第2話

 朝、小鳥たちがさえずり始める頃。

 中堅STI“幕治文化学院まくはりぶんかがくいん”の女子寮の一室で、1人の少女が目覚まし時計の音と共に目を覚ます。彼女は目覚ましを止めて2段ベッドの1段目から出ると、寝巻から制服に着替えて自身の机の上に置いてある水引のような髪飾りを頭に付ける。そして前の晩の内に荷物を詰めておいた革製の鞄を机の上から手に取ると、まだ眠っているルームメイトを起こさぬように部屋を出た。

 少女は寮の建物の廊下を通って階段を下りると、そのまますぐ側にある食堂へ向かう。食堂は既に起きてから間もないSTIスティの生徒たちで賑わっており、座席もかなり埋まっていた。少女は食堂の隅で空いている席を見つけるとそこに一旦鞄を置いて財布だけを持ち、食堂の入り口付近にある食券機から伸びる列に並ぶ。そして食券を買ってカウンターへ向かい、注文した焼き鮭定食を受け取ると先程場所取りした座席へと向かった。

 しかし少女は場所取りした席の前で足を止める。彼女が場所取りした座席の右隣には黄色いネクタイと黄色いパーカーを身に着けた二つ結びの少女が、目の前のテーブルにコロッケ定食を載せて座っていた。

「やっほー、みあきち」

 二つ結びの少女は目の前の少女に手を振る。みあきちこと加賀屋かがや 水晶みあきは目をぱちくりさせた。

「…仁戸田にへださん」

 水晶が思わず呟くと、二つ結びの少女こと仁戸田 紀奈のりなはもーみあきちは堅いな~と笑顔を見せる。

「あたしのことは紀奈でいいよ、紀奈で」

 そう言って紀奈は立ち上がり、自分の席の左隣に水晶を座らせる。

「ささ、早いとこ朝ご飯食べちゃおー」

 紀奈は先程自分が座っていた席に座ると、いただきまーす!と手を合わせてからコロッケ定食を食べ始めた。

 水晶はなんでこの人がここに…と言わんばかりに不思議そうな顔をしながら焼き鮭定食を食べ始めた。




 昼、日が1番高く昇る頃。

 幕治文化学院はちょうど昼休みの時間帯にさしかかっていた。午前の授業やカゲ出現時に出撃するため授業に出ず待機する“出撃当番”、そして警報システムでは拾い切れないカゲの出現を確認するための“哨戒任務”が終わった生徒たちが食堂へ向かったり売店で惣菜パンを買いに行ったりと賑やかに過ごしていた。

 高等部1年B組の水晶も他の生徒たちと同じように食堂へ向かおうと自席を立とうとしていた。しかしそこで廊下から声がかかる。

「みあきちー!」

 水晶が教室の前の入り口の方を見ると、二つ結びの少女が手を振っていた。水晶はついその場でポカンとする。

「一緒にお昼食べに行こ!」

 二つ結びの少女…紀奈はそう水晶に呼びかけるが、水晶はそれを無視するかのように席を離れると教室の後ろの扉から出て行ってしまった。

「あ~待ってよみあきち~」

 紀奈は即座にその後を追う。

「みあきちなんで無視するのさー」

 紀奈が水晶に追いつくと、水晶は別にいいじゃないですかと答えた。

「わたしはそこまであなたに興味ないですし」

 水晶は歩きながらそう言うが、紀奈はそんなこと言わないでよ~と返す。

「あたしはみあきちに興味あるんだし」

 お昼も一緒に食べたいな~と紀奈は飛び跳ねる。

「…」

 水晶は黙って歩みを早める。それによって紀奈は置いていかれそうになるが、待ってよーと早歩きする。しかし水晶は追いつかれまいとさらに歩みを早める。紀奈もさらに歩く速さを上げる。気付くと2人は廊下を走っていた。

「待ってよみあきち!」

 紀奈はそう言って止めようとするが、水晶は気にせず走っていく。気付けば水晶は人通りの多い校舎1階の廊下を走っていた。

 水晶は廊下を通る生徒たちを避けつつ進んでいく。その途中で1人の女子生徒にぶつかったが、水晶は気にせず駆けていった。

「ちょっと!」

 水晶とぶつかった少女は思わず水晶を引き留めようとするが、水晶はもう既に廊下の角を曲がっていて姿が見えなくなっていた。紀奈は待って~と少女の横を通り過ぎていく。

 少女は紀奈の顔を見て一瞬驚いたような顔をし、パッと彼女たちが走っていった方を見た。

「…」

 少女は暫くの間2人が去っていった方を見つめていた。




 水晶が紀奈に追われ始めて暫く。

 水晶は体育館裏まで辿り着いていた。

 人気ひとけのない体育館裏を見回した水晶はここなら大丈夫かと言わんばかりにため息をつく。しかし後方からおーい!と明るい声が聞こえてきた。

「みーあーきーちー!」

 パッと水晶が元来た方を振り向くと、紀奈が手を振りながら駆け寄ってきていた。

「…なんで」

「なんでって、なんでもいいじゃん」

 ぎょっとする水晶の言葉を気にせず紀奈は続ける。

「あたしはみあきちと一緒にお昼を食べたいだけだって…」

 紀奈がそう言いかけた時、彼女の後ろから仁戸田さん!という声が聞こえた。

「何をしているの⁇」

 紀奈が振り向くと、切り揃えた髪を頭の右横でサイドテールにし、赤いリボンと臙脂えんじ色のベストを身に着けた気の強そうな少女が立っていた。

「…あ、ともえ

「あじゃないわよあじゃ」

 あなた、また人を困らせているの?と巴と呼ばれたサイドテールの少女は水晶と紀奈に近付く。

「彼女が嫌がってるじゃない」

 紀奈に詰め寄る巴に対し、紀奈はえーいいじゃーんと口を尖らせる。

「あたしはみあきちをお昼に誘ってあわよくば部隊に誘おうと思ってるだけだしー」

「それが迷惑になるっていうのよ!」

 そう言って巴は呆れたような顔をする。

「本当に、あなたは中等部の頃から…」

「あ、もしかして巴、あたしの部隊に入りたい⁈」

 巴の言葉を遮るように紀奈は尋ねる。巴ははぁ⁈と言い返す。

「なんで私があなたの部隊に入る話になるのよ⁈」

 巴はそう声を上げるが紀奈はえー違うの~と笑う。巴は違うわよ!と返す。

「私はあなたの部隊になんか入らないわよ!」

 そもそもなんでそうなるのよ~と巴はそっぽを向く。紀奈はそこをなんとか~と懇願するが巴は嫌よの一点張りだった。

 水晶はそんな2人の言い合いを暫く見ていたが、やがてふと紀奈にこう声をかけた。

「…ねぇ、仁戸田さん」

 水晶の声にん、何~?と振り向く。

「どうして仁戸田さんはそんなにわたしを勧誘したいの?」

 別にわたしじゃなくてもいいんじゃ…と水晶は言うが、紀奈はあーそれはねと明るく返す。

「あたし、カゲから取り戻したい所があるんだ」

 そのためには強い人に仲間になって欲しくてさ、と紀奈は笑う。その様子を見た巴は複雑な面持ちになった。

「だからみあきちにが仲間になって欲しいんだけど…」

 紀奈がそう言いかけた所で、校内に突然けたたましいサイレンが鳴り響いた。

『管轄地域内でカゲの出現を確認、管轄地域内でカゲの出現を確認、出撃可能スパークラーは速やかに出撃せよ、場所は…』

 張り詰めた口調の校内放送に3人は顔を上げる。そしてすぐに水晶は“P.A.”ピーエーがしまわれている“武器庫”へ向かった。

「あ、待ってよみあきちー」

 あたしも行く~と紀奈は水晶のあとを追う。巴もそのあとを追いかけ始めた。




 カゲ出現の一報から暫く。

 人々が避難した街中は、既にもぬけの殻になっていた。そんな街中を、色とりどりの武器フォトニックアームズことP.A.を携えたスパークラーたちが駆けている。彼らが向かう先には大小様々な形をしたカゲがうごめいていた。そのカゲの群れの中心には広げた枝のような部分をぐにゃぐにゃと動かす高さ5メートル程の樹木状のカゲ“ヌシ”がゆっくりとスパークラーたちの方へ向かっていた。

「あれがヌシかな」

「でけー」

 周囲のスパークラーたちがそう呟く中、水晶は真っ先にヌシを取り囲んでいる人間大のカゲたちに突っ込んでいった。カゲたちは水晶に気付くが、すぐに彼女のP.A.“ソウウン”に切り裂かれて消滅していった。水晶は眉1つ動かさずにカゲを倒していくと、あっと言う間にヌシの目の前まで辿り着いた。しかし水晶の接近に気付いたヌシは枝のような部分の先から光線を放つ。

「っ‼」

 水晶は足元に光の力を込めて後ろに10メートル程跳び下がるが、その拍子に転んでしまった。地面を転がる水晶が立ち上がろうとすると、そこへ二つ結びの少女が駆け寄ってきた。

「みあきち!」

 水晶が振り向くとそこには紀奈が立っていた。

「大丈夫?」

 紀奈は立ち上がろうとする水晶を手伝おうとしゃがみ込むが、水晶はそれを振り払って立ち上がる。

「…別に」

 1人でもなんとか…と水晶がこぼした時、紀奈は目の前のヌシを見て目を丸くする。それに気付いた水晶が仁戸田さん?と尋ねた時、2人の背後からバカねという声が聞こえた。

 2人が振り向くと、サイドテールの少女がサーベル型P.A.を持って立っていた。

「あんな大きいのを1人で倒そうとするなんて自滅行為よ」

 あなたは何を考えているのかしら、と少女は水晶と紀奈に近付く。

「巴!」

 巴も今出撃当番なんだ!と紀奈が驚くと、巴はそんな話してる場合⁈と言い返す。

「もうすぐ代表部隊がこっちに辿り着くみたいだから、私たちは露払いに徹するわよ」

 仁戸田さん、と巴は紀奈に声をかける。しかし紀奈は目の前のヌシを見ていた。

「…聞いてる?」

 紀奈が自分の話を聞いていないかもしれないと思った巴は彼女に尋ねる。だが紀奈は答えない。痺れを切らした巴がちょっと…と言いかけた時、紀奈はすっくと立ちあがった。

「…あたし、行ってくる」

 紀奈の言葉に巴ははぁ⁈と言い返す。

「まさかアレを倒しにいくなんて言わないでしょうね⁈」

 巴はそう訊くが、紀奈はまぁ、そんな所かなと言って走り出した。

「仁戸田さん!」

 巴はそう引き留めようとするが、紀奈は足元に光の力を込めると高く跳び上がった。そしてそのまま空中から手に持つボウガン型P.A.“ダープン”のトリガーを引いて樹木状のカゲに光の矢をいくつか撃ち込む。しかし光の矢はカゲに刺さったもののびくともせず、枝先をチカチカ光らせて光線を放とうとしてきた。

「…やっぱり無理か」

 紀奈は地面に着地するとそう呟く。そして右手に持っていたダープンを左手に持ち替えると右太もものホルスターから短剣型P.A.“ヴァリアント”を手に取り、襲いかかるカゲの群れに突っ込んだ。

「あぁ、もう…何やってんのよ」

 巴は闇雲に戦う紀奈を見て呆れたように呟き、紀奈の元へ向かおうとする。しかし待ってという水晶の言葉に足を止めた。

「…どうして、どうして仁戸田さんはあんなのに立ち向かうんですか?」

 もしかして、わたしがやられたから…と水晶はこぼす。

「…別に、そうじゃないと思うわ」

 巴は水晶に背を向けたまま返す。

「ただ、あのタイプのカゲは…あの子にとって“かたき”みたいなものだから」

 そう言うと、巴はカゲの群れに向かって走り出す。水晶は黙ってそれを見送った。




 街にカゲが出現してから暫く。

 紀奈はカゲの群れの中で小型のカゲたちと戦っていた。

「どいて、どいてよ!」

 紀奈はそう叫びながらヴァリアントを振り回す。本来、カゲは心臓部である“ダークコア”もとい“コア”を破壊することができれば倒すことができる。しかし今の紀奈のように戦い方ではコアを上手く破壊することができず、無駄に光の力を消費してしまうだけだった。

「…はぁ、はぁ」

 紀奈は膝に手をついて肩で息をする。無計画に暴れているだけの今の紀奈は光の力だけでなく体力も消耗してしまっていた。

「どうして、どうして…」

 紀奈は思わず俯く。その目から涙がこぼれた。

「あれは、アイツは…あたしが倒さなきゃいけないんだ」

 やらなきゃ…と紀奈はヌシに向かってふらふらと歩き出す。しかし周囲のカゲたちが彼女に飛びかかろうとする。紀奈はそれに気付いているのかいないのか、そのまま進もうとした。

 だがここへ光の弾丸が飛んできてカゲを貫いた。

「⁈」

 紀奈は驚いて顔を上げる。カゲたちはなおも襲いかかろうとするが次々と飛んでくる光の弾丸によって霧散した。目の前の状況に紀奈が呆然と立っていると、仁戸田さん!と彼女の背後から声が聞こえた。

 パッと紀奈が振り向くと、巴と水晶が拳銃型P.A.“パッセル”を構えつつ走ってきた。

「…巴、みあきち」

 なんで…と紀奈は言いかけるが、巴は紀奈の前に出てパッセルのトリガーを引きながら、なんでも何も!と言い返す。

「あなたが急に出しゃばるからよ!」

 信じられないわ!と巴は続ける。

「あなた、故郷をカゲから解放するんでしょ⁈」

 こんな所で、あなたの故郷を奪ったカゲと同じタイプのカゲにやられてどうするのよ⁈と巴はパッセルのトリガーを引き続ける。水晶も紀奈の後ろでパッセルを撃ち続けている。周囲のカゲたちは2人の奮戦で少しずつ数を減らしていたが、ヌシが侵蝕している地面から次々とカゲが湧いてきて彼女たちに迫っていた。

「…でも、アレは」

「仁戸田さん」

 紀奈の言葉を遮るように水晶が声をかける。

「わたしは、なんであなたがあのカゲに対してムキになっているのか分からない」

 でも、と水晶は続ける。

「1人でアレを倒すことはできないけど、わたしたちでならできる」

 だから1人で戦わない方がいい、と水晶は呟く。

「知ってる人が死ぬのは、嫌だから」

 その言葉に紀奈は…みあきち、とこぼす。そして紀奈は左手に持っているダープンに目を向けた。

「…よし」

 紀奈は独り頷くと、ダープンを自らに飛びかかってくるカゲに向けてトリガーを引いた。ダープンから射出された光の矢は頭上から来るカゲを撃ち抜き霧散させる。巴と水晶は思わず振り向いた。

「巴、みあきち…ありがとう!」

 あたし、どうかしてたかもと紀奈は巴の前に歩み出る。

「みんなで、あのヌシ倒しちゃお!」

 紀奈はダープンで樹木状のヌシを指し示す。巴は仕方ないわねと呟き、水晶は静かに頷いた。

「とりあえず、2人は雑魚たちをお願い!」

 あのでっかいのはあたしがなんとかする!と紀奈が言うと、巴は分かったわとパッセルを右太もものホルスターにしまい、左手から右手にサーベル型P.A.“カールツヴァイ”を持ち替える。水晶もパッセルをしまって刀型P.A.“ソウウン”を持ち替えた。それを確認した紀奈はダープンをヌシの幹に当たる部分に向けて撃つ。ヌシの幹のような部分の中腹に光の矢が突き刺さるとヌシは身震いをした。その直後、ヌシの木の枝のような部分の先がチカチカと点滅した。

「来る!」

 紀奈がそう言うと水晶と巴は足元に光の力を込めて飛び上がる。紀奈も走ってその場から移動する。ヌシの枝部分の点滅が収まった瞬間枝先から無数の光線が放たれて、紀奈たちが先程までいた場所を周囲のカゲごと焼き払った。

「今だ‼」

 ヌシの目の前のカゲが消滅し、目の前ががら空きになった瞬間紀奈はダープンを投げ捨ててヴァリアントを構える。そしてそのままヌシに向かって駆け出し、ヌシの数メートル手前で光の力を足元に込めて飛び上がった。

 ヴァリアントを構えたまま紀奈はヌシの幹部分の中腹の、先程光の矢が刺さった場所に飛びかかる。紀奈はヴァリアントを幹の中腹に突き刺した。

 ヌシはヴァリアントが突き刺さった数秒後、つんざくような悲鳴を上げて霧散し始めた。ヌシは枝先から幹へと音もなく消滅し、やがて紀奈はヴァリアントを握ったまま地面に落下した。

「いてっ」

 どさっと地面に落ちた紀奈は思わずうめく。そして顔を上げると周囲のカゲも目の前のヌシも消滅していた。

 巴と水晶は暫くその様子を見ていたが、カゲの群れが完全に消滅したことを確認すると紀奈の元へ向かった。

「仁戸田さん!」

 巴は紀奈に駆け寄りつつそう呼びかける。紀奈は巴!と彼女の方を見る。

「あたしたち、あれを倒せたよ!」

 やったよ!と紀奈は笑う。巴は呆れつつも紀奈を立たせる。そこへ水晶も近付いてきた。

「…みあきち!」

 紀奈は自分の方に近付く水晶に気付くとそう声をかける。水晶は仁戸田さんと呟く。

「やったねーみあきち!」

 紀奈は水晶に対し手を挙げるが、水晶はポカンとした顔をする。

「あれ、みあきちハイタッチしないの?」

 ほら、と紀奈が促したことで水晶は紀奈と恐る恐るハイタッチした。紀奈はにこにこと笑う。

「…それでなんだけどさ」

 みあきち、とここで紀奈は水晶に向き直る。水晶はぱちくりと瞬きをする。

「…あたしの部隊に入ってくれないかな?」

 明るく言う紀奈に対し、水晶はえと返す。紀奈は続ける。

「あたしね、生まれ育った地元…舘山たてやまって所なんだけど、そこが7年前に陥落しちゃって住めなくなっちゃったんだ」

 だからそこを取り戻したくて自主結成部隊を作ろうと思ったの、と紀奈は笑う。

「舘山にはさっき倒した木みたいなカゲのもっとでかいのがいて、あたしみたいなスパークラーだけじゃ絶対倒せないんだ」

 それでみあきちみたいな強い人に入ってもらおうと思ったの、と紀奈は水晶の手を取る。

「だからさ、水晶にはあたしと戦って欲しいんだ!」

 だからお願い!と紀奈は水晶に頭を下げる。しかし水晶はそれは無理、とその手を振り払った。

「…わたしは1人で戦う」

「えっ」

 水晶の言葉に紀奈は言葉を失う。

「どっ、どうして⁈」

「別にわたし仲間になんて興味ないし」

 そっぽを向く水晶に対し、紀奈はえーっ!と声を上げる。

「そんなぁ…」

 今回も一緒に戦ってくれたじゃーんと紀奈は言うが、水晶はそれはたまたまですと返す。

「みあきちの強さは1人じゃ輝かないと思うんですけどー」

「そんなのどうでもいい」

「どうでもよくない~」

 紀奈と水晶は暫く押し問答を続けていたが、やがて紀奈がこう口を尖らせた。

「…1人では戦えないって言ったのは君でしょ⁇」

 紀奈のその言葉になっ、と水晶は後ずさる。

「それは…」

「そういうこと言っといて1人で戦うなんて矛盾してると思うんだけどな~」

 紀奈がそう言ってにやりと笑うと、水晶は思わず黙り込む。その様子を見た紀奈は再度水晶の手を取った。

「だから、ね、入って?」

 紀奈の有無を言わさぬ満面の笑みに水晶は微妙な顔をする。そして暫くの沈黙の後にこう言った。

「…分かった」

 部隊に、入ると水晶は呟く。それを聞いて紀奈はやったぁ!と水晶の手を握ったまま飛び跳ねる。水晶はそのまま紀奈にされるがままになっていた。




〈第2話 おわり〉

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