第21話 接近禁止令

「いきなりすまないな。接近禁止令なんて出してしまって」


「いえ……」


「まあ納得はいかないのはよくわかる。先に自己紹介をしょうか。私はアーレン王国、カラッサ辺境伯のアルマ・リーフレットだ。すでに知っているとは思うがマルガの姉だ」


「私は恭子です」


「マルガからある程度は聞いている。カラッサに来て初日にカザール商会に宣戦布告した豪傑と。おかげでしっぽを掴むことができたよ。もう恭子君も当事者の一人だ。もう少し踏み込んだところまで話をしようか」


 アルマからカザール商会についての説明を受けることになった。半年前からアルマとマルガは商会に対して内偵をしていた。約1年前、カザール商会は商業ギルドのサポート無しに急成長を遂げた。カラッサは確かに交易が盛んだ。その事から世界各国から商人達がやって来る。成功する者もいれば失敗する者もいる。その中でカザール商会はあまりに急成長した為、調査に乗り出した。


 実際調査を行うといろんな不正が判明した。しかし問題はそれだけではなかった。


「……カザールは恐らく帝国の尖兵だ」


「帝国?」


 アーレン王国の北にはバルバロイ帝国という国が存在する。現在アーレン王国とはいわば冷戦状態、いつでもキッカケがあれば戦端を斬る可能性がある危険な状態だった。アルマ曰くカラッサで商会を隠れ蓑に規模を拡大しておけばいざ戦争になった場合すぐにカラッサを抑える事が出来るという事だったのだろうと。


「今思えばあの教会を手中に収めておけば本国から兵士を派遣して聖職者として化けさせるつもりだったんだろうと思う」


 確かに宣戦布告され電撃作戦でカラッサを抑えた場合帝国にとってこれほど有利に働く事は無いだろう。


「もちろんこちらとしてはすぐにでも動けるように警戒はしていた。とはいえカザールがあんなお粗末な事をするとはな」


「お粗末……書置きですか?」


「ああ、いままで用意周到で証拠を一切残さなかったカザールがあんなわかりやすい証拠を残すとはね。恐らく本国から急ぐようにいわれていたのかもしれないな。つまり……」


「宣戦布告は近いってこと?」


「ああ、そう見て間違いないだろう」


「そもそも、なんでバルバロイ帝国はアーレン王国を狙っているんですか?」


「ん~、まあここからは僕の勝手な憶測なんだけどね、多分海が欲しいんじゃないかな」


 バルバロイ帝国は誇大な領土はあるがアーレン王国とは違い内陸に位置する。自国が海に面しているというメリットは大きい。輸送はもちろんカラッサが賑わっている貿易関係も。


「帝国の最終目標は世界統一だ。非公式ではあるが帝国の王自身が表明している。世界統一をして来るべき戦いに備えるとか言っていたね。正直何を言っているのか分からないけど。まあその為には海……カラッサ港の獲得は最重要課題じゃないかな。カラッサ港を押さえれば足掛かりができるからね」


「帝国が狙うのはカラッサ港だけ?アーレン王国は関係ないって事?」


「いや、カラッサが落ちればアーレン王国は大打撃さ」


「だとしたら兵力は騎士団だけじゃ少ない気がします」


「……マルガ、この子すごいね。実質1日である程度把握しているようだ。確かに帝国が本腰を上げた場合騎士団だけでは抑えることは無理だろうね。本国は辺境伯領の事を足止め程度にしか考えていないようだ。まあ通常なら国政を担う者の考え方としては間違っていないけどね。足止めしている間に本国から戦力を投入する、みたいな方針みたいだ。カラッサが落ちればアーレンは負けたようなものなのに。実に愚かだね」


 アルマはため息をつく。カラッサに居を構えている騎士団の人数は精々500人程度だ。とはいえ騎士団という組織にしてみればかなり多い方だ。しかし戦端が開いた時に活躍するのは職業軍人ではなく大量に徴兵された民間人だ。


「まあそれでも精々1万からよくて1万5千が限界だけどね」


 アルマの話ではバルバロイ帝国の総数は優に10万を超える。カラッサだけでは太刀打ちできないとの事だった。


「とまあ……今回はそんな話をしに来たわけじゃない。マルガから聞いていると思うけど例の教会の修繕は全額こちらで負担させてもらうよ。別に借りを作ろうというわけじゃない。今回のお礼ということで受け取ってくれたまえ。とはいえもう工事を開始してるから返品は受け付ける気はないけどね」


 アルマはニヤリと笑う。どうやらマルガが例の教会の件をアルマに報告した際、事の成り行きを聞いたそうだ。その際教会の修繕の話も話していた。その修繕費をカラッサ辺境伯であるアルマが全て負担するということで恭子に対する礼とマリアに対しての迷惑料とすることになったそうだ。


 アルマは口には出していないが恭子をなんとかカラッサに繋ぎとめておきたいというアルマの思惑も含まれている事は恭子は気づいていなかった。

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