第二十六話 『策謀 Ⅱ 冒険者ファトゥスside視点』
酒場でアフマクと共に1階の奥の席に座る。
昼間から酒を飲んでるのは主に冒険者が多いからかこちらにはあまり気にしていない様子だ。
マスターに強いアルコールをふたつと適当なものを頼んで深く息を吐いた。
「それで、どうだった?」
「色々と聞かれましたが、何とか聞きだせましたわ」
どこか疲弊した様子でアフマクは続ける。
「何があったんだお前」
「……あの迷いの森の村の司祭とのことで聞かれましたの」
「そういえばお前、あの司祭のことでいやそうな顔してたな」
「以前にも言いましたけれど、あの修行は中々にきつかったですわ」
「修行は終えたんだろ?」
「……」
「……おい?」
目をそらしてこちらの追及に無言で通すアフマクに嫌な予感がして問いただす。
「神官長には免許皆伝だと告げましたわ」
「つまりは途中で投げ出したんじゃねえか!」
「あの司祭の修行で根を上げないで出来るのなんていませんわ!」
「お前の妹弟子はどうなんだ!」
「知りませんわ!あんなのを完遂できるなんて思いもよりませんわ!」
「じゃあ半人前のままじゃねえか!」
「それでも今こうしてここまでこれたんですの!むしろ誇るべきですわ!」
「ぐ……」
こうしてここまでこれたのも半人前とはいえアフマクの
半人前とはいえ俺たちのパーティの要として成り立っていたのはある意味では奇跡だろう。
そういえば癒しと解呪に障壁くらいしか使ったところを見たことがない気がする。
「……神殿については、どうだ?」
「神殿についてですけど、どうやら誓約の神殿と今は呼ばれてるそうですの」
「まあ、長い時間で名前が変わるなんてのはよくあるとは聞いたことはあるな」
世界史でも何度も名前が変わる地域や国、神の名前も変わったりするのだからそれはいいとしよう。
「それで、その誓約の神殿はどこにあるんだ」
「……それが一番の難易度かもしれませんわ」
「どういうことだ」
「ここから西の門から半日行ったところに峡谷があるんですの、その最深部に誓約の神殿があるそうですわ」
「……おいまて、あの峡谷って」
「別名、
「不帰の神殿じゃねえか!」
この地域のどこかに不帰の神殿があるらしいというのは聞いたことがあったがまさかこんなところにあるとは!
「じゃあ不帰の神殿へ行けばいいのか」
「そう簡単な話じゃないですの」
「どういうことだ」
「なんでも魔法ギルドによって管理されているらしいですの」
「あぁ?なんで魔法ギルドが管理してんだ」
「詳細まではわかりませんでしたわ」
「ちっ、めんどくせえな」
「でも、あの聖剣さえあればきっとファトゥス様には効きませんわ!」
「そうだな、だがどうやって奪うか……」
一番に思いつくのは寝込みを襲うところだろうが、あの
馬小屋とかでならばまだやりやすいがもう鎖でつながれていないため難易度が高まる。
悩んでいても仕方ないのでとりあえずアフマクと共に酒場を出た。
気づけばもう夕方になっていた、薄い暗闇の中であの
だがこのままいけばすぐに見つかってしまい警戒されてしまうだろう。
どうするか、と考えていたら呼ぶ声が聞こえてそちらを見ると路地裏の影になったところに男がいた。
よく見れば父の執事をしている男だった。
「こんばんはファトゥスお坊ちゃま」
「ファトゥス様の執事様、こんばんはですわ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら執事は挨拶をするのに合わせてアフマクも挨拶をする。
「なんでこんなところにいるんだ。」
「旦那様より、息子の力になってやれとの仰せです。」
「なんだ、金か?それなら助かるが」
しかし差し出してきたのは大きな箱だ、中を見てみるといくつかの
「これは緊急用の転移魔法が込められた巻物、こちらは投げれば数分は視界を奪う煙を巻く薬瓶、そしてこれは準備する必要はありますが、配置して
「随分と多いな」
「それだけ期待されているという事ですよ、では私はこれで失礼します。」
「あ、おい!」
執事は箱を手渡すとそう言って消えた、相変わらずの男だ。
「どうしますの?それ」
「……やるしかないだろ、配置するぞ手伝え。」
「わかりましたわ」
購入しておいた街の地図を見ながら人通りの少ない所を中心にルーンが刻み込まれた金属球を配置していく。
途中であの
その際、あの女神官に聖剣を渡すのが見えた、これはチャンスだ。
アフマクと共に一度宿屋へと戻り簡単に計画を話す。
「深夜だ、その際に聖剣を奪う」
「わかりましたわ、あの聖剣はファトゥス様の為にありますもの」
満月が昇る、深夜に広場を横切り宿屋へと忍び込む
ギ、ギ、と古い階段を踏み締めるたびに音が立てられるが気にしてはいられない、扉を開けて確認するという事を繰り返していくとあの女神官が寝ているのが見えた。
「よし、あの聖剣をどこかに隠してるはずだ探せ」
小声でそう指示すればアフマクは無言で頷き探し始めるとすぐに声が聞こえる。
「かりすさま、?」
ベッドから身を起こした女神官が聖剣を大事そうに抱き抱えてるのが見えた。
……まずい、声を上げられる前に!
「よこせ!!」
「ふぇ、きゃ!」
掴もうとした手は空を切る、咄嗟に躱されたのだ。
「な、あなた達、何を!」
「うるせぇ!黙ってよこせ!!!」
逃げようとする女神官を押さえつけて聖剣を奪おうと掴むが離さない。
「ダメです!これは、カリス様の!!」
「黙れ黙れ黙れ寄越せヨコセよこせぇ!!!!!」」
女神官の抵抗する腕を、腹を、顔を殴るがそれでも離そうとしない女神官に苛立つ。
「サッサとそれを離すのですわ!!」
メイスが振るわれ、鈍い音が響く、女神官の頭を腕を打ち据え血が溢れる。
そんな時どしどしと外の通路から重い足音が聞こえる、開いたままの扉の向こうからあの竜人の声が響いた。
「何をしてる貴様ら!!!」
「ちっ、ずらかるぞ!」
仕方ないとばかりに鞘から聖剣本体だけを引き抜き窓から2人で飛び降りる。
その際貰った煙の爆薬を投げて相手の視界を奪った。
何とか軟着陸して広場を走ってるとまた誰かが立ちはだかった、あの吟遊詩人だ。
「あなた達、何をしてるの?」
怪訝そうに俺たちを見るその女吟遊詩人の目は俺の手に握られた聖剣を見てる。
「うるせぇ!!」
思わず頭を腰に佩いた長剣の鞘で叩いて気絶させた。
「ちょ、どうしますの!?」
「兎に角コイツを何かに詰め込め!持っていけばいい!そうすれば証拠は残らねえ!」
「つまりあの遺跡に!?」
「こんなの見つかったら終わりだぞ!」
それに驚きながらもアフマクはその吟遊詩人を袋に詰め込んで2人で西の門を潜り抜け先を急いだ。
門番には急ぎの仕事だと言って通してもらった。
あと少しで俺の輝かしい英雄譚が始まる!!!
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