錬成術師の行く道は

T-大塚

プロローグ

 醜く歪な土の塊が現れては、崩れ落ちる。

 卒業式は、別れの象徴であるとともに、新たな世界への旅立ちの日であるらしい。

 今の世界から旅立ち、寂しさはありつつも、自らの目指す新しい世界へ歩みを進める。

 少なくとも、一般的にはそのようだ。

 そんな式典が開催されている傍ら、私は学院の一角で日課の鍛錬をしていた。

 土の塊を<錬成>しては、動かし、また戻す。

「ここにいたんだ」

 背後から、よく知った声が聞こえる。声のする方を向く。

「あ、先輩、卒業おめでとうございます」

 彼女は、この学院から今日旅立っていく<錬成術師>の一人で、昔から、学院の片隅で暇そうに過ごしていた私のことをよく気にかけてくれていた。

「うん、ありがとう」

 祝いの言葉に感謝を返しながらも、彼女の声音は憂いを帯びていた。

「先輩は卒業したら、どうするんですか?」

「<治安維持隊>に入ることになってる。明日から早速訓練。だからさ、花の学院生気分も本当に今日まで」

 それって、先輩が本当になりたかったものなんですか……、とは聞けなかった。

 その答えはわかりきっている。

 <治安維持隊>は主に<錬成術師>で構成された組織で、<錬成術>による治安の乱れを防ぐものだ。その活動内容は、非常に危険な戦闘を伴う。

 <錬成術師>には好戦的な人物も多いが、この先輩は決してそのようなタイプではなかった。

 しかし、<錬成術師>の人生は、選択肢が極めて少ないのだ。

「キミがこの学院にいてくれてよかったよ。おかげですごい楽しかった」

「こちらこそ、いつも遊んでくれて、ありがとうございました」

「うむうむ! まあでも、本当は学院生として、一緒に通いたかったな」

「それはそうですね。私は来年度から入学なので」

「知ってるよ。入学おめでとう! そうだ、お祝いしようか!」

 そういうと、私たちの眼前に拳ほどの大きさの、まばゆく輝く光の玉が出現する。

 彼女が手を振り上げると、その玉は空中へと発射され、その後炸裂した。

 様々な色の火花が飛び散り、きらきらと輝く。

「見て! きれいでしょ!」

「……はい」

 ……ああ、私の能力も、こんな風に綺麗だったらよかったのに。

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