第十六話 『冒険者ギルド:失敗 冒険者ファトゥス視点side』

カリス達が着いた日の出来事 冒険者ファトゥス視点


あの遺跡からほぼ強行軍にも近い形で逃げ出してから数日、俺たちは街の宿屋にいた。

これから冒険者ギルドへ行くにしても俺達は仲間を1人失った上に逃げ出してしまった。

「これからどうしますの?」

「とにかく、金が必要だ、あの穢れた妖精デルヴ風情が……!」

本来ならば俺が聖騎士として解決していれば今頃は英雄として褒め称えられていたのに、あの奴隷が邪魔をした!

あの剣も既に奪われているだろう、奪い返さなければならない!

「私達は既に失敗をしてますわ、自動書記録石オートロガーに記録されてますのよ?」

「とにかくでっち上げでもなんでも良い、偽装させる。」

冒険者達の冒険に欠かせない自動書記録石は不正防止のための魔石の付いたアクセサリーだ。

凡ゆる行動を記録してため込んだのを冒険記録アドベンチャーログとして報告の際にギルドへ提出する義務がある。

だが、それにも脆弱性というのは存在する。

「またアレに金を払うんですの?」

「他に方法ないだろ!お前はあるのか!」

アフマクは口をつぐんで黙り込んだ、とにかく失敗した事実を隠蔽してでも金を貰って次の冒険に備えなくてはならない!

あわよくばあの奴隷を殺してでも聖剣を奪わなくては!!

そんな時扉が不規則なリズムでノックされる、来たようだ。

扉を開けて招き入れると魔導士ウィザードの格好をした男がのっそりと入ってきた。

「またお前か、それで今度はどのように書き換える?」

魔導士の男は呆れたため息を吐く。

「いつも通りに依頼が完結したという風に書き換えてくれ」

「もう1人の男はどうした」

「死んだ、まあアイツは」

アンデッドに殺されたと途中まで言いかけて案を思いついた。

そうだ、あの奴隷ダークエルフに殺されたと言う事にしようと。

ダークエルフは地下世界で住まう穢れた気性の荒い一族だ。

それならピッタリだろう。

「奴隷が反乱してな、剣を奪われて殺された」

「……奴隷?どんなのだ」

男は自動書記録石に手を翳して高度な偽装用魔法陣を展開させた手を止める。

「ダークエルフの奴隷だ。10年も仕えさせたが反撃の機会うかがってたんだろうな、いやぁ危ない危ない」

「ダークエルフだと?お前まさかその者を奴隷にしてたのか!」

「ガキのダークエルフだぞ?穢れた妖精デルヴの1匹や2匹」

そこまで言うと男は顔面蒼白になって自動書記録石を放り投げた。

「冗談じゃない!もうアイツらと関わるのはごめんだ!」

「おい、待て!ただのガキのダークエルフだぞ!」

「お前はダークエルフ達の恐ろしさを知らんから言えるんだ!私はこの街を出る!」

男は慌てた様子で扉を開ける。

「おい!俺たちのはどうなる!」

「金はいらん!もうお前達とはこれっきりだ!!」

そのまま男は逃げるように去っていった。

宿屋の窓から見ると逃げるように走るのが見えた。

「どうしますの?」

「ちっ……仕方ない、途中で紛失してしまったのに気付いたから途中までしかないとでも言っておく、待ってろ」


冒険者ギルドにたどり着いて受付に並ぶ。

いつも通りの喧騒のギルドだ特に思う事はないが、あの男のせいで中々に難しい事になってしまった。

ダークエルフの1匹や2匹が何だと言うのだ。

順番が来て受付に自動書記録石と依頼書を提出する。

自動書記録石の記録を読み込んでいた際に受付は眉をひそめる。

「途中までで途切れてるようですが?」

「あー、途中でモンスターの攻撃で落としてしまったんですよ。」

「そうですか、しかしこれでは不充分ですので手書きで再提出をお願いします。」

受付は淡々と手書き用の冒険記録書用の羊皮紙を差し出し、書くための台を指し示す。

「次の方どうぞ。」

何も言えずにそのままそちらの台へと移り書き出す。

途中まで途切れてるあるいは紛失した場合はこうして書き直しを命じられる。

ワンチャンあると思ったがダメだったようだ。

しかし全部正直に書くわけにはいかない。

全部あのダークエルフのせいだ、あの奴隷さえ邪魔さえしなければ!

とにかく自分達に都合の悪い部分は書かずにモンスターについて書き、どのようにして解決したかを書き記す。

「よし、これでいいだろ」

これならば何とか報酬は少しでも貰えるだろう、この金であのダークエルフを殺す為の道具を探さなくては。

また並んで再提出した際に受付はそれを読んだが驚きの言葉を放った。

「イリニパクス村の領主、ワイズ様よりこの件は違う方が解決したという知らせが先ほどありました、なのでこの依頼は失敗として処理をさせていただきます。」

「おい待て!おかしいだろ!人に書かせておいて!」

「ではお聞きしますが、解決したならなぜ依頼主様の方に報告に行かなかったのですか?」

「ぐ、それは」

「それにこの書類には書かれていないところもあるようですね。」

「なにをだ!これ以上にないくらい明確だろう!」

「仲間の事や、どのようにして遺跡を踏破したのか、曖昧な部分が多すぎます。」

「な、仲間が死んで気が動転してて」

「その割には細かな描写が多いですね。」

「それは、その」

「それに、報酬に関しては現地で解決したら受け取ると言う手筈でしたが、受け取られていないようですね。」

(しまった、そういえば!)

名指しの依頼で舞い上がっていたが解決した場合のみ報酬を手渡しでするという文があったのを思い出した。うかつだった!

「以上を以て失敗として認証しました、ご承知ください。」

最後までとりつく暇もなく次の冒険者が報告をしようとしていたのでどいた。

仕方ないので俺は別の依頼を掲示板で探す事にした。

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