第十五話 『冒険者ギルドへ』

「この先の街ってどんなところか知ってる?」

「とても楽しいところですよ!」

森を抜けて平原を歩きながらオルシアに聞く。

フードを目深にかぶってダークエルフ特有の黒い肌と長耳を隠しながら周りを見回す。

同じ会話ばかりなのは、単に僕が他に何を会話をすればいいか分からなかったからだ。

「入ればわかるかな、ギルドへの案内は頼める?」

「はい、お任せください!」

「うん、どういうのがあるのかな……?」

「沢山ありますよ!中でも吟遊詩人バードの語る英雄譚なんかは大人気です!」

「英雄譚?」

ピクと英雄譚という単語に反応してオルシアを見る。

「はい!遥か北方の国のヴァイキングたちの叙事詩サーガとかエルフたちの物語だったり……」

「えっと、ダークエルフの英雄譚とかそういうのは……?」

うずうずとするのを抑えようとして食いつくようにしてしまって、オルシアは目を丸くする。

「だいぶ前に聞いた気はしますけど……行ってみます?」

「うん、いく」

街には冒険者ギルドに行くのが主な目的ではあったけど、それ以上に楽しみなものが増えて足取りも軽くなる。

「……しばらく英雄譚聞いていようかな」

「カリス様、目的見失わないでください。」

「……だめ?」

「だめです」

英雄譚が楽しみすぎて呟いたらオルシアに突っ込まれてしまった。

「ううん、間に合うかな?」

「確か昼ぐらいに吟遊詩人様が集まるところがありますから、案内しますよ?」

「ほんと?」

「はい!」

「わかった、じゃあ早く終わらせよう!」

しばらくして見えて来たのは街の白い外壁だ。

人の交通量が増えていくが途中で止まる、見てみれば長い列になっていた。

「これなんだろう?」

「ここで街へ入るための検査があるんですよ。何かしらの許可が無いとだめなんです」

「そうなんだ……あ、そういえば司祭様に貰ったこれ、この時のためのものかな」

「きっとそうですよ」

懐から領主様の家紋が刻み込まれた蜜蝋で封印された手紙を取り出す、片方には門番に見せるようにとあった。

「わかりやすい」

「ですね、あ、そろそろですよカリス様」

数メートルはある門の前に全身甲冑姿の門番がいる、一人一人を厳しく査定しているようで、許可されなかった人はすごすごと引き返していった。

僕よりも大きなその門番にそっと領主様からの手紙を渡すと、門番は中身を読んだあとジロリと僕たちをにらんできたので思わずフードを更に深く被り顔が見えない様にした。

「……ふん、通れ」

ぶっきらぼうな声が降ってきたのを聞いてお辞儀をしてからオルシアと一緒に中へと入った。


「何もしてないけど、ドキドキした……」

「でも、見てくださいカリス様。これが街ですよ」

顔をあげるとそこは全く未知の光景だった。

様々な家や出店、様々な種族の人達が行き来しており、さらに何かわからないものが多かったがあちこち目移りしてしまう。

「……初めて中に入った」

「もっと大きなところもあるんですよ?」

「オルシアは、行った事あるの?」

「いえ、ここくらいしかないです。」

「……あれは、なんだろう、あれも、それも」

ふらふらとあちこちを見ながら彷徨うように歩いてぶつかりそうになる。

「ご、ごめんなさい」

「いえ、われもよそ見していた故に、何か探しものか?」

その声を見上げると赤い鱗と竜の首を持つ赤い目の竜人ドラゴニックの大男がいた。

「あ、え、えっと」

「カリス様!大丈夫ですか!」

「カリス」

「あ、ぼ、僕の名前で、その」

なんとか言いつくろうとしてどういえばいいのか分からず口に出せない。

「……では、お主がカリス・プレッジ殿か」

「へ?」

「知り合いですか?」

「ううん、知らない」

「ここに来たという事は冒険者ギルドだな、丁度よかった、吾も行くのだ共に行こうではないか」

「え、はい」

その竜人に連れられて歩いていくと、ギルドの看板……オルシアに教えてもらった……があるところに入った。

中は沢山の人達がおり、受付もごった返していた。

「受付は向こうだが、手続きの方は大丈夫か?」

「えっと、い、いえ……全て初めてで……」

「あ、あの!あなたはどなたですか?」

「む、ああすまぬ、気がはやってしまったな。」

オルシアが突っ込んだことで半竜人の男の人はお辞儀をして自己紹介をする。

「吾はイグニ、オルシア殿の父上の言伝によりお迎えに上がった竜人の武僧モンクだ」

「司祭様……あ、そういえば友人の子にって」

「ええ、吾の父とは昔冒険をした仲で、その縁ですな。」

イグニは獰猛そうな笑みを浮かべながらそう言う、なんでも前々から冒険者となるためにパーティを探していたら父に紹介されたそうだ。

「カリス様、次ですよ!」

「え、あ、うん!」

イグニに答えようとしてもう順番が回ってきた事に気付いて受付さんのところにいく。

フードを取らないようにして名前を告げて手紙を差し出す。

「……え?」

「?」

受付の人が手紙を開封して読んだ後に不意に声を漏らしたのを見て不思議そうに眺める。

「少々お待ちください!」

と、奥へと引っ込んでしまった、何があったのだろう?

オルシアに目を向けてもよくわかってないようだ。

そうしていると受付さんが戻ってきた。

「お待たせしました、登録を致しますので奥へとお進みください」

とイグニを入れて3人で奥へと入っていった。

理由を聞くと冒険者登録と依頼の受付は別窓口とのことだった。

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