第三話 『元奴隷(ダークエルフ)への試練の話』
まだ動かしづらい身体をオルシアに支えられながら入った部屋はこじんまりとした部屋だ。
テーブルの上には柔らかそうなパン数個と湯気の上った黄色いスープがあるけど、お客様でもこられたのかな?
「おや、お目覚めになられたようですね。」
「お父さま!カリス様お連れしました!」
「おやおや、もう仲良くなっておられるようで」
父と呼ばれた司祭服を着た壮年の男性はオルシアの嬉しそうな様子に優しく返す。
「えっと、まあ……はい。おはようございます、司祭様」
「私はただの司祭ですから、様付けは要りませんよ聖騎士殿」
「え、でも」
「よいのですよ、さ、どうぞ席におかけください。」
司祭に勧められるまま床に座ろうとしてオルシアにこっちです!と背もたれのついた木の椅子に座らされる。
目の前に先ほど見えた食事がでん、と鎮座していた。
「どうぞ召し上がってください、領主様のかまどで焼いたばかりのパンです。スープも今朝方採れたばかりの新鮮な卵を使用しております。」
「これを?」
「ええ、貴方が」
目の前に置かれたまだ湯気が立っているスープとパンを見てからオルシアを見てみると、両手を組んで食前の祈りを捧げているところだった。
司祭も同じようにしてるのも見て、本当に食べていいものなのかと不安になるけど両手を組んで祈りを捧げる。
「……では、神様へのお祈りは済んだところでいただきましょう。」
「カリス様、沢山食べてくださいね!」
「は、はい。」
おそるおそるパンを持ち上げ観察する。
手で引っ張ると柔らかくふたつに裂かれ、断面は千切れたふわふわの雲のようで綺麗だ。
どこにも緑色のカビや嫌な臭いがない、綺麗なパンだ。
「……硬くない」
「ええ、村でも評判のものですよ」
「領主様のパンは何個でも食べれます!」
「あなたは食べすぎです」
「えー」
「…………」
親子の会話、笑い合う2人に脳裏に8年前の彼等の事がよぎる。
1週間だけだったけど、とても騒がしくて暖かった日々をくれた人たち。
奴隷のダークエルフである僕を守ろうとしてくれて、沢山のことを教えてくれた人達……生きてるかな?
「……やわらかい。」
千切ったパンをゆっくり噛み締める、口の中で溶けるような食感が広がる。
口の中で鼻に突き抜ける新鮮なパンの匂いも心地いい。
呑み込むと優しく喉を通る。
木のスプーンを鷲掴みにすると黄色いスープを掬う。
スプーンの中にはよく煮込まれた野菜と豆が形を崩すほどによく煮込まれている。
そっと口の中に運んでゆっくり咀嚼して飲み込んだ。
「あたたかい」
舌の上で溶ける具材が柔らかくて、噛むほどに解けて潰れる野菜が優しく、スープはそれを手助けするかよように温かい。
気づけば全部食べきっていた。
食後の祈りも済ませてから皿を重ねて運ぼうとするとオルシアが持っていってしまった。
手伝おうとしても座っててくださいと言われてしまい何もしないでいるのは初めてで困惑している僕がいた。
「さて、お食事の方はいかがでしたか?」
「えっと、あ、あたたかくて、やわらかかったです。」
「……相当苦労なさっておられたようですね」
どこか同情じみた響きを伴って返されたけど、何か変な事を言ったかな?
「さて、オルシアが食器の方を片付けている間に話をしましょう」
「話ですか?」
司祭様は柔和な表情のまま僕を見る。
「ええ、娘から聞いた話からだけですので、あなたが本当に聖騎士であるという証明にはなりませんから。」
「それは、そうですね。」
僕自身、
元とはいえ奴隷のそれもダークエルフが聖騎士とは前例はないだろう。
「それで提案ですが、あなたにひとつ試練を与えようと思います。」
「試練?」
試練って提案されるものなんだ?
「実はこの村から続く森の奥に神代の遺跡があるのですが、いつからか
「森の奥に、遺跡?」
「ええ、今は私の力でこの村は何とか護られておりますが、長くは続きません、なのでこの遺跡に赴き対処をして頂きたいのです。」
「僕ひとりでですか?」
「いいえ、オルシアも共に行かせます。娘は私に似て癒しと補助には秀でてますし、何より遺跡への道のりは娘となら安全にいけるでしょう。」
「なぜ、オルシアと?」
「そこでアンデッドやレイスへの対処や方法、様々な魔法についての事を実践形式で修行してましたから。言葉だけでは伝わらない事もありますからね。」
「意外とハードモードな修行ですね??」
「甘やかしすぎると癖になりますから」
「いや違う、そうじゃない」
意外と教育や修行に関してはかなりのハードな所が垣間見えて、思わずツッコんだ。
そういえばあの時オルシアが1人で来てた事を思い出してそれでかぁと、どこか納得してしまった。
そりゃ1人でも森の中を歩いても大丈夫になるよ!!
けど、そういうからには以前甘やかして失敗したことがあるのかもしれないし、聞かないほうがいいよね。
でも、気がかりなのは……
「あの、僕、奴隷でしたので武器とかは……あとこれですから服も……」
両手足と首の枷を見せる。
これによって普通の服は着られない上に、布一枚に穴を空けただけの簡単な布の服くらいしかないのだ。
武器に関しても、あの元主人の
司祭様はそんなことですか、と言う。
「でしたら丁度、神官の服の予備……私の子どもの頃のものになりますが差し上げましょう、剣も昔の仲間が持っていた物があります。」
「え、でもそれって」
「よいのです。試練を提案した身ですが、身一つで放り出すような悪魔ではありません。さ、準備しましょう聖騎士殿」
「あ、あの、聖騎士じゃなくて、カリスと言います」
「ではカリス殿、オルシアをよろしくお願いします。」
「……?はい」
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