第五話 『試練の遺跡へ』

現在主人公カリス視点


鎖の外れた枷を神官服の袖で覆い隠す。

しかし奴隷の首輪は大きく、目立つのはどうしようもない。

いつもよりも身体が軽くて神官服も少し大きめだけど動きやすい。

枷は外そうにも専用の魔法錠解錠道具がなくてはならず、無理に外そうものなら四肢が腐りおちる腐食魔法がかけられているらしく、外せなかったのだ。

その為鎖だけは外すことになったのだ。

「鎖だけでも外せてよかったですね、カリス様!」

「うん、でも腐食魔法がかけられてるなんて思わなかったけど……今はこれだけでいいかな。」

「でも、見習いの神官騎士様って感じで好きですよ?」

「そ、うかな?」

そんな事言われたのは初めてで、照れを腰に佩いた古ぼけた長剣ロングソードの位置を直すふりをしてごまかす。

僕達は今、オルシアの案内で試練のための遺跡へと向かっている。

昼間でも薄暗い森の中は何処となく禍々しい邪気が奥から漂ってくるようで、空気が重い。

「前に来た時よりも禍々しさが増している気がするんですが」

「遺跡の方で何か起こったのかもしれません、急ぎませんと……」

「うん、じゃあオルシア、道案内お願いします。」

「はい!お任せください!」

自信満々なオルシアの案内に導かれて複雑な森の道を進む。

いくつかある道の中でも真っ直ぐに進む道の先からは血の臭いがした。

さらに誰かが通った痕跡があったので聞いてみると、真っ直ぐいくとゴブリンたちの巣穴が近くにあるため危険とのことで、僕たちは獣道の方を進んだ。

「誰があの道を進んだのでしょう?しっかり調べていればゴブリンの巣穴があるから避けたほうがいいってわかると思うのですが……」

「よく見ると茂みの中にゴブリンの足跡があったよね。」

「はい、昔司祭様が友人と一緒にあの道を進んで、ゴブリン達に囲まれた事があったそうです。」

「え、それは大丈夫だったの?」

爆光フラッシュの魔法でゴブリンの視界を光で塗り潰して切り抜けたそうです!」

「それ、下手したら失明しない?」

「一時的にでも目をそらせれば問題ないらしいです!アンデッドやスピリットには効果は無いですし。」

「そ、そうなんだ……まあ、視覚で感知してる魔物モンスターじゃないと効果は無いよね。」

(あの司祭様、自分ができるなら他の人にも出来るって思ってそうだなぁ。自分達の目も失明しかねないのに)

あの司祭様から聞いたハードな修行の事を考えるといつも通りの対応なのだろう。

昔聞いた話だと視覚以外で知覚している場合は不利になるとか聞いたような……まあ、これは8年前の彼らから聞いた事だけど……思い出したら会いたくなってきた……

彼らの事を思い出すと胸の奥がジンワリと暖かくなる。

「そういえば、遺跡ってどんなところ?」

話を目的の遺跡についてに切り替える

「何かの神殿だったらしいんですけど……記録が残されてないんですよ。」

「残されてない?」

「はい、修行時にお父様に聞かされた話なので詳しくはわかりませんが」

つまり何かはわからないけど修行場所としては充分だったのか。

「詳しく知らなくて申し訳ありませんカリス様……」

「ふぇ、いや、大丈夫だよ。古いのにはよくある話だってお父さんも言ってたし。」

しょぼん、と落ち込んだ顔をしたオルシアを慰めると、もとの笑顔になったのを見て安心した。

そんな時森が大きく開けた。

神殿、いや遺跡は半ば崩れた外観で、入り口の両隣には誰かの像の下半身部分だけ残っていた。

「あ、アレは何でしょう?カリス様」

オルシアが指差した先には野営の痕跡があった。

だが、あまりにも雑だ。

「これ、野営の跡だ。まだ片付けてからそんなに時間は経ってない。」

周りに散らばる木の枝、焼け焦げて散らばった食材、破れた天幕の布の破片

慣れない野営をする際には良くある失敗だ。

「私達の他にも来た方がおられたのですか?」

オルシアはまさか、野営をまともにした事ないような冒険者が来てるとは思ってなかったのだろう。

だが、僕は知っている。

「……領主様の依頼を受けた冒険者達がここに来てる。」

「え?私が聞いてるのは最近知名度が上がったという冒険者を呼び出したって……」

「知名度だけはあっても自分から動くという経験がないと無意味だよ、オルシア。」

そうだ、僕は知っている。

これらを見るにここに来たのは元主人のファトゥス達だ。

何故なら、数年間の奴隷生活の中全ての雑務、武器の手入れに料理の準備や野営の準備は全て僕にやらせていたのだから。

彼らには雑務を押し付ける相手はもういない。こうして自分達でやるしかなかったのだろう。

なんせ、自分でした事はないのだから。

更にここまで伸びる直前の道を見ると遠くまで点々と戦闘の痕跡があるのが見えた。

「……ファトゥス達がこの遺跡に入っている。」

「ではもしかしてあの道を真っ直ぐに進んで来られたのはその件の?」

「だろうね、僕にとっても因縁はあるけど……とにかく、行こう。」

「はい!カリス様!」

オルシアは捻れた樹の杖を腰から抜いて両手で握りしめた。

遺跡の入り口からは更に濃い邪悪な瘴気が僕の目に見えて漂っている。

深い闇の向こうで悪意を持つ何かが手招いているようだ。

逃げるわけにはいかない、せめて命の恩人に恩を返さないと。

腰の長剣を抜き放ち、その想いを胸にオルシアと共に遺跡へと侵入する。

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