第七話 『聖騎士の試練:信仰』
「つまり、カリス様のあれは教わったものなのですか?」
「8年前にね。」
オルシアをなんとか宥めて小休憩を取った後に遺跡内部を歩きながら対話をする。
「たったの1週間だったけど、たくさん教えてくれたんだ。戦闘における考え方や立ち回りも、それを紙で書かれた盤上でどのようにしてやるかって戦略の立て方を学んだんだよ。」
20面体のダイスを使って、それぞれの人型種族の駒を用いてあの人達は沢山教えてくれた。
そのおかげでその時のことを思い出して場を俯瞰することができたのだ。
「やっぱり盤上の駒と実際にやるとでは、大違いだ。」
「それを踏まえて実際に動いて、考えて作戦を立てれるなんてやっぱりカリス様はすごいです!」
「僕のは全部受け売りだし、戦ったこともなかったから机上の空論だよ、僕自身戦った事もなかったから。」
口だけで言うなら簡単だけど、実際にやると色々な違いを実感させられた。
元主人の冒険者達に飼われていた時期では色々とやらされたりしていたものだが、戦闘中ではほぼ囮にされたりモンスターの攻撃で死にかけたりもした。
それでもなお僕は運良く生き残ってきたけど。
「そんな事ありません!カリス様の作戦がなかったらきっと危なかったです!」
でも、こうして僕を真っ直ぐに見てくれるオルシアの青い瞳は僕の胸を温かくしてくれる。
「ありがとう、その言葉だけでも嬉しい。」
あの人達から教えられた事は沢山ある。
神様を信じ続けて祈り続けていれば神様は応えてくれるってあの神官の人は教えてくれたから今でもこうして信仰を保っているのだ。
「本当に、沢山のことを与えてくれたんだ」
僕の為に傷付いて死にかけた、あの人達は今どこで何をしているのだろう?
あの人達が無事であるように、あの時からずっと神様に祈り続けている。
しばらく歩いてると奥に沢山の石碑が立ち並んでいる部屋があるのが見えた。
どれもがボロボロになって文字は判別しづらい。
「なんだろうあれ?」
「え、何が見えるんです?」
「奥に石碑がある部屋あるんだけど、見えない?」
「……み、見えません……」
オルシアが目を擦り
「ごめん、僕基準で考えてた……」
「いえ、やっぱりエルフやダークエルフのような方の暗視ってすごいなって尊敬します!」
「次から気をつけるから。」
「気にしなくても良いのですよ?」
「そう言うわけにはいかないから」
オルシアの前を歩いて、何もない事を祈りつつ部屋に辿り着いて中を見る。
見た限りでは先ほどの
嫌な予感を感じてオルシアに警戒を促しつつ石碑を読もうとするがよく読めない。
「……これ、エルフ文字というやつだと、思います。」
「そうなの?」
「カリス様は読めないのですか?」
「学ぶ前に拐われた」
「それは……申し訳ありません」
「いいよ、それでも地下世界共通語と交易共通語は何とかわかるし……このままでも」
「そう言うわけにはいきません!私頑張ってカリス様に沢山教えます!」
「え、う、うん?分かったよ」
ふんす!とオルシアが張り切ると石碑の文面を何とか読もうと顔を近づける。
「……巡礼……ねむる……?巡礼者の石碑でしょうか?」
「巡礼、ということはこの神殿……エルフの神様を祀っていたのかな?」
「かもしれません、今はこのような状況ですが……」
エルフの神様の巡礼者がこの神殿で……?何か違和感がある気がする。
「……」
いつの間にか立ち並ぶ石碑に向かって両手を組んで自然と祈りを捧げていた。
本来なら荘厳な光景だったのだろう変わり果てた部屋は悪意の渦に満ちている。
それでも残り続けたこの石碑は何かを伝えようとしているようなそんな気がした。
『██████████████████……』
突如として響いてきたうめき声は僕の意識を現実に戻し警戒を促すのに十分だった。
「オルシア!」
「はい!」
長剣を引き抜きオルシアを背にしてうめき声の主を探す。
「ど、どこでしょうか?」
照光に照らされ出した部屋は石碑の影を大きく伸ばす。
その中で蠢く大きな人影を見つけた。
片腕がだらりと下がり顔が半分ぐしゃぐしゃになった大男……
全身から血を流すあまりにも凄惨なその姿からはもはや生者ではないというのがはっきりとしていた。
「……ここで死んだら、ああなるとか……嫌だな……」
「すごい、気色悪いです……知り合いですか?」
オルシアの顔も青ざめ、両手に握った樹の杖を握りしめている。
「元主人の冒険者のひとり……と言えばいいかな?」
イディオだったものに悪意が渦巻き蓄積されているのが視える。
ソレもこっちに気付いたのか片腕を振り上げ咆哮をあげ突進してきた!
「ダーく、エルふうぅ、ぅぅぅウう!!!!!」
石碑をなぎ倒しながらイディオだったもの……いや
「カリス様!」
「……まずは、お前からだ。イディオ」
僕の言葉に反応してか憎悪と侮蔑の感情を向けてくる。
そんな姿になっても未だに囚われているのか、そう思うとあまりにも哀れに思えてきた。
「ドレ、い、ふぜいがァ、ぁぁああ!!」
屍人は死んだばかりならば生前の記憶を保持していることが多い
その殆どは歪んでいたり、埋め込まれたりがほとんどだ、というのを昔聞いた。
なら、僕が出来ることは……神の名のもとにここで、執念を断つことだ。
昔、
「もう、僕はお前たちの奴隷じゃない」
長剣が金色の光を纏う。
「僕は、ダークエルフのカリスだ」
屍人の横をすり抜けるように剣をなぎ払う。
金色の軌跡は屍人の上半身に走り、白い光と炎に包まれていく。
「いこう、オルシア」
「……はい、カリス様!」
後ろで崩れて消える大きな音が響いた。
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