第十四話 『民衆英雄の旅立ち』
現在 昼 主人公視点
あの後司祭様と話していたのだが、オルシアと共に旅に出ることにした。
それなり先立つ物が必要だからと司祭様に連れられてきたのは領土内にある武具店だ。
沢山の武具が陳列されていて見知らぬものが多くて目移りをしてしまって棚にぶつかりそうになる。
「何だ司祭、今度はダークエルフの孤児でも拾ってきたのか?」
奥からそう言いながら現れたのは髭をたっぷり蓄えたドワーフの男だ。
「違いますよ、領主様よりこの子の装備を頼まれていたでしょう。」
「なんだノリが悪い。」
「は、初めまして……」
「こんな真っ昼間にダークエルフのそれも子供と出会ったのはお前が初めてだ、儂は鍛治もしてる店主のドワーフだ。」
豪快に笑いながらもドワーフは大きな袋をカウンターに置いた。
「ほれ、もう出来とるわ。鎖を熔かして使ったから小さくなったが充分じゃろ。」
中から出て来たのは、鉄の板で強化された革の胸当てに背中で長剣を交差させて仕舞うことを想定された作りの鞘があった。
「これを僕にですか?」
「ええ、貴方を縛っていた鎖を使わせていただきました。」
「……こういうの、初めてで、その……」
「私が着けてあげます。カリス様!」
困惑しながらもそれを受け取ると、手にその柔らかさと重さが伝わってくる。
新品特有の革の匂いがしてどう装備すればいいのか迷っていたが、オルシアが張り切って付けてくれた。
神官服の上から押さえつけるように装備しているためかちょっと不格好な気がする。
背中の聖剣と領主様の長剣の重みがずっしりとのしかかっているのが分かる。
「すごいピッタリです、えっとドワーフさんありがとうございます。」
「司祭に言え、突然鎖が沢山入った袋を渡してきてこれで作ってくれと頼んできたんだからな」
「え、それはその、ありがとう、ございます、でも、お、お金とかどうしましょう。」
人にこうして防具を作らせてしまっている上にここまでしてもらってると申し訳なくなる。
「気にするない、料金は全部領主様に貰っている。」
「え、い、いつのまに」
「領主様も貴方の支援をするとのことでしたのでその為でしょう」
「僕のようなダークエルフに、どうしてそこまで」
「貴方はオルシアと共に冒険に出て、解決してこの村を救ってくれた、その事にダークエルフも人も関係ありませんよ」
「はい!それに、カリス様はとても優しくてとても頼りになる聖騎士様ですから!」
「儂らの前でそんなのを引き合いにするやつがいるならぶちのめしてやらなくもないぞ、ダークエルフ」
「ぅ、ぁ、ぅ」
それに何も言えずに黙り込んでしまう、そこまで言われたのは初めてだったからだ。
何と言えばいいのだろうか、どうすればいいのか分からなくて困惑していると頭に手を置かれて身体が思わず跳ねてしまって見上げると、司祭様が優しく微笑んでゆっくりと撫でてくれた。
こうして撫でてもらうのもいつぶりだろう、司祭様の手の温もりに胸が熱くなった。
しばらく撫でられる感覚を堪能していると離れていってしまうのを名残惜しそうに手を見つめる。
「さて、そろそろ出てもいいでしょう」
「ぁ、はい、ありがとうございました、ドワーフさん」
「この程度どうってことない、またこいダークエルフ」
ドワーフに対して深くお辞儀をすると彼は笑って流して奥へと引っ込んでいった。
旅に出るためにあと必要なものは野営の為の道具や食料だけど……どこで買えばいいのかまったくわからない!
あの冒険者たちに使われていた時は生き延びるために必死で使って覚えていたので何とかなったけど!!
「あの、司祭様お聞きしますが……」
「なんでしょうか?」
「その、調理道具とか野営用の食料ってどこで……」
「ああ、それでしたら」
武具店を出て向かった先は沢山の野営用のものや食料が揃っている店だった。
「ここは領主様によって野営や必要なものを揃えれるようにって旅人向けに作られた店なんですよ!」
オルシアは誇らしげに言いながらも何がいいかと選んでいる。
本当に沢山のものがあってどれも使いやすそうだ。
「司祭様にオルシアじゃないか、買いにこられたので?」
「ええ、この子達の為に」
「……この子は」
「は、初めまして」
人間の店主が僕を上から下に眺めて不思議そうにして笑顔になった。
「オルシアから聞いてるよ聖騎士様、なんでも
「ふぇ」
「うちに来てくれたと言う事はもう旅に出るのかい?もう少しここにいてくれてもいいんだよ?」
店主はこれとかどうだと沢山の食料やら道具やらを取り出しては説明してくる。
「オルシア、どういう説明をしたの!?」
「カリス様は村を救った聖騎士様ですって村中に触れ回りました!」
「オルシアー!?」
すごくいい笑顔で言うオルシアに突っ込みながらも何とか買い物を済ませた。
買い物を済ませるだけなのにすごく疲れた……
村中を回り買い物をする度に同じ事が起こっては疲弊したが、それでもフード付きのローブを羽織り村の入り口に立つ。
野営用の袋や雑嚢袋といったものを分けて腰に着ける。
そして司祭様は数枚の手紙を手渡してきた。
「聖騎士殿、街に着いたら門番と冒険者ギルドに見せなさい、便宜を図ってくれるでしょう。私の友人の子にも声をかけておきました」
「今までありがとうございました、司祭様。」
「いえ、私は出来ることをしたまでです、向こうでも元気でやりなさい。」
「はい!」
周辺には沢山の村人達が見送りに来ていた。
「行ってきます、司祭様!」
僕達は彼らの声援を背にして都へと歩き出した。
街までおよそ数日はかかるけど前よりは心が軽かった。
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