第六話 『聖騎士の試練:悪意』

漆黒の闇に包まれた遺跡内部には一切の光源はない。

それでも僕にのようなダークエルフとってはまだ明るく隅々までまるで昼間のように見えている。

「カリス様お待ちください、今から照らします!」

「え、あ、そうだよねごめん。」

そうだった、オルシアは僕と違って暗視を持たない人間だった。

司祭様との過去を聞いてたら驚かされることばかりで抜けてしまっていた。

「《闇を歩む者達の道をお照らしください!》照光ライト!」

オルシアが高々に樹の杖を掲げて神への祈祷を唱えると、杖全体がひかってそれが先端に集まって手のひら大の玉になって浮かびあがり辺りを照らす。

浮かび上がる光景は大量に散らばった人骨だ、それを見たオルシアが息を呑んだ。

「沢山眠っているね。」

「こ、怖くないのですか?」

「どっちかというと、生きた人間の方が……」

生きた悪意を持つ人間に散々やられた身としては、今更死んだ人間や動物の死骸では怖がることは無い。

以前の元主人達の手によって何度も闇の中を単独で探索させられていたから様々な死に触れたため慣れてしまったのだ。

僕は武器を持ったまま死んだ遺体の前にかがみ込んで両手を組み神へと祈る。

傍でオルシアもまたかがみ込み祈る気配を感じた。

しばらくして、

「……行こうか。彼等のためにも異変を解決しよう。」

「……はい!」

オルシアが嬉しそうに駆け寄ってきて隣に並ぶ、機嫌良さそうでよかった。

そんな時、邪悪な悪意が周囲の遺骸に流れ込むのを感じて長剣を構える。

「オルシア!」

「え、きゃっ!?」

不思議そうにしたオルシアの背後で死骸が動き出し立ち上がってるのが見えて即座にオルシアを引っ張り、死骸……いや、アンデッド系モンスター骸骨戦士スケルトンとなったそれの攻撃を受け止め、弾き返す。

「カリス様!どんどん増えてます!」

オルシアの警告と共に周りでスケルトンとなって蘇った者達が武器を構える。

その窪んだ眼窩からは悪意を持つ存在がこちらを見据え殺意を放っているのがわかった。

……オルシアよりも僕の方を強く憎悪しているように見える。

カタカタと骨だけとなった顎を動かして何か口にしているようだが声にすらなっていない。

「……オルシア、浄化の魔法は?」

「照光の分を除いてあと2回ほどなら……」

「範囲は?」

「最大でも、隣接していれば2体ほどです……!」

「温存して、僕が前に出る。」

重く感じる長剣を構え直しながら囁き合い作戦を立てる。

周りに隣接しないように広がる骸骨戦士達の動きからやけに神官に対して対策を取っているのに気づく。

ならば、僕がいくしかない。

「ですが、カリス様お1人では!」

「……大丈夫、僕を信じて」

震えそうになる剣を握り直して正面に構え直す。

「……っ、」

振るった剣は曲線の軌道を描いて骸骨戦士の腕を切り落とす。

「っと、こっち!」

小柄なのが幸いしてか骸骨戦士の攻撃をギリギリで避けきった。

だが、次の瞬間には肩口を切り裂かれ、血が流れる。

「カリス様!後ろです!」

「あぶな!ありがとうオルシア!」

オルシアの警告によって後ろからの剣の雨が降り注ぐなか転がって回避できた。

そのことに感謝をしつつも一気に剣を振り払う!

長剣は金色の軌跡を描き、骸骨戦士の胴を斬り裂く。

『██████████████████!!!』

「え?」

斬りさかれた骸骨戦士は白い光に包まれて跡形もなく消滅していったのを見て驚愕した。

長剣を見ると金色の光を纏っており、神聖な力がひしひしと伝わってくる。

骸骨戦士たちが驚き戸惑っているのを見て利用しない手はないと考え突っ込んだ。

「やぁ!」

一気に頭から叩き切り、白い光に包まれるのを待たずにすぐに軌道を無理やり変えて隣の骸骨戦士を袈裟切りする。

「浅かった!」

返した刃は骸骨戦士の非利き腕を切り落としただけで終わってしまった。

白い光になって消えないところを見ると、致命的な攻撃でないと効果はないのだろう。

「あと、2体!」

骸骨戦士の剣を受け止めて力負けしそうになるのを利用して身体をずらしてバランスを崩させてその勢いのまま切り落とす。

「あと1!」

骸骨戦士の刃を首元の奴隷の首輪に当たり軌道が逸らされ、同じようにこちらも相手の首を切り落とすと白い光に包まれて消える。

「これで、終わり!」

最後の骸骨戦士を叩き斬り、白い光となって消えていくのを見て肩で息をする。

石畳の床に座り込んで重かった長剣を鞘に入れて傍に置いて休憩をすることにした。

「やっと、終わった……」

「……」

「オルシア?」

激しい運動をしたためか苦しい、戦った事はなかったが体力切れになる前に終わってよかったと深呼吸をして息を整えようとする。

何度かせき込みながらオルシアを見ると呆けたような表情で見つめていたのだ。

「すごいです、カリス様!」

「わわ!?」

「とってもかっこよかったです!誰かに戦い方教わったんですか!?それとも我流なのですか!?」

「お、落ち着い……ごほっ、まって!!??」

すごい勢いで迫ってくるオルシアを止めようとしてせき込んでしまった。

「やっぱりカリス様は聖騎士パラディン様で間違いありません!すごいです!」

「だから、ちょっと待って、落ち着いてー!!??」

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