第二十八話 『不帰の峡谷へ』

オルキッソの提案で準備する事にした僕達は道具屋に来ていた。

「ここで何を買うの?」

「……まず、替えの服を用意」

「え?」

「それと、水中呼吸ウォルブレズの指輪も人数分、これは私が買う。」

「えっと、峡谷ってそんなのが必要、なんですか?」

「干潮の時間なら基本的に不要、けれど道順によってはこれが役に立つ」

「か、かんちょう?」

「……あとは向こうでいいでしょう」

「アフェク殿、カリス殿がおいていかれておりますぞ」

「しまった、謝るわ」

オルキッソがずんずんと話をしながら進めるのでちょっとついていけなかったのを見かねたイグニが助け舟を出してくれた。

「い、いえ、でも知らないので沢山教えてくれると嬉しいです。」

「よかった、聞きたい事はある?」

「えっと、必要なのは他にある?」

「神代からある神殿だからブーツは欲しいところだけど……あなた達使ってないでしょう」

僕達の素足を見てオルキッソは言った、実際長年の奴隷生活の中で一度もブーツを履かされた事はない。

「まあ、竜人用のは流石にないでしょうなあ、多少の荒地なら問題ありませんが……カリス殿は要らないので?」

「履いた事ないけど、この方が動きやすいからこれでいいかなって」

「竜人のは分かるとして、今までそれだったの?」

「うん、今まで熱い石の上や沼の中でも歩かされてきたし、慣れた。あれ、どうしたの?」

「……動きやすいブーツを使いなさい、選んでもらうから」

「?」

「カリス殿、もうそれはしなくても大丈夫ですからな。」

2人とも深刻そうな雰囲気を出してどうしたんだろう?と思ったが色々選んで軽いブーツと他に必要なものを購入したのだった。


西門から街の外へと出た

馬車と馬はない為徒歩で行く必要がある

というのも、馬車も馬も用意するにはお金がなかったからというのが大きい。

そうして暫くして日も傾き始めた頃イグニが話を切り出す

「すみませぬな、手持ちがもうなくて」

「お金ってすごくかかるんだね」

「最低限の用意はできた、問題ないわ」

「水中呼吸の指輪もだけど水薬とか買ってたよね?」

「要救助対象がいるのなら必ず必要がある。」

あの後癒しの水薬ヒールポーションも数個購入したり、魔法ギルドに立ち寄った際にオルキッソが沢山のルーンが刻み込まれた板状の物を貰ってきていたのだ。

「魔法ギルドで貰ったそれ、なに?」

「魔法を使う際の触媒と……使った方が早いわね」

幾つかのルーンが刻み込まれた金属製の板のひとつを取り出してオルキッソは唱えた。

「《光よ》」

文字がオルキッソの声に反応して青い光を発するとそれが離れて球となり辺りを明るく照らし出す。

魔力を消費してるのかな?と思い聞く

「これ、魔力を使ってるの?あまり使いすぎるといざという時危なくない?」

オルキッソは問題ないと言う

「これは力ある魔法の言葉フサルクが刻み込まれた魔道具、魔導士ウィザードなら幾らでも使える代物よ」

「つまり、自分の魔力は消費しない?」

「ええ、魔導士以外ではこれを使う事は出来ないわ」

「ほう、これが話に聞いた魔導士達の力ある魔法の言葉ですか、吾も実際に見るのは初めてですな」

「魔導士が戦う前に魔力切れスロットロストで動けなくなればそれだけでも生存確率が低くなるから重用するわよ?」

「僕たちにも使えたらいいんだけど」

「……少なくとも魔導士で専門家でないと使えないわ、それに貴方はダークエルフ特有の魔法は使えないの?」

「学ぶ前にこんな状況になったからね、だから教えてくれると嬉しいんだけど……?」

「……あれは私には使えない上に専門外だから無理ね、そもそもアレは……」

「オルキッソ?」

オルキッソは不意に黙り僕を見つめる。

「そういえば貴方、深夜に会ったとか言ってたけど、バレなかったの?」

「え?う、うん、吟遊詩人さんには何も言われなかったから気付いてないと思ったけど……?」

「……何か特別な事はしなかった?」

「特別?んー……特にしてなかったよ?いつも通りのことしてた。」

いつも通り、思い出の中の父の舞を真似て踊っただけ。

いつも通り神へと捧げる祈りを捧げただけ、それらは別に特別じゃないし、いつも通りの事であったからだ。

「……そう、今はいいわ。村に着いたから」

「?、うん」

辿り着いた村は聞いた通りの閑散とした村だ。

簡素な宿の看板と道具屋に酒樽(イグニから聞いた)の看板、酒場が存在している。

ここでどうするのかな?と思っていると黒いフードを被った小さい人が目の前にやってきてイグニに怒鳴りはじめる。

「遅いぞ!人にやらせといて!」

「おおこれはこれは申し訳ありませんな、なにぶん馬は吾の体重に耐えられませんでなぁ、モンスターの餌になりかねないので」

「だれ?」

「吾の友人の小人族ハーフノームです、ちょっとした頼み事をしておりまして。」

「ちょっとした事じゃねえけどな!!ったく、ほらよ」

小人族の男は懐から巻物を取り出し放り投げたので慌てて取ろうとして転びそうになるがオルキッソに支えられて、巻物もオルキッソが受け取った。

「少し前に2人組がここを通って行った、急ぐなら早くしろ。俺は他にする事がある。」

小人族の男は手短に告げると風のように走り去って消えた。

2人組と聞いて、オルシアと吟遊詩人さんを襲った犯人がもう峡谷内にいるのかと思うと嫌な予感が膨らみ始める。

オルキッソは巻物を広げ眉を顰めてイグニに言う。

「これ、峡谷内部の地図じゃない、描いたばかりのようだけど、まさか」

「誤解しないで頂きたい、誓約の神殿に関する情報がなかったので頼んだだけですぞ。」

「……神殿までは踏み込んではないみたいだからいいけど……」

「これもカリス殿の為です」

「……分かった、いいとしましょう」

「?えっと、いけるの?」

「ええ、行きましょう」

不思議そうにしながら僕たちは不帰の峡谷への入り口を地図を参考にしながら探すことになった。

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