第二十二話 『理想/理由/夢/情景』

魔法ギルドから出るとバッタリとイグニとかちあった。

「カリス殿、情報は得られましたかな?」

「……」

「カリス殿?」

「……あ、うん。得られたよ」

イグニに話しかけられてるのに気付いて返す。

「何かありましたかな?」

「まず地固めをしてからまたこいだそうです、むー」

「まあそう急ぐモノではないでしょう、まずは冒険者達の依頼クエストを受けて経験を積みましょう。」

「……うん、がんばる。」

僕達は冒険者ギルドへと赴くために歩き出す。

広場を横切ると吟遊詩人達の歌が聴こえてきた。

「……そういえば2人はどんな英雄譚が好きなの?」

昼に聞いたあの英雄譚を歌ったあの吟遊詩人の女の人の事を思い出して問う。

ギルドで聞こうとして遮られてしまったからだ。

「カリス殿はダークエルフの英雄譚でしたな、吾は武僧モンクが武功を挙げて武龍ドラゴンとなる英雄譚ですな。」

「もしかして、戦士ファイターとかじゃなくて武僧なのって武龍ドラゴンになるため?」

「そうてすとも、武を吾が祖竜に捧げ、到達する事こそ吾が望みなれば。」

かぎ爪のついた両手を組んで祈るその姿はギルドで見たあの猛々しさも合わさってすごく頼もしそうに見えた。

「私は聖騎士様の英雄譚です!」

「そういえばオルシアには最初にいきなり聖騎士様って呼ばれてたけど、どうして?」

「幼い頃から吟遊詩人様の中で光り輝く剣を持って仲間達と共に冒険する英雄譚を聞いたからです!」

「聖騎士の英雄譚と僕のってあまり繋がらないような気がするけど」

「あの時のカリス様の放った光り輝く剣が悪霊レイスを貫いたのを見た時、光り輝く剣を持って闇を切り払ったという聖騎士様の英雄譚そのものでした!」

興奮気味に話すオルシアは楽しそうだ。

「僕は英雄なんて器じゃないよ」

現に受け身で聖騎士になりたいと言った僕は自分の芯がよく分かってない。

何であのダークエルフの英雄のようになりたいと思ったのか突き詰めていこうとしても、もやの中にバラバラになってしまったかのようではっきりとしない。

ただ奴隷としての日々から逃避して縋っていたかっただけの情景だったのかもしれないのだ。

「そんな事ありません!きっとカリス様のお力は聖騎士様としての」

「それはあの騎士に言われたから……ごめん今はまだ考えさせて。」

そう言うとオルシアはまだ言いたそうにしていたが押し黙った。


冒険者ギルドにてイグニに教えられた依頼掲示板クエストボードを見たがもうなかったため、宿屋というのを探す事にした。

オルシアに案内された場所はそれなりに大きな質素な宿屋だ。

2人の分だけを頼もうとしたらイグニに突っ込まれてオルシアが流れるように3人分で取ったようだ。

部屋に赴く前にオルシアを呼び止めた。

「オルシア、これを預かって欲しいんだ。」

「カリス様、これ!?」

「オルシアだから持っていて欲しいんだ。」

「で、ですが」

「大事だから、考えたいんだ。これがあると甘えちゃいそうだから。」

「……分かりました、その代わり明日すぐお返ししますからね!」

「うん、ありがとう。」

オルシアに聖剣を預かってもらい、イグニと共に部屋へと入る。

「よろしかったのですかな?」

「考える時間が欲しかったから、いいんだ。」

「それでしたら無理には言いません、ごゆっくりと休んでください。」

そう言ってイグニはベッドに横になり眠りについたようだ。

武器の手入れをしてから床に座って目を閉じ考え込む。

様々な考えが湧き上がってきては弾けてはまとまらないまま、意識は落ちる。


幼い夢を見ていた

まだ、地下世界スヴァルタルグラウンドで暮らしていた頃だ。

父の踊るような剣舞を真似ては失敗して、母は家を守る為に様々な事を考え、友達と沢山のことを学んで、充実した毎日を送っていた。

地上世界の太陽の光はとても心地よくて、みんなは来れなかったけど老人の吟遊詩人が語る英雄譚が好きでよく通っていた。

「お前のおかげでワシはまだまだ元気でいられる、ありがとう」

「良かった!今度は他の英雄譚も歌ってくれる?」

「おお、いいとも。我が小さな英雄へ捧げようぞ」

「 僕も英雄になれるの?」

「なれるとも、お前は自分の父だけでなく、ワシも救ってくれたのだから」

よく分からなくて、首を傾げる。

その老吟遊詩人は柔和な笑みを浮かべながら僕の頭を撫でてくれた。

「さあ、今度はお前の大好きな英雄譚の詩を歌おう、お前もきなさい」

隅で交易共通語で書かれた英雄譚の本を読んでいた女の人が楽しそうにそれに応えて駆け寄って隣に座った。

「では語ろうか、これはとある地下世界に住まうダークエルフの物語。」

老吟遊詩人はリュートを弾き語り出す。

大好きな英雄の物語を。


夢から醒めるとまだ夜で、窓の外を眺めると満月の光が夜の街を照らしていた。

ほんの少し前の夢を見るのはどれくらいぶりだろう?

イグニの方は深く寝ているようで穏やかな寝息が聞こえる。

「……少しだけ外歩こう」

今はただ1人になって考えたい。

装備だけを整え、フードを目深に被って起こさないように宿の外へと足を踏み出した。

冷たい空気が全身を包み込む、動くものがほとんどない月光に照らし出された街路を僕は歩んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る