今日。

筆ペン

会社で

今日、会社の同僚が退職した。

同僚と言っても、私がまだ6年位の勤務で、

彼は70年の超ベテランだ。社員を勤め上げて、パートで働いていたおじいちゃんだ。

元々、この会社の先代の社長の弟でこの会社の創業者の一族だ。


だけど私が入った時には既に耳の聴こえも悪く動きも遅い。背中も曲がっていて、

ホントにおじいちゃんだ。

ただ、話す時にはいつもニコニコしていた。

優しいかは別として、朗らかに、会話を又したくなる、ほわっとしたおじいちゃんだ。

重たい荷物も懸命に運んでいた。

私が代わるとありがとうと言ってくれるが、

「あんたも自分の仕事あるでしょ」と気遣ってくれる方でした。


別に深く話はしなかったが、

片付けられていくその机は何となく寂しさがあった。ほんと竹串や消しゴム、輪ゴム、

紙切れ、ゴミみたいなのばかり綺麗に筆箱に入り、これは道具なのか、ゴミなのか

たまに私はそれを見てぼーっと眺めていた。


今では現役を退いた会長がたまに会社を見に来て、その姿と細々と仕事をしているおじいちゃんを見比べて、兄弟だということがまた切なかった。


普段は杖をついているらしいが、

仕事には二本足で出社するのだそうだ。


「こんな歳まで使ってくれてありがとう。」

別れの挨拶笑いながらそう言って、最後までみんなを笑わせていたおじいちゃんだ。

その一言がまた、私の心を温かくしてくれた。


「まだ、電車が、煙吐いてた。」

それは電車じゃない。

そんな話をした事もあった。


疎開の事。たまに話す昔話が、私が未だこの世に居ない時から働いてきた翁は

目尻の皺が、白く濁った目が、

仕事を転々としてきた私に考えさせられる事もあった。


「明日から何しようね。

お気遣いなく。」


「お元気で」


春一番のような強い風が

悲しさとも嬉しさとも違う私の顔を強ばらせた。


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今日。 筆ペン @satoshi5476

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