ゆっくりと岩をくり抜いて加工された階段を降りていく。

岩の壁には松明を置くときに使う為にくり抜かれた痕跡もあったけど、数百年も使われてないからか煤の跡さえも残ってない。

暗闇でも見える僕達にとっては必要ない代物だからここに確かに地上世界の人間達が共に存在していたと証明していた。

しばらく降りていくと広間へと出た。

円形の大広間で床の石畳には月が満ち欠けする様子が描かれており、半円形の天井は太陽が中心にすえられておりそれが降り注ぐという光景が描かれていた。

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