第十二話 『領主の謝恩』

慣れない朝食と朝の祈りを終えた後司祭様に領主様が会いたいと言っておられたので、恐れ多いながらもオルシアの勧めもあり行くことになった。

でも……

「あの、僕なんかが本当に入ってもいいんですか?」

この村にあった大きな邸宅……マナーハウスというらしい……ではなく、領主様の治められている領土にある本邸に招待されたのだ。

もっともその話を持ってこられたのは司祭様で、僕たちで解決したあの遺跡の話を聞きたいということらしい。

本来なら頭数にすら入ってないはずの僕を、元奴隷とはいえダークエルフを呼びたいなんて……

「なんか、じゃないです!カリス様が活躍なされたから評価してくれたんです!」

「それに、領主様はあなたに会いたいとの仰せですから気になさらず。」

「う、わ、わかりました……」

2人に促されて領主様の本邸の立派な扉のドアノッカーを使って控えめにノックする。

しばらくして綺麗な服を着た黒い人……が出て来て、僕を見て珍しそうに見てるのがわかってうつむく。

「執事殿、領主様との拝謁をしに参りました、例の件といえばわかりますかな?」

「ええ、領主様がお待ちです、こちらへ」

執事さんに促されて僕たちは中へと入り、執事さんの後ろについていく。

これまで生きてきた中でも見たことないものばかりで目移りして、それらがどういうものなのかが気になった。

「すっごいキラキラしてる……」

「聖騎士殿も将来はこのような場所にお招かれすることもあるかもしれませんから、いい機会だと思いますよ」

「そ、そうでしょうか……」

「私が保証しますよ、聖騎士殿」

司祭様はそういってくれたからかどこか安心した。

階段をいくつか上っていった辺りで執事さんが扉をノックすると、中から返事が返ってきて僕たちに向かって中へと入るように促した。

「ワイズ殿、聖騎士殿とオルシアを連れてきましたよ」

「よく来た、儂がこの村を治めている領主のワイズだ、お初にお目にかかる。」

ワイズと呼ばれたひげ面のがっしりとした体形の煌びやかな服を着た領主様が赤い椅子に座っていた。

そして座るように促され、オルシアはすぐに椅子に座ったが、僕はどこに座ればいいのかと迷っていた。

「その椅子を使うといい」

領主様は柔らかく諭すようにオルシアの隣の椅子を指す。

それに迷ったけど、一度お辞儀をしてから少し高い椅子に深く座り、テーブルの向こうの領主様と向かい合う。

司祭様はいつの間にか領主様の隣に移動していた、いつの間に……

「さて、改めて言うが……儂はこの村の領主のワイズだ。貴君の名は何というのか聞かせてもらえるか?」

「か、カリス、カリス・プレッジ、です……領主様」

「カリス・プレッジか、良き名だ。」

ふ、と領主様は微笑んだように見えた。

「ではプレッジ殿、この度の我が領土にて起きた問題を解決していただいたことを村を代表して深く礼を申し上げる。」

「い、いえ、そんな」

深く頭を下げて感謝の礼をする領主様に困惑して申し訳なくなる。

司祭様は面白そうに眺めている。

「本来ではあれば我々が対処すべき問題だったが、アンデッド共に対抗する術がなくてな、せめて司祭に護りを任せて冒険者に依頼を出すしか無かったのだ。」

「そうだったのですね、あれ、そのふ……いえ、冒険者達は?」

そういえばここに来るまであのファトゥス達の姿は見えなかった。

襲撃でもしてくるのかと思ったけど……

「なんでも今朝踏み込んだ宿の部屋はもぬけの殻だったという報告を受けている。」

「依頼を受けておきながら何も言わずに逃げるなんて!」

オルシアが憤慨して声を荒げるが司祭様に宥められておとなしくなった。

「だが、こうしてプレッジ殿が儂の剣を使って解決をしてくれた、非常に喜ばしいことだ。」

「え?この剣、領主様のだったのですか?」

「こう見えても儂も昔は司祭と共に旅をした冒険者だったのだ、今は国王陛下に領土を与えられてここの領主をさせていただいている。」

「で、でしたらこの剣をお返しします!流石に僕が使ってはならないような!」

慌てて腰に佩いていた長剣を返そうとするが手で制される。

「よい、今の儂には無用の長物だ、プレッジ殿に授ける、司祭が言ってなかったようだな。」

「司祭様???」

「言わない方が面白いなと思いましたので」

「相変わらずの態度だが懐かしいものだ。して、冒険の方はどのようなものだったかお聞かせ願えるだろうか?」

飄々とした態度の司祭様を見つめてもサラッと受け流される中領主様にそう聞かれて畏まり、何とか全部説明していく。

「ほう、それは素晴らしい出来事だ、あの遺跡はそのようなものだったのか」

「やはりあの冒険者達には解決はできませんでしたか。」

「お前の言った通りだな司祭、プレッジ殿には様々な恩賞を与える事ができるが何がお望みか?」

「ふぇ、えっと、その、あまりその、望むものはないです。」

実際褒美を与えると言われてもそれらをどう扱えばいいのか分からないし、お金も使った事もない。

ずっと奴隷として虐げられていたのもあって生き延びるので精一杯だったので余裕がなかったのだ。

それをどう見たのか領主様は笑顔になる。

「何とも謙虚な子だ、自らの活躍を誇示せず多くを求めんとは。」

「よい、ではその背中の剣と一緒に装備できる鞘と金貨もやろうではないか。」

領主様は大きく笑いながらもそう言って立ち上がる。

「え、えっと、ありがとう、ございます」

こうして僕は領主様に沢山の謝恩をいただいた。

あまりにも畏れ多くて断ろうとしたけど司祭様に貴方には受け取るべき権利があるのだと言われて受け取る事にした。

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