第2話



 数時間後。


 なんとか無事に雪がやんだ。瞑想は成功か。

 たまたま、やんだという可能性も無きにしもあらず。無きにしもあらずだが、もう雪はやんでいる。成功といえば、成功だ。


 降り積もった雪は20㎝ほど。なんとか食い止めることができたか。果たしてこれは僕の力なのか。どうやら僕もやればできるようになったらしい。と、いうことにしておこう。

 僕もやればできるのだ。そう思うことにした。半ば強引なこじつけのような気もしなくはないが。

 しかし、雪はやんだのだ。よかった。よかった。

 空を見上げた僕。夜空が広がっているも気温がまだ低い。気温がまだ低いためか雪の溶ける気配が一向にない。僕の足元から前を見ると、相変わらずな幻想的雪景色風景が広がっていた。


 夜空と、溶けずに残る雪の世界。街は全体、雪化粧。


 取りあえず、雪はやんだので問題は解決した。解決したが溶けない雪。溶けない雪が、まだ残る。

 はた迷惑な行為だが、降り積もってしまったのなら仕方がない。このまま溶けるのを待つしかない。この晴れた天気が続けば雪も溶けるであろう。

 だが、この雪は人工雪だ。普通の雪より溶けにくいはずだ。この雪の粘着力が、そのことを表していると僕は思う。


 さて、僕はここからが本番の作業にむかう。不謹慎者な僕だが、僕はこの雪を逆手にとってみせる。

 人工雪なんて迷惑な話だが、この雪を使って芸術的センスを爆発させてみせる。芸術を爆発させるには、この人工雪がもってこいなのだ。この溶けにくい雪こそが、人工雪アートにはもってこいの雪なのだ。

 何故ならば、アートしても溶けないからだ。しかも、粘着力があるという特典つきだ。迷惑な話だが降ってしまったものは仕方がない。

 こんな時にこんな事を考えている僕って。アホかとツッコまれるかもしれない。不謹慎者だ。不謹慎者だが、しかし。考えずにはいられない。この雪が僕の本能をくすぐらせた。

 さぁ、準備を開始しよう。


 さっきとは違う意味で。ここからが、本番だ。

 僕feat.人工雪。僕の芸術的センスの腕前と人工雪のコラボレーション。


 ここは僕の腕の見せどころ。

 ここぞ僕の腕の見せどころ。

 これこそ僕の腕の見せどころ。


 人工雪アートをいかにどう完成させるか。この雪をいかに表現するか。いかにどうアートするか。いかにどう芸術的に表現するか。これぞ僕の腕の見せどころだ。

 美しさこそ重要だ。いかにどう人工雪を美術的に芸術的にビジュアル的に美しく表現するか。そして、いかにどう面白くさせるか。いかにどう笑いをとるか。

 キーワードは言うまでもない。


 インスタ映え。


 そうインスタ映えだ。人工雪を使ってインスタ映えをさせる。僕の芸術的センスを試す絶好の場所だ。最高の場所だ。と、いっても過言ではないかもしれない。

 それがこの雪の積もった大地である。

 不謹慎ながらも僕の頭の中は人工雪のインスタ映えでいっぱいになっている。

 この雪の積もった大地で人工雪アートを完成させ、インスタ映えをさせる。それがこの雪の積もった大地なのだ。まるで僕のためにあるような。まるで僕のためにあるような、そんな感覚におそわれる。脳内がすでにヤバい。変な方向へと、かじ取りしている。

 しかし、今はそれを脇に置いておこう。前向きが一番である。人工雪はもうやんだのだ。やんだのだから問題ない。あとは雪が溶けるのを待つのみだ。その溶けるまでに僕は人工雪アートを楽しもうと目論んだのだ。問題はないであろう。


 ではでは、さっそくアート作業に取りかかる。


 まず、どんな物を作ろうか。普通に雪だるまだと面白味に欠ける。雪だるまは雪だるまでも、顔面と帽子というかバケツまでも雪で作ってみるのはいかがか。

 細部にわたって人工雪で細やかに作り上げるというのはどうだろう。

 普通か。

 いや、普通ではない気もするが。

 この雪は人工雪だ。普通の雪とは違う。より緻密なスノーマンが出来上がるに違いない。例え細部まで雪であろうと。

 取りあえず、手始めに作ってみる。作ってみることにした。

 雪をかき集め、全長1mほどの物であろうスノーマンを作る。もちろんバケツもお手製だ。お手製(と言っていいのか)の人工雪だ。

 顔面も雪で作り上げる。鼻も高々と作り上げる。崩れるかと思いきや、そこはさすがの人工雪だ。よくくっついているではないか。崩れ落ちそうにない。

 そして、僕は細部にわたって緻密に作り上げてゆく。人工雪アートに完全に没頭している僕であった。

 すべてにおいて雪を使って作り上げた。やはりこの雪は人工雪だ。だからこそ作り上げることができる。人工雪だからこそ、この緻密なスノーマンができるのだ。人工雪が織りなす産物だ。

 僕はそう確信している。この世界の住人の皆様はどうだろう。この雪をどう思っているのだろうか。人工雪だと知る由もないのだろうか。

 脳内がそうこうしているうちに、スノーマンが完成した。


 よし。出来上がった。


 完成だ。そこには、さながらクリスマスに登場するであろうリアルなスノーマンが出来上がっていた。我ながらさすがだ。上出来である。

 人工雪とは、ある意味すごい。ここまでリアルに再現できるとは。これは僕の腕前だけでできる力ではない。

 ビバ人工雪。

 僕はおもむろにポケットから携帯電話を取り出した。そして始まる記念撮影。僕はこのリアルなスノーマンを携帯電話のカメラに収める。アングルを考え、よりリアルに写る角度を探りつつ調整する。

 なんだかんだと、あっちこっち移動しながら写真を撮る。そして、ここぞという1枚を探す。撮影のし過ぎで、どれにしようか悩む。欲張って撮り過ぎるとこういうことが起こるので困る。僕はボツ写真を削除しながら、ここぞという1枚を決めた。

 その写真をWeb Upさせる。


 よし。完璧。

 なかなかいい仕事をしたと僕は思う。


 では、次の作業に取りかかろう。まだ作るのかと問われれば、まだまだ作ると僕は答える。まだまだ雪も溶けそうにない。

 まだまだ作りたくなった、僕。創作意欲がとまらない。

 人工雪vs僕の戦いは、まだまだ続くのである。この雪が溶けるのが先か。僕が眠気に襲われるのが先か。瞑想のあと、秘かに仮眠を取った僕であった。まだまだ夜はこれからだ。まだまだいける。大丈夫だ。

 人工雪アートで芸術を爆発させる。これが今回の目標だ。僕の創作意欲がうずいてうずいて仕方がない。まだまだ夜は終わらない。終われない。僕の夜は終わらない。終わりを知る由もない。

 では次の作品の構想を練る。


 貞子だ。


 僕の脳裏に浮かんだのは、それだった。今度は貞子風に作ってみよう。

 貞子。

 それは映画でも小説でも有名な、あの貞子である。そう貞子。テレビ画面から白い服を着た髪の長い女性が出てくるというホラー感たっぷりなアレだ。ドッキリ番組でも登場するので、ご存じの方も多いと思う。


 ではでは、さっそく作業に取りかかろう。


 取りあえず、雪から片腕をはやしてみる。何かが出てくるような感じで。何かが助けを求めるような。雪の中ら腕が出てくるというホラー感。そう、必要なのはホラー感。

 いかにも雪の中から何かが出てきそうな雰囲気を醸し出し作る。雰囲気的にはこれでよいか。

 先ほどのスノーマンと同じく細部まで緻密に作る。手のひらから指先まで丁寧に。丁寧に作り上げてゆく。

 なかなかいい感じだ。

 なかなかいい感じに雪の中に埋もれている感が漂う。漂っているものの何かが違う。やはり片腕だけではダメなのか。それはそうであろう。もう片方の腕と頭も必要だ。


 うーん。


 なんだかな。ここは4コマ漫画的感じでWeb Upを試みよう。リアルな片腕だが、まずまずな出来栄えだな。と思いつつも、携帯電話カメラに写真を収めてみる。先ほどと同じく、ありとあらゆる角度から撮って撮って撮りまくる。そして、ここぞという1枚を決める。


 うむ。


 写真的にはなかなかいい出来栄えだ。と自画自賛し、酔いしれてみる。写真的にはなかなかいい出来栄えではないか。これはいける。ホラー感もたっぷり出ている。と、僕は思う。

 僕はもう片方の腕の制作に取りかかった。よりリアルに。より巧妙に。より緻密に作り上げる。せっせせっせと僕は腕作りに励む。

 完成した全体像を見て僕は微笑む。

 リアルだ。

 リアル感。ホラー感。ともによく漂っている。なかなかいい両腕だ。指先も細部にわたりよく作れている。さすが人工雪。ここまで粘り気のある雪は相当珍しい。そのため細部まで緻密に作ることができたのだ。

 我ながら素晴らしい出来栄えだ。いやはや、さすがだ。さすが、僕。

 僕はポケットから携帯電話を取り出した。そして始まる記念撮影。これは僕にとっては恒例行為だ。ここぞとばかりに写真を撮った。撮って撮って撮りまくり、あらゆる角度から撮影した。ある程度の写真を撮った僕は満足した。僕はまた、ここぞという1枚を探す。不要と思われるものは削除しWeb Upさせる写真を決める。

 僕は、携帯電話をポケットにしまった。


 よし。では次にいってみよう。


 今度は頭を出す感じで作ってみせようぜ、ホトトギス。イメージ的にはテレビから出てくる貞子風に。がっつりホラー感が漂う感じでいってみよう。

 僕はまず顔面すなわち頭部を作ってみた。まずは坊主の状態で。顔はのっぺらぼうだ。なかなかいい感じの出来上がりだ。頭部が完成した。

 髪の毛はどうやって作ろうか。作ろうと試みるも、どうしても髪の毛がうまく作れない。これでは坊主が雪の中から這い上がろうとしているだけではないか。

 ウィッグが欲しいところだが、そんな髪の長いウィッグなど持っているはずもなく。そもそもウィッグ自体を持っていない。

 しかし、今の僕にはそんな技術を持ち合わせていないらしい。どうしても作れないため、元の坊主頭に戻した。僕は諦め、この坊主頭で満足することにした。

 いつもの如く記念撮影。ここぞという1枚を決める。

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