<錬成術師>の行く道は、まだ

第1話 入学式

 真新しい制服に身を包んだ新入生たちを、校舎の窓から観察していた。

 緊張、楽観、憂鬱……。その面持ちは様々。

 彼女たちはその表情だけでなく、生い立ちも多様であるが、ただひとつだけ共通するところがある。

 窓から春の風が吹き込み、私の短い髪を揺らす。

「おいおい、遅れるぞ新入生」

 背後から凛とした女性の声。

 その声の主には心当たりがあり、私は振り返らずに返す。

「毎年入学式の前はここから眺めてるんだよ。今年はどんな人が来るのかなって」

「はあ……。去年までと違って今年からは学生なんだ。寮にも住むし、去年までのようには振舞えないって理解してくれよ」

「わかってますよ、母さん」

「わかってるならいいんだが……」

 彼女は愛川キョウカ。私の母さんだ。背は女性にしては高く、中性的な雰囲気を漂わせている。

 そして、母さんは私の実の母ではない。身寄りのない私――愛川リンを保護してくれた育ての親だった。その事実をある種、事故とも言うべき事由で知ってしまったのだが、母さんが母さんであることは変わらなかった。

「ほんとにわかってるって! 学内では極力母さんって呼ばないのも覚えてる」

「極力じゃないだろ」

「今は二人だし、いいでしょ」

 私の言葉に母さんは困ったように笑うと、私と同じように窓から新入生を眺めだす。

 母さんは学院に住み込みで働く教師だ。そのため、私も人生のほとんどを学院の中だけで過ごしている。

「クラスメイトの前で先生のことママって呼ぶやつやっちゃうかも。ハズいね」

「そんな呼び方してないだろ」

「まあね」

 そういってお互いに少し笑う。心地いい。

「いよいよリンも学生か……。感慨深いな」

「頑張るよ。せめて母さんに恩返しができるように」

「ばか、そんなこと考えなくていいんだよ。やりたいこと見つけて、勉強して、好きなように生きてくれ」

 少し強い口調で、それでいて優しい声音で言った。

 嬉しいけど、<錬成術師>はそんなことできないんじゃないか、と心の声が出かかったのを抑える。

 まっすぐな優しさに水を差すような考え方をしてしまったことに後ろめたくなって、母さんから目を逸らすように窓の外を見る。

 歩いている新入生に再び目をやると、ひとり、ベンチから動かないでいる生徒を見つけた。

 ただ休憩しているというよりは、少し苦しそうな表情のように思えた。

「あの娘、どうしたんだろ。ちょっと声かけてくるよ。じゃあ、またあとで」

「ああ、遅れるなよ、リン」


 校舎から降りると、彼女はまだベンチに座り込んでいた。

 思った通り、表情は辛そうで息もあがっているようだ。

「大丈夫?」

「あ、えと……大丈夫、です」

 突然話しかけられて驚いたのだろう。彼女は少し慌てながら答えた。

「それはよかった。新入生、だよね?」

「は、はい……。新入生、です。こんな人が多いところ、初めてで……」

「人酔いしちゃったか」

「そうみたいです……。参っちゃいました」

 そう言って彼女は申し訳なさそうに笑った。

 人酔い、とは言ってみたが周囲を見渡すとあまり人は多くない。

 道中で体調を崩してしまったのだろうか。

 いや、ここに来る人間は多かれ少なかれ、事情を抱えている。人が極端に少ない環境で過ごしてきたということも考えられる。

「私も新入生なんだ。愛川リンっていうの。よかったら一緒に行かない? えと……」

「聖澤イクヨ、といいます。では、お言葉に甘えて。知り合いもいなくて心細かったんです」

 そういうと、彼女は立ち上がる。

 聖澤さんは、ウェーブがかった茶髪のロングヘアーという出で立ちで、大人っぽい印象を受けた。そう思わせるのは顔立ちと、抜群といって差し支えないスタイルのせいだろう。手足はすらりと長く、出るところは出て、へこむところはしっかりとへこんでいた。

 これが同い年とは……、認めがたい。薄くて子どもっぽい体つきの私はそう思わざるを得なかった。

 初対面ながら失礼なことを考えていると、聖澤さんがぽつりとつぶやく。

「同年代のお友達が少ない環境だったので……嬉しいです」

「私も、年上しかいない環境で過ごしてきたから、すごい新鮮」

 学院にいるのは教師と年上の生徒たちであるため、年下としてしか扱われたことがない。

 そのため、同年代の友達との接し方というものが、よくわからなかったりするのだ。

「友達ってこういう偶然の出来事からなっていくらしいですよ」

 聖澤さんはいたずらっぽく言う。おとなしいだけじゃなくて、こういう表情もできるんだ。

「恥ずかしいことさらっと言うね」

 彼女の発言にちょっとした反撃をしてみる。

「そ、そうでしょうか……」

 すると、彼女は照れたような表情を浮かべ、顔を赤くする。かわいい。

「愛川さん、私たちいいお友達に――」

『おい! おめえもういっかい言ってみろや!』

 聖澤さんが言いかけた言葉を、怒号がかき消す。

 周囲を見ると、広場のほうに人だかりができているのがわかった。その中心では、生徒がふたり向かい合ってなにやら言い合っている。

 どうやら新入生同士での喧嘩が勃発しているようだ。

「聖澤さん、離れよう。あと、先生呼んでくるから」

「…………」

『物分かりも悪いでしょうから、何回でもいってさしあげますわ! スラム育ちのうす汚いドブネズミと同じ学び舎だなんて、反吐が出ます!』

 高慢な態度の生徒がもう一方の生徒へ、見下したような言葉を吐く。

 聖澤さんは私の言葉に返事をせず、じっとそちらを見つめていた。

「何か気になることでもあった?」

「ああ、逃げないと、ですよね」

 そう言った後、聖澤さんは注視していた理由を答えた。

「……ほかの人が使う<錬成術>、初めて見られるかもと思って」

 そういう彼女は、少し期待の混じった表情をしていた。

『育ちはそうかもしれねえ……。けど! 汚くはないだろが! どう見ても可愛いだろがよ!』

 瞬間、粗暴な少女の眼前に、鋭利な氷柱が出現し、高慢な少女の方へと射出された。

 高慢な少女は、なかなかの速度で射出されたそれを、自らの<錬成術>をもっていなす。

 鋭く振るわれたそれは、薔薇の蔓であるとわかった。

 青々しく茂り、いくつかの花が真っ赤に咲き、棘が睨みをきかせているようだ。

『暴力に走るなんて、やはり野蛮ですのね』

『うっせぇ!』

 売り言葉に買い言葉。煽りに見事に乗ってしまった粗暴な少女は、何発も氷柱を撃ち出す。

 高慢な少女は難なくそれらをいなすが、その一部が流れ弾として私と聖澤さんのもとへ飛来した――。

「聖澤さん!」

 私は、聖澤さんを庇うように一歩前へと咄嗟に踏み出す。

 だが、次の瞬間には、鋭い金属音とともに、何者かが氷柱を叩き落していた。

 私達を助けてくれた人物は私の腰ほどの背丈で、三頭身程度のずんぐりむっくりとした、ゆるいキャラクターのようなスタイルで、極めてシンプルなデザインの甲冑を着込んでいた。まるで、かわいらしいイラストを、立体に仕立て上げたような姿。

「ありがとう、私の<騎士様>」

 聖澤さんのつぶやきを聞き、かわいらしいスタイルの騎士の正体に合点がいった。

「ありがとう聖澤さん。助けるつもりが助けられちゃった」

「ううん、助けてくれたのは<騎士様>だから」

「そうだね、ありがとうございます。彼はいつも聖澤さんを助けてくれるの?」

 おそらく彼女の<錬成術>なのだが、発動の速度が異常に速いと感じた。彼女の意志とは無関係に、いわば自動に発動するのだろうか。

「そうですね、私がピンチになると、いつも助けてくれるんです。それにしても、氷柱を飛ばす<錬成術>……。本当にみんな、<錬成術師>、なんですね」

「そうだね、聖澤さんも、ここにいるみんなも……。そして私も!」

 私はさらに飛来してくる氷柱へ気づき、<錬成術>を行使する。

 それに呼応し、醜い土の塊が出現、氷柱から防ぐ盾となる。

「愛川さんすごい!」

「不格好な能力だけどね」

 私の土塊は、とても盾と呼べるような見た目ではない。

 泥団子を手でつぶして少し平たくしたような、そんな形状だ。

 褒められて悪い気はしないが、その醜さを、私は気に入っていない。

 小競り合いの勢いは段々と増していき、流れ弾も多くなるが、私達で対処ができる程度であった。とはいえ、<錬成術>による喧嘩は、ただの揉め事では済まなくなってしまうことも多い。徐々に野次馬も集まり始めるが、そのほとんどは距離をとって見守っているのみだった。

 ただ一人を除いて。

「なに、この騒ぎは。みっともない」

 声を上げたのは赤髪の少女。背は小柄だが、凛と背筋を伸ばす姿には威厳さえ感じられる。

 少し吊り上がった目元がさらに強気な印象を与えていた。

「あ? 止めるなよ!」

 粗暴な少女は、仲裁は不愉快であると言わんばかりに声を上げる。

「いいえ、止めるわ」

 一言だけ言うと、赤髪の少女は右手をすっと前に突き出した。

 その瞬間、彼女の足元から真っ赤に燃え盛る炎が噴き出す。

「あなた達、さっき<錬成術>を使っていたわよね」

「そ、それがどうしたよ」

 粗暴な少女は、突如現れた炎を見て動揺が隠せず、威勢がすっかり失われていた。

 それもそのはず。

 彼女の周囲に出現したその炎は、ただごとではなかった。地面から私達の背丈ほど立ち上り、ちりちりと肌を焦がすようにその火力が周囲に伝わっていた。

「ここは<錬成術>を学ぶ場所よ。日常的に行使するのは大いに結構。ただ、<錬成術師>の品位を落とすような目的で使われるのであれば――」

 赤髪の少女は、燃え盛る炎の威力を更に強め、続けた。

「この、桂木ヒトミがそれを咎めるわ! よく、覚えておきなさい」

 彼女にそう言われ、騒動の発端となった二人はすんなりと矛先を収めた。

「わ、わかったよ」

「品位、と言われてしまっては仕方ありませんわ」

「そう。わかればいいのよ。それと――」

 桂木さんは、集まっている私達に向けて言い放つ。

「あなたたちも、仲裁するくらいしたらどうかしら。……まあいいわ。

入学式、遅れないようにね」

 それだけ言うと、ヒトミは入学式が行われる講堂の方へと野次馬を散らしながら、歩いて行った。

「か……かっこいい人でしたね! 都会の人はみんなああなんでしょうか」

「そんなことはないと思うけど……。あ、いや、私も知らないんだけどね」

 聖澤さんは去っていった桂木さんに羨望のまなざしを向けている。

 先ほどの騒動の一方、高慢な少女は、いかにもお嬢様という出で立ちであった。裕福イコール都会ではないのだろうが、都会の人が皆、桂木さんみたいに振舞えはしないだろう。

 まあ、今の世の中に『都会』と呼べる場所がどれだけあるのか、という話ではあるが。

 いずれにせよ、世間を語るには私と聖澤さんでは役者不足であることは間違いなかった。


  ○


 所変わって、講堂。校舎に隣接する形で建設されており、各種行事や授業の一部はここで行われる。

 今は入学式の会場となっているため、普段と比べ装飾されていた。特に、壇上に飾られている紅白の幕が目を引く。その上には、二〇七六年度入学式と大きく書かれている。

 自由に着席してよいこととなっているらしく、私と聖澤さんは並んで座席についていた。

 他愛もない話をして開会を待っていたところ、ほどなくして入学式は始まった、のだが。

「ながぁ……」

「長いですね……」

 学長や、来賓といった方々が、長々と話すものだから、時間の流れが悠久に感じられた。

「誰かが時の流れを遅くする<錬成術>でも使ってるんじゃない?」

 私は冗談めかして言う。

「え、そんなのあるんですか?」

「聞いたことはないけど……、あってもおかしくはないよ」

 なにしろ<錬成術>というものは、わかっていないことが多い。どのような原理で発動されているのかも謎なのだ。さらに、<錬成術師>によって、その性質が全くと言っていいほど異なる。

「さっき見た、氷柱や炎みたいな物質を生み出す術が多いけど……、物質を生み出さずに、概念を生み出したり操作したりみたいなのも発見されてる。だから、時をゆっくりにするっていうのも可能性は十分あるんだよ。少なくとも、壊れたものを元に戻す<錬成術>なら見たことがある」

 聖澤さんは私の説明を感心した様子で聞いてくれる。

「愛川さんは<錬成術>に詳しいんですね」

「へへ、まあね。あ、そろそろ長い挨拶終わりそう」

 私達は壇上で挨拶をしている学長へと目を向ける。

『えー、ですから。<錬成術師>のみなさまには、無限の可能性があるわけでございまして、より素晴らしい道を、学院で見つけてもらえればと思っております。本日はご入学誠におめでとうございます』

 学長の長い長い挨拶が終わった。

 挨拶とは裏腹に、卒業した先輩の悲しそうな顔が浮かび、無限の可能性とはよく言えるものだ、とつい思ってしまう。

 退屈な長話は、その後も粛々と展開されていったが、私達はこっそりと雑談に花を咲かせていた。

 やがて、次のプログラムへと突入する。

『続いて、新入生代表挨拶』

 アナウンスに従ってひとりの少女が壇上に上がる。その姿には、見覚えがあった。

「愛川さん、あの子って」

「うん、さっきの都会っ子の」

 壇上には、小柄で強気な顔つきの、赤い髪が遠くからもよく映える少女が立っていた。

 つい先ほど、騒動を仲裁していた、確か名前は――。

『新入生代表、桂木ヒトミです』

 なるほど、代表を務めるほど優秀な人物だったのか。広場でのあの言動にも納得がいく。

 桂木さんは、手元に挨拶が書かれているであろう原稿を広げると、淡々と続ける。

『本日は私たち新入生のために、このような式典を開催していただき、ありがとうございます』

 とだけ言うと、桂木さんは手元の用紙を折りたたみ、掲げ上げた。

『この原稿、考えに考えて、何度も練習したのですが……気が変わりました』

 その瞬間、彼女の手元にあった原稿が、炎に包まれ、灰と化す。

 先ほども目にした、彼女の<錬成術>だ。

『先ほど、新入生同士で揉め事が起きていました。そして、あろうことか、感情に任せて<錬成術>の行使まで……。そのような<錬成術師>が蔓延っているから、私たちはこの学園に押し込められることになっているのではないでしょうか』

 桂木さんの言葉に新入生をはじめ、学院関係者はざわつく。押し込められていると、桂木さんは言い切った。

 確かに、学院には国内の十五歳となった<錬成術師>のほとんどが入学してきている。そこに拒否権はない。なお、十四歳以下の<錬成術師>は各地に作られた保護施設へ通うことが原則となっているが、こちらに学院ほどの強制力はない。

『普通の……、<錬成術>が使えない人々からしたら、<錬成術師>ははっきり言って脅威でしょう。我々は透明な拳銃を持っているのに等しい。だから現状<錬成術師>はひとくくりに学院で管理教育されている』

 桂木さんの言葉は熱を帯びていく。

『でも、善良な<錬成術師>が生きたいように生きられないなんて、きっと間違っている。私はそう思うわ。だから――』

 続く言葉に、私たちは唖然とした。

『私が総理大臣になって国を変えるわ! 手始めにこの学院よ! この桂木ヒトミが<錬成術師>達のために学院生活を、人生を捧げることを誓うわ!』

 彼女の瞳は強く未来を見据えていた。


  ○


「……すごかったですね」

 講堂から教室へ戻る最中、聖澤さんはそうつぶやいた。

 何のことを指しているのかといえば、当然桂木ヒトミの新入生挨拶、もとい、革命宣言だ。これまで、女性総理大臣の例もなければ、当然<錬成術師>がなった例もない。

 まさに茨の道だ。

「でも、なりたいものがあるのはいいことだよ」

「それはそうですね。あ、でも、あんなこと言って先生方に止められなかったのは、不思議でした」

「確かに」

 あれは反逆の狼煙ととられてしまいかねない発言だったようにも思う。

 しかし、実際には少しざわつくのみで、その後も沙汰があったようにはみえなかった。

「全然不思議じゃないよ」

 聖澤さんとあの演説に関して話していると、背後から声を掛けられる。

 そこに立っていたのは、明るい髪が目立つ派手な印象の少女だった。

「不思議じゃないっていうのは、いったいどういう」

「ああ、ごめんね、いきなり話に割り込んで」

 そう謝る彼女は人懐こそうな笑みを浮かべる。

「それは大丈夫だけど、……事情通なの?」

「そんなところかもね」

 そう言って少女はケタケタと笑う。

「二人はあれだ。あんまり情報が盛んじゃないところの出身かな」

「まあそうだね」

「同じくそうだと思います」

 田舎者と馬鹿にされていると少し思いつつも、私と聖澤さんは同意をした。すると、私の感情が表情にでていたのか、彼女は少し申し訳なさそうにしながら続けた。

「ゴメンゴメン! バカにするつもりは全然なくて……。というのも、桂木のお嬢様といえば結構な有名人物なんだよ」

 彼女はそういうと、知っていることを教えてくれた。

 いわく、代々続く政治家一族のお嬢様で、祖父は過去に総理大臣を務め、父は現役の国会議員であるとか。そんな家系から<錬成術師>が生まれてしまったものだから、当時話題になり、学院へ通わせるのか否かに注目が集まったらしい。

「通わないって選択肢があり得るんだ」

「それだけの影響力を持ってたってことなんじゃないかな。まあさっきの挨拶を見てもらった通り、結局は入学せざるを得なかったっていう結末だけどね」

 彼女は一転、少し皮肉っぽい表情を浮かべる。

「じゃあ、挨拶の時に止められなかったのが不思議じゃないというのは……」

「背後の政治家連中が怖かったんじゃないかな」

 聖澤さんの問いに、彼女はすっぱりと答える。

 学院の教師――特に母さんはそんなこと恐れるような人ではないと思い、その考えには同意しかねる。しかし、桂木さんの言動にお咎めがなかったことの説明としては、信じさせるだけの納得感があった。

「というか急にごめんね。アタシは宮下ヨーコ。一般家庭出身の普通の子!」

 陽気な雰囲気の少女、宮下ヨーコはするりと私と聖澤さんの輪に入ってきた。これが一般家庭出身のコミュニケーション能力……。私はひっそりと驚愕した。


 さて、突然だが今年の新入生はおよそ百人程度らしい。その人数を一か所に集めて教えるというのは難しいため、必然的にいくつかのクラスに分かれることになる。

 学年が進むにつれ、より厳密に個々の<錬成術>の特性を鑑みたクラス分けが実施されるが、初年次では入学時試験や事前調査等で得られたおおよその情報によって分けられているようだ。

 新入生はクラス分け結果を入学式後に確認し、それぞれの教室へ向かうこととなっていた。

 私は、聖澤さん、宮下さんとともに結果を確認する。張り出された紙を確認すると、各組に振り分けられた個人名が五十音順で記載されていた。私の名前は「あ」から始まるため非常に見つけやすく、一組の最初に書かれている。

「あ、私は一組だ」

「わたしも一組みたいです! 宮下さんは……」

「ふふふ! アタシも同じだったよ!」

 どうやら、聖澤さん、宮下さんと同じクラスへ配属されたようで、孤立の危機は避けられそうだった。コミュニケーション能力抜群の宮下さんと行動することで、交友関係が広まる可能性も考えられる。

 ほっと胸をなでおろしていると、「あ」、と聖澤さんが声を上げる。

「さっき挨拶していた、桂木さんも同じクラスみたいですよ!」

「そうなんだ。あの挨拶の調子だと、なんだか一波乱ありそうだね」

 <錬成術師>が生きたいように生きられる世界を作りたい、と言っていた桂木さんだ。

 果たして今後、どのような行動を起こしていくのか、期待半分、不安半分というところだ。


 クラス分けの結果を把握した私たちは、一年一組の教室へと向かう。

 しばらく待って、そこへ現れた教師を、私はよく知っていた。

「担任の清浦カイリで~す。よろしく~」

 スラっとした長身かつ細身で、やたらと眠そうな目とぼさついた髪の教師、清浦先生だ。

 彼女とはもちろん面識もあるが、それ以上に母さんの愚痴の登場人物として知っていた。

 彼女と同世代の母さんは、なにかと彼女の面倒をみる機会が多いらしい。同僚の世話とかする必要はないような気もするが、そこは母さんのお人好しなところだ。

「え~。今日やることは、と……」

 清浦先生はポケットからごそごそと、折りたたまれた紙を取り出した。

 ちらと見えたが、手書きで、『今日伝えないといけないこと』と書かれていた。

 あれも多分母さんが作っているのだろう。

 清浦先生は台本に従ってボソボソと読み上げていく。

 しばらくして、別の原稿へと移った。

「え~……。じゃあ、次に決めないといけないことが……」

 そのとき、学院に鐘の音が響き渡る。ホームルームの時間の終わりを告げるものだ。

 その音を聞いて、清浦先生は一瞬思案するが、すぐに決意し、言った。

「クラス委員を決めないとなんだけど~、もう帰る時間だから帰るね。また今度やりま~す」

 清浦先生は、そそくさと荷物をまとめる。

「あ、あとクラブ活動もどこに入るか、来週までに決めないといけないから~、各自見学とかして決めておいてね。じゃ、かいさ~ん」

「ちょっと先生! もう少し真面目に!」

 『ある生徒』の抗議は全く無視し、本当に清浦先生は帰って行ってしまう。

 私たちは教室に取り残され、苦笑するしかなかった。

 ちなみに、『ある生徒』とは当然、桂木さんのことで、大層怒っていた。

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