第二十三話 『満月の下の再会』
人通りのない街路を歩く
昼間は多種族の人たちがいたのに夜になると火が消えたようにいない。
ずっと、外の小屋で繋がれていた僕にとっては新鮮な気分だ。
月の光も相まって、噴水のある広場は幼い頃に父に連れていって貰った神殿の雰囲気に似ていた。
「……よし、やろう」
記憶に残る父の剣舞を真似て剣を持ってる想定で何度も練習した動きを舞う。
鎖によって動きが制限されてない分動きやすい、しばらく没頭してると拍手が聞こえてきて、思わず飛び退り目深に被ったフードを取れないように抑えながらそちらを見る。あ
「あ、ごめんね、驚かせるつもりじゃなかったんだけど。」
「昼間の
「とても綺麗な舞だったよ、まるで妖精のようねお嬢さん」
警戒を解いて噴水の淵に座るとその人は話しかけきた
「今の踊りなに?どんなのかな?」
「む、昔のその、故郷の……」
今の僕にとってはこれが残った僅かな故郷のよすがだからせめてと思ってコッソリとやる事にしてたけどまさか見られてたなんて。
「そうなんだ、もしかして見たらまずいやつだった?それだったらごめんね?」
「いえ、でも……」
どう答えようか迷いつつ、というか昼間に言われた事を指摘する事にする。
「その、僕男なのでお嬢さんは適切じゃ、ないです……」
「え、そうなの!?ごめん!なんかすごく細くて、フードも目深に被ってたから恥ずかしがり屋さんなのかな?と思ってた!」
両手をパン!と合わせて深く謝る吟遊詩人にむしろ申し訳なくなる。
昼間の静かに歌っていた様子とは打って変わって矢継ぎ早に話すのについていけない、なんか既視感が。
「え、えっと、まあ、大丈夫、です」
「そう?じゃあ……妖精さんでもいいかな?」
「……好きに呼んでください。」
名前を教えようかと悩んだけど間違ってはないのでそのままに、というか1の質問に10の答えが返ってきそうだ。
すると、よかったと吟遊詩人さんは隣に座る……まって、なんで自然と横に座るのこの人?
「昼間の子だよね、いつもこういうことしてるの?」
「は、はい、1人でですけど。」
「そっか、私もよくこうして1人になって詩を作るんだ。」
「誰かと来てるんですか?」
「ええ、夫と一緒に世界を回ってるの。ここには数日前からいるけどあなたは?」
「えっと……今日着いたばかりです。」
そこまで満月が傾いてないのを見てまだ日が変わってないと感覚的に理解してそう答えた。
「そうなんだ、英雄譚好きなんだね妖精さんは」
「……、僕の唯一の支えのひとつでしたから」
「支えかー、わかるわかる」
まずい、このままだと身の上話を延々と聞かされそうだ、どうにかして離れよう。
「懐かしいなー、10年くらい前に見た神殿の舞みたいで、おじいちゃんだったらどんな詩を作ったんだろ」
「……10年前?」
「うん、そこでできた小さな友達と一緒におじいちゃんの歌う英雄譚を聞くのが好きだったんだ。」
楽しそうに昔を懐かしむ吟遊詩人さんの台詞に引っかかり更に深く聞き出す。
「そのおじいさんはどうしたんですか?」
「小さな友達がいなくなって数日後に病気で亡くなっちゃった、元々長くなかったんだけどね。」
「……それは、聞いてごめんなさい」
「もう10年だから割り切ってるよ、でもね、あの子がいるとおじいちゃんも元気になったから不思議な子だったよ」
「そうですか、もしかして吟遊詩人になったのもそれが理由ですか?」
もしかしたらと思い切り出す、でも違うかもしれない。
「半分正解」
「半分?」
「半分は遺言でね、病床で約束したんだよ。」
色々と心当たりがある過去の話でまさかとは思ったけど、あの老吟遊詩人だとしたら、この人はその孫娘だったのだろうか、どんな遺言だろう?
恨み言ではなければいいけど、と少し不安になる。
「小さな英雄に生かしてくれてありがとうと伝えてくれ。って、それもあってダークエルフの子供を探す旅に出たんだ。」
「………」
「夫にはそんなダークエルフいるわけないと否定されたし、一般的に邪悪だと言われてるとかでこの旅には反対されたけどね。」
「見つからないかもしれないのにどうして」
「約束したからね、今度はおじいちゃんの代わりにその子の英雄譚を作って詩って広めるのが私の夢なの。」
約束、約束……その台詞に10年前の老吟遊詩人の約束を思い出す、そうかこの人はそうなんだ。
「でも、その旅も明日で終わり、8年目の満月まで見つからなければ夫の故郷に戻る事を約束したの、会いたいなぁ。」
どこか悔しくも寂しそうにする吟遊詩人さんにどう答えようかと思案してると視界の端で何かが動いた。
「……?」
目を凝らして見ると2人組の人影が急ぎ足で去っていく、あの方向はみんなが寝ているところだ。
……嫌な予感がする。
「どうしたの?妖精さん?」
「……少し、急用が出来ました。」
「何かあったの?」
「……大丈夫です、でも、吟遊詩人さんの願いはきっと叶います。保証します。」
「え?」
吟遊詩人さんの不思議そうな声に応える事もなく影の行った先、宿屋へと走った。
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