第十三話 『司祭の慧眼 領主様視点side』

冒険者達へ依頼を出した直後の夕方 領主ワイズ視点


マナーハウスで冒険者達が部屋を逃げるように出たのを見て、どっと椅子に深く腰掛ける。

「どう見る、司祭。」

「あの反応を見る限り信用に値しませんな。」

「お前もそう思うか」

冒険者ギルドからの依頼で要注意パーティを見極める為にこの別邸を使ったのだ。

なんでも半年毎に河岸を変えては各地で活動しているらしいが、その度にまず最初に馬を引き連れていないはずなのに必ず馬小屋に寄ったりしていたというのだ。

「冒険者が馬小屋を使うのは馬を買うか、あるいは馬を繋ぐかだが……」

「それを使ったようには見えませんな、今朝方うちの娘のオルシアが朝早くに森の中へ消える冒険者達を追ったら枷をつけられ傷だらけになった子供のダークエルフを見つけたそうです。」

奴らはダークエルフのそれも子供を奴隷として運用していたと言う事だろう。

半年毎に河岸を変えて活動してるのはそれを隠していたからだ。

「ダークエルフの様子は?」

「瀕死の重体でしたが今は安定しているようです。」

「そうか、それは良かった……」

「ですが、あの冒険者達がこの件を解決する事はないでしょう。」

「……お前のその慧眼にはいつも助けられたな。」

司祭がそう断言するとほぼ確実と言っても良いほどにそれが当たるのだ。

そのおかげで幾度の冒険でも助けられた事が多かった。

そうでなければ今頃こうして領主をしてはいなかっただろう。

「ワイズ殿もそう見たからこのような場所を使ったのでしょう。」

「それは当然だろう」

目上の相手に対する態度でもなく武器のことを突っ込んだら森の中で魔物に襲われたという言い訳を並べてそれを擁護する仲間達。

だから司祭に言ってこのマナーハウスに案内させたのだ。

基本的にこのマナーハウスでは信用や信頼できない相手と会う際に使用している。

それでも儂の横にいるのに不思議そうにしてたので立会人として紹介したが、実際は司祭の魔法によって身を守る為だ。

「では私は子供のダークエルフの様子を見てきます。」

「ああ、では儂は……」

「自ら出向こうとは思わないでくださいね?」

「わかっとるわ、儂の剣をダークエルフに与えてやれ、どこまで出来るかわからんがお前から聞いた話では神聖な力がありそうだ。」

「ええ、そのように。」

司祭の柔和な笑みで言ってくるそれに返す。


そして無事に戻って来ることを祈りつつ待っていた翌日の夜に遺跡のある方からの邪悪なまでな気配が消えたのを感じた。

その事で報告に来た司祭があのダークエルフが解決したという。

何とも素晴らしい事だ!神聖な力があると見てとったが解決をして無事に帰ってくるとは!

朝にそのダークエルフを本邸に連れてくるように命じて翌朝を楽しみにした。


そうして連れてこられたのは黒い肌に白銀の大きな眼をした小柄なダークエルフだ。

腰には儂の剣を佩いており、背中には立派な白銀の長剣があるのがわかった。

何かとおどおどとしており、袖から見える鉄の枷は鎖が外されているがその子供が奴隷であると示していた。

首にも大きな奴隷の首輪を付けられているのを見て痛々しく思った。

「よく来た、儂がこの村を治めている領主のワイズだ、お初にお目にかかる。」

ダークエルフに座るように促すとオルシアに教えられてようやく座ったようだ。

今までどのような扱いを受けていたのかが察してしまう。

そう思うとあの冒険者達に対する怒りの念が浮かぶが今は我慢して名前を聞く。

「か、カリス、カリス・プレッジ、です……領主様」

「カリス・プレッジか、良き名だ。」

あの冒険者とは違って純真無垢なまでなその瞳はしっかりと儂を見ている。

「ではプレッジ殿、この度の我が領土にて起きた問題を解決していただいたことを村を代表して深く礼を申し上げる。」

「い、いえ、そんな」

儂の礼に対しても謙虚な態度を崩さない、その態度も中々に好感的だ。

「本来ではあれば我々が対処すべき問題だったが、アンデッド共に対抗する術がなくてな、せめて司祭に護りを任せて冒険者に依頼を出すしか無かったのだ。」

「そうだったのですね、あれ、そのふ……いえ、冒険者達は?」

「なんでも今朝踏み込んだ宿の部屋はもぬけの殻だったという報告を受けている。」

それを聞いたプレッジ殿の表情はどこか安堵したように見えた。

隣でオルシアが憤慨してるが、儂らとしてはやはりかという感想しか抱かなかった。

剣についても口にすると慌てた様子で返そうとしてくるとは、何とも素直で私利私欲に走らないとは素晴らしい子だろうか。

褒美を与えようとしたがそれさえも断るとは!

「何とも謙虚な子だ、自らの活躍を誇示せず多くを求めんとは。」

「よい、ではその背中の剣と一緒に装備できる鞘と金貨もやろうではないか。」

ならばせめての褒美としてプレッジ殿の装備を整えさせてやらなくては!

お金の方も後で与えてやるとしよう!

この子はいつしか本当に闇を祓う聖騎士として素晴らしい英雄となるだろう!

その一端を担えるのならば儂としても誇りになる!そう考え儂はプレッジ殿を支援する事にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る