第3話

そして、Web Upを試みる。3種類の写真、片腕、両腕、頭部が出た状態。

 合計3枚の写真を続けてUpするとなかなかいいインスタ映えだ。なかなかいいインスタ映えになっている。


 これはいける。


 うむ。なかなかの出来栄えだ。自画自賛し、またもや自分に酔いしれてみる。

 だが、しかし。一番大切なのは。

 そう、アクセス数。

 アクセス数こそ重要だ。とにかく、あらゆる角度から写真を撮りまくる。ここぞという最後の1枚を決めるために撮って撮って撮りまくる。皆様に見てもらうには面白味も必要だ。先ほどのものと順番にWeb Upするとなると、ここは落ちになる重要な部分だ。重要な1枚を撮りまくった写真の中から見つけ出す。

 よし、これぞインスタ映え。なかなかの出来栄えだ。ここぞという1枚が決まった。


 Web up O.K.


 ふと見上げた空は晴天で、星たちがひそやかに瞬いている。所々の街灯が星たちの光を弱めている。


 晴れわたった空。澄んだ空気。

 すがすがしい。


 雪が降りやんでから、もう何時間もたっているはずなのに足元を見るとまだ雪がたっぷり残っている。夜なため気温が上がらないせいか。

 それにしても、なかなか溶けない雪だなと思いつつ。僕の創作意欲は、まだまだ残っている。この溶けない雪のように、僕の創作意欲もとけずにいる。

 僕の頭の中は次の作品のことを考えていた。脳内がすでに先走っている。何にしようかなと考えつつ、僕の脳裏に浮かんだのは、これだ。


 尾崎豊「15の夜」


 走り出してやろう。盗んだバイクで。といっても本当に盗むわけではない。盗んだバイクで走り出しそうな雪人形を作ってみせようぜ、ホトトギス。

 僕は自宅から飛び出し住宅街へと足を踏み入れた。辺りを見渡し、できるだけ道路側に置いていそうな、それらしきブツを探す。

 ちらほら見て回るが、意外となかなか見つからない。意外となかなかみつからないものだなと思いつつ、それらしきブツを発見。


 ナイス、発見。僕、最高。


 よし。これぞ尾崎豊が思い描いていた代物に違いない。

 たまたま道路沿いにとめられていたカゴ付きの原付だ。珍しいな。いや、原付など普段まじまじと見ないため、カゴ付きが珍しく感じるだけか。

 カゴの中には無防備にもヘルメットが入れられていた。全体的に雪が積もっていないところを見ると、雪がやんでいた時に乗っていたのだろうと推測できる。

 なかなかいいものを見つけてしまった。


 よし。これに決めた。さぁ、走り出そうぜ、雪人形。


 僕はここぞとばかりに、雪をかき集めた。ちょっと時間がかかるかもしれないなと思いつつも、溶けない雪をかき集めた。これくらいでO.K.か。人一人分くらいの雪を僕はかき集め準備に取りかかる。

 よし、次の工程にいってみよう。ここからが本番だ。雪は十分にある。あとは雪人形を作るのみ。僕の腕の見せどころとなる本格的な雪人形作りの開始だ。

 ではでは、さっそく作業に取りかかる。目指せインスタ映えを目標に僕なりに作ってみる。せっせせっせと雪をくっつけてゆき雪人形を制作する。粘り気のある雪が、程よくくっつく。

 僕は丹精込めて作り上げた。尾崎豊が思い描いていたであろう人物を。「15の夜」を口ずさみながら。


 うむ。なかなかの出来栄えだ。うむ。なかなかの力作だ。

 よし。完成だ。素晴らしきかな雪人形。


 うぅ、少し腰にきた。姿勢が悪かったのか腰痛がおきてしまった。僕としたことが。なんたる失態。

 しかし、作品の出来栄えはなかなかだ。自分で言うのもなんだが。なかなか立派に出来ている。

 またしてもや、自画自賛してみる。言うまでもないが、ここは住宅街のとある道端。雪人形にはヘルメットを着用させてみた。そう無防備にカゴに入れられていた例のヘルメットだ。ヘルメットをかぶせたためか、若干それらしくなくなった。

 これでは自分のバイクで走り出す感が半端ない。と、ともに安全第一な感じが漂い、尾崎豊っぽくなくなってしまっているように思う。

 だが、しかし。自分で言うのもなんだが、よくできている。よくできた雪人形だ。作品としては、なかなかの出来栄えである。

 ただヘルメットが邪魔か。僕はヘルメットを外してみた。しかし、バイクにはヘルメットがよく似合う。

 だったらこうしよう。

 僕はヘルメットも雪で作ることにした。また、せっせせっせと雪をくっつけていく。


 よし、完成だ。

 うむ。これでよしとしよう。安全第一こそが一番大切だ。


 まずまずの出来栄えに満足した僕は、そしてまた、ここぞとばかりに写真を撮りまくる。そして、あれこれ見比べながらベストな1枚を選ぶ。


 Web up O.K.

 いつもの如く、Web Upしてみた。


 ふと見上げた空。いつの間にやら、夜明けが近づく。辺りが薄暗くなってきた。

 まさかの夜明けまで必死こいて雪人形を作っていた僕って一体。徹夜までしてまで、雪人形作りに励んでいた僕をほめていいのやら。ほめていいのか。まあけなす必要はないかと思われるが。

 まさかの徹夜で雪人形作りに励んでしまうなど自分でも思い及ばなかった。


 夜明けか。

 目の前には作品名、尾崎豊「15の夜」


 若干、自画自賛し過ぎたかもしれない。バイクの持ち主にしては、はた迷惑な話だろう。朝起きてバイクを見た時どう思うだろうか。まさか雪人形が乗っかってるなどビックリ仰天のありえへん事態に違いない。面白そうなので、このまま残しておくことに決めた。

 もうすでにWeb Upしてしまったし。アクセス数に期待してみる。

 バイクの持ち主には申し訳ないが、念を押してもう一度言っておこう。このバイクは僕のモノではない。

 と、いうことは。これすなわち、尾崎豊「15の夜」。ぴったりではないか。


 僕は遠くを見渡した。薄い紫色が街に広がり、また幻想的な雪積もる世界が広がる。薄紫色の白の世界。辺り一面、白の世界。


 真っ白だ。


 僕は、この幻想的な世界に一安心する。一安心するも、辺りの雪が人工雪だという事に胸が痛む。

 何故、人工雪を降らせたのか。その理由など僕は知る由もない。なぜ世界はいつもこうなのだろうか。

 何故、今の世の中はこうなのか。理不尽な世の中だ。お金に縛られた世界でせわしなく働いている人々。動物界のトップである人間だけがマネーゲームを楽しんでいる。お金に束縛されている。今の世の中そんな世の中。


 人工雪


 この事実を知る者たちは、まだまだ少数派だ。おそらく、ごく少数の人たちしか気づかないままでいることであろう。大多数の人間が何も知らず、この世界に疑問を抱くことさえせずに、それが当たり前だと思いながら暮らしている。


 なんたる悲劇だ。


 今の世の中はきっとそんな世の中。相変わらず、この世界の住人は何も気がつかないままだ。事実は小説より奇なり。

 どうか、この事実が世界に知れ渡る時、知らざる者たちが、心穏やかに事実を知ることができますよう、僕は願う。僕はそう願ってやまない。


 2月の雪か。冬の本番もそろそろ終わりを迎える。また次の季節に移り変わってゆくのか。新しい春の季節を迎える。今度は本物の桜の舞う季節になるなと僕は思いつつ、木々を見る。木々には雪が積もり、まるで桜が咲いているかの如く雪がまだ残っている。溶けることなく残っている。

 見渡す辺りは雪化粧。夜明け前の薄紫色の幻想的な世界が広がっている。寝静まっている夜。これから活動的な朝へと時間が進む。

 雪人形を作っている間、僕の時間は止まっていた。止まっているように感じた。止まっているように感じるくらい雪人形作りに没頭していた。


 街はもう朝を迎える。


 明日は祝日か。いや、もうすでに今日になっていた。バレンタインも近いな。バレンタインか。思わず期待してしまう。

 一体何個のチョコレートをもらえるだろうか。

 いや、数は重要ではない。もはや彼女がいるのだ。彼女以外の女子からチョコをもらうなど、嬉しいはずがあってはならない。あってはならないことだ。

 彼女的には嫉妬するであろう。それだけは回避したい。回避したいが、本音はもらえると嬉しいのだけど。

 本音。それは彼女には、ひた隠しにすることにした。


 だが、しかし。僕は彼女からチョコレートをもらうことができるのか。はなはだ疑問に思う。一体どんなバレンタインになるのだろうか。

 僕の彼女は手作りのチョコレートなど作れるはずもなく、もしかすると忘れているかもしれないという危険性もともなうくらいだ。もはや期待などしてはいけない。ましてや手作りチョコなど更に期待してはいけない。


 期待してはいないが、チョコは欲しい。

 買ってきてくれたチョコで十分だからチョコが欲しい。

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