節穴

 私はそれが気に入らず、眉間に皺が寄った。何故なら、彼女は謂わば「世渡り上手」と呼ばれる人間の性質を有しており、決して悪罵を集めるような人間ではないと手前勝手に思っていた。だがしかし、他のクラスメイトからすれば、彼女の霊格は低く見積もられ、殺人を行っても不思議ではないと評されていたようである。


「なんつーか、誰に対しても心を開いていない感じだったよな?」


「そうそう」


「目が笑ってないんだよ」


「腹に一物ある」


「誰とも仲良くなかったよな」


 彼女は彼方此方で悪し様に扱われ、ひとえに困惑するしかなかった。私からすれば、どの意見も的外れ甚だしく、全くの別人について述べているかのように感じて仕方ない。とはいえ、私はクラスメイトの言い分を一語一句、聞き漏らさないように耳を傾ける。一つでも思い当たることがあれば、乖離する人物像との整合性に充て、少しでも接近したい。そうでなければ、数少ない友人として認識していた私の見解は、「節穴」という汚名を背負うことになってしまう。勿論、「そうは思わない」と毅然とした態度で反証を行えれば、それに越したことはない。しかし、クラスメイトが口々に述べる悪評を覆す器量など、私が持ち合わせている訳がない。


 矢継ぎ早に注文をつけるクラスメイトらの軽々しさから、まるで怪談話を拵えてきたかのように、とあるクラスメイトが遅々とした弁舌で話し始める。


「実はさ……」


 その語り具合から、先刻までに語られてきた彼女への悪馬を矮小なものとして咀嚼させ、固唾を飲んで傾聴するほどの注目を集めた。教示を受けるのに相応しい静けさは、ゴミゴミと猥雑さを帯びる居酒屋にとって、些か似つかわしくない。それでも、同じ学び舎で共に時間を過ごしたクラスメイトが、「殺人を犯した」という題目を黙殺するような真似は不健全とも言え、触れざるを得ない中心人物として侃侃諤諤とやり合う他なく、確信に触れようとするクラスメイトの語り口に釣られて閉口するのは至極当然であった。私も例に漏れず、口を固く閉ざして聴覚の鋭敏さを獲得していた。


「……そう。アレは二学期の冬休み前だったかな」


 怪談の導入にしては、あまりに王道だ。そして、期待に応えようとする意気込みが、握り拳を作って顎に添える様から読み取れた。アルコールの分解がきわめて苦手な私の顔は、鏡などで確認せずとも赤らんでいることは分かる。少しだけ浮ついていた意識が、出し抜けに話し始めたクラスメイトのおかげで鮮明になりつつあった。


「授業が終わって、家に帰る途中だったんだ」


 言葉を選んでいるというより、自分の記憶を今まさに掘り起こしているかのような慎重さがありありと伝わってくる。私達はその思索に対して、待ち構えることしかできず、乾杯の挨拶が行われた後とは思えない、静けさを保ち続けた。


「アイツが小動物を解体しているのを見たことがあるんだよね」

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