第二十話 『情報収集:奴隷の枷 イグニ視点side』

カリスと別れて情報収集 イグニ視点


誓約の神殿について調べるのに効率的にした方がいいのではないか?と提案して離れて向かった先は酒場だ。

吾は酒場で待つ友人……情報屋に会いにきたのだ。

だがその前に色々確認しなくてはならない事が出来た。

「あの男、ファトゥスとか言ったか……元主人とか言っていたが」

それにしても冒険者という名はあまりにも邪悪だ。

あれではもはや悪意の権化という他ないではないか。


酒場の扉を押し開けば喧騒の渦だ。

今はまだ昼だが冒険から帰ってきたばかりのもの達が入り浸っている事が多い。

「マスター、待ち人がいるはずだが。小人ハーフノームのやつだ。」

「上の奥にいるよ」

「ありがとうマスター、ああ、後で豚の丸焼きを頼む」

マスターにお礼を言いつつ注文して古い階段を上る。

酒場の奥へと赴くとそこには喧騒から離れた隅っこの席だ。

周りには誰もいないのと喧騒のおかげで声は聞き取りづらいだろう。

そこには子供と同じ身長の小柄な男がフードを目深に被って待っていた。

「待たせた」

「時間からおよそ5分の遅れ。」

「相変わらず時間に厳しいですな。」

「お前が気にしなさすぎ」

「はっはっは」

口を尖らせながら呟く小人のセリフを気にせずに椅子を履いて尻尾を差し込むようにして座ると、椅子がギシッという嫌な音を立てて沈み込む。

竜人の体重ではこの椅子はギリギリのようだ。

「それで、知りたい事があるんだろ?」

「ええ、盗賊ギルドに所属している貴方なら何かご存知かと思いまして。」

「知らないもんは知らないぞ?」

「またご謙遜を」

「ああもうそれでいいから」

小人と呼ばれた男はめんどくさそうにさっさとしろと促したので手紙を出す。

「それは?」

「吾が父の友人である司祭からの手紙だ」

「まためんどくさいもんを……」

小人の男は嫌そうにそれを受け取った

「まあまあ、ダークエルフ達のことはご存じの通りでしょう?」

「普通に誰でも知ってるだろ、日光の下で活動ができない種族だ、流石にさっき冒険者ギルドで現れたなんてのは眉唾な気もするが」

「さすが耳がお早い、そのダークエルフは吾の仲間です。」

「は?」

「ですから、その日光の下で活動しているダークエルフ、カリス殿は吾の仲間です。」

「本気で言って……いや、お前がそういうならそうなんだろうな。」

耳を疑ったようだが信じてくれてありがたい、本来なら太陽がまだ出てるのにいるというのはあり得ないからだ。

それほどまでに希少なのだ、カリス殿は。

「………なあ」

「どうされました?」

「俺はなんで死刑囚のを見せられてるんだ?」

手紙を読んだ男は眉を顰めて手紙を広げる。

そこには8〜10年ほどの痕跡のある新旧含めた全身の傷の詳細、栄養状態の悪さが目立つ痩せぎすの体型と味覚障害について。

更には両手足と首輪の内側にある身体の擦れ跡が化膿していた痕跡まであるとまで書かれていたのだ。

「いえ、元奴隷です。」

「いやおかしいだろこれ、どう見ても死刑囚以下の扱いじゃねえか、しかもこの枷、魔法までかけてるとかやべえだろ。」

「それがつい最近まで行われていたからこそ、貴方に頼みたいのです。」

「この元奴隷の枷をはずせってんなら無理だぞ、無理に外せば四肢が腐る上に首のは多分猛毒を流し込むやつだ。」

「さすがにそれは魔法ギルドの方でも診ていただくので大丈夫ですよ。」

「最初にそれを言え。」

「それは申し訳ない」

そんな時酒場の扉が勢いよく蹴り開けられる音が響いたので見てみれば階下であの冒険者のファトゥスと神官の女、アフマクだったか、いた。

「何だあいつ、態度悪い」

小人も流石の身のこなしで足音も立てずに腰のショートソードに手をかけながらいつのまにか傍に這い寄っていた。

「あれがその元主人であるファトゥスという冒険者達ですな、どうやら先ほどの騒ぎで気が立っている様子。」

「そういや、10年以上前にいい儲け話とかでイディオのやつが冒険者ギルドに行く事にしたとか聞いたが……あれか?」

「ええ、おそらくは。」

暗に10年前からずっとあの冒険者達と共に行動していてなおかつどこかで死亡したと示す。

「………ダークエルフを10年も虐げ続けて悦に入る胸糞なやつと一緒になったんだ、自業自得だ。」

「その胸糞な元主人について、頼みたいのです。」

「あんなのを暗殺とかさせるなよ?」

俺としてもあんなのを暗殺して名を上げたくないと嫌そうに彼は言った。

「いえ、あの元主人のファトゥスについて、その家についても調べ上げていただきたい」

「それをどうする?」

「ギルドで然るべき処置を」

「証拠にはなるだろうが、あいつ多分貴族の出だぞ」

「握りつぶされる可能性はあるでしょうが、ギルドの方でも何かしら掴んでる様子、ただではすみますまい。」

ギルドで触ったあの記録水晶は対象の記憶の詳細な精査を行う為の魔道具マジックアイテムだ。

ここ最近の知名度の上昇はいいとしても半年毎に河岸を変えて活動している事を鑑みても、コロコロと所属を変えるような冒険者は信用が出来ないだろう。

「まあ、それならいいけどよ。」

「おそらくあの元主人は妨害してくるやもしれませんが、その時はお願いします。」

「えぇ……」

お前が対処できるだろという視線を無視しつつテーブルへ戻る。

「あ、それとついでなのですが誓約の神殿についてもお調べいただきたい。」

「そっちが本命だろ!!」

ついでで言うんじゃねえ!!というツッコミが冴え渡る酒場の一幕であった。

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