第十一話 『帰還』
聖騎士の神殿から離れて夜の森を歩いている。
あの神殿でかなりの時間が経っていたのだろう。
白銀の騎士に戴いた長剣をどのように持つか悩んだけど、背中に付けれるように紐でくくり付けたのだ。
背中に感じる騎士の剣は軽くもどこか重みを感じた。
「……これで、いいかな」
「とてもお似合いですよ、カリス様。」
「う、うん、ちょっと恥ずかしいけど」
物語の英雄の真似をしてるような気取った気がして気恥ずかしい。
「でも、
「考え直したらよく生き残れたなと思うけどね。」
実際、あの神聖な力が効かない相手だったらと思うとゾッとする。
それでいてあの死霊魔術師が僕をただのダークエルフだと誤解していたのも要因だろう。
「帰ったら沢山司祭様に報告しなくちゃ!カリス様との初めての冒険を!」
「冒険……?」
「はい、冒険です!」
「……これ、冒険だったんだ……」
冒険なんてものは僕には無縁のものだと思っていた。
それは英雄譚に出てくる彼らの紡ぐような冒険者達のものであり、仲間と共に歩み、悲しんだり時には争ったりもしながら成長していくものだと。
オルシアは今回の件での立ち回りやあそこはどうだった、と楽しそうに話しかけてくれている。
8年前のあの人達もこうして沢山の冒険をしていたのかな?
「カリス様、もう着きますよ!」
オルシアの言葉に意識を引き戻される、もう村の前にまで来ていたのに気付いてなかった。
「うん、じゃあ僕は裏から回って待ってようかな」
「ダメです!さあ、司祭様に報告しに行きますよ!」
「ダークエルフが表から堂々と入るって、大丈夫なの?」
今まで村の外か街の外の馬小屋で繋がれていたからか、司祭様の家の裏手から森の中へ入る道以外から入ったことは無い。
あの時ファトゥスによって繋がれていたのも使われてない離れの馬小屋だったのだ。
「大丈夫です!だって、カリス様は聖騎士様ですから!」
「それダークエルフが堂々と入っていい理由になってないよね??」
大丈夫です!と豊かな胸を張るオルシアに、僕の腕を掴んで引っ張ってズンズンと進んでいくのでそのまま連行されていく。
「お、オルシア?周りの人達が怪訝な目で見てる、見てるから!!」
何とか離してもらおうとするが、ガッチリと掴まれているからか振り払う事はできない。
周りの人が驚きと共にマジマジと見つめてくる。
「カリス様が立派だからですよ!」
「り、立派?」
「はい!だってこうして生きているんですから!」
「……立派に、なれるかな」
生きているから立派、そう言われたのはいつぶりだろう。
疲れが吹き飛びそうな太陽のような笑顔で話すオルシアに安らいでいると、司祭様が家の前で待っていた。
「お疲れ様でした、お帰りなさい2人とも。」
「はい!ただいま戻りました、司祭様!」
「戻りました。えっと、終わりました。」
どう言えばいいのかわからなくて変な言い方になってしまったような気がする。
けれど、司祭様は気にしている様子はなく出る前と同じような柔和な笑みを浮かべた。
「今回の冒険はいかがでしたか?」
「大成功です、司祭様!」
「聖騎士殿、貴方は?」
「えっと……よくわかりません。」
「今はそれでもいいでしょう。さて、領主様は待たれておりますが……」
僕のボロボロな神官服を見る
「まずは着替えた方が良さそうですね。」
「あの、これ汚してしまいました……ごめんなさい」
「冒険とはそういうものです、それにそれは貴方に差し上げたものですのでお気になさらず。」
「で、ですが」
「それに、おかげで知りたいことも知れました。」
「へ?」
「まあ、今は気にならさず」
「あの、気になりますよ???」
「さて、私はこれから領主様にご報告をして参ります。替えの服はもう用意してありますのでそちらに。」
疑問をサラッとスルーされた。
「ここまでしてもらうのはその、僕には」
「オルシア、聖騎士殿のことよろしくお願いしますよ。ご飯の方も温めるように。」
「はい!ではカリス様!まず手当てからですよ!」
何かいう暇もなく連行されたのだった。
知りたい事って何だったのだろう?
でも、あのファトゥス達が帰りの際に何処にも見当たらなかったのを考えるともうここにはいないのだろうか?
でも、あの8年前の人達は無事だろうか
翌朝
部屋の隅で剣を抱えながら寝ていた所をオルシアに起こされた。
「カリス様!お風邪を引かれてしまいますよ!」
「ん……あれ」
いつも見たような光景ではない事に気づいて、夢ではなかったと理解したのだ。
「そっか……夢じゃなかったんだ」
「ちゃんとベッドもありますのに!」
「その……借り物のこの長剣の手入れをしてたらいつの間にか……」
剣をしっかりと手入れをしてから返すつもりでしていたらいつの間にかそのまま床で眠ってしまっていた。
今まではこんなことはなかったはずなのに。
窓枠からは太陽の光が差し込んでいる。位置からするとまだ太陽が昇ってから少しくらいだろうか。
剣を支えにして立ち上がると、やはり両手両足と首の奴隷の烙印が捺された枷はそのままだが鎖はなかった。
「おはようございます、カリス様!」
笑顔でそういってくれるオルシアに呆然としていると不思議そうにのぞき込んできた。
「カリス様?どうかなされましたか?」
「……僕に?」
「私の目の前にはカリス様しかいませんよ?」
「……お、おは、よう、ございます」
「はい!」
たどたどしく呟くように囁いた僕の挨拶に元気よく返事をしてくれる。
挨拶……何もかもが僕にはもう初めても同然だ。オルシアに連れられて部屋を出た。
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