第19話 マルガとアルマ
時間は数日にさかのぼる。
恭子が気絶し、病院に運ばれた際アルマはマルガに詰め寄っていた。
「……んであの子は何者なんだい?」
「……商業ギルド所属の商人です」
「マルガ」
「……個人情報です」
「マルガ」
「言えません!!」
マルガは姉であるアルマに恭子の事を言いたく放った。アルマは辺境伯であり騎士団の最高司令官だ。恭子の実力を目にしてしまったマルガとしては恭子とう戦力をのどから手が出るほど欲するに違いないと。
「マルガ、先ほどあの子の検査結果がでたんだ。彼女は……純粋な人間じゃない」
恭子を病院に運んだ際、念のために血液の検査を行っていた。その検査方法は他者の血液と患者の血液を特殊なトレイに垂らし混ぜ合わせる。そして専用の魔導具で反応を見るという検査方法だ。これにより患者の種族がおおよそ絞る事が出来る為、治療方針をその種族用に行う事が出来る。
「あの子の反応はおかしなものだったと医師が言っていたよ」
人間同士なら何事もなく混ざる、他種族の場合は反発したり蒸発したりと混ざる事は無い。しかし恭子の場合は特殊だった。
「最初は反発しあっていた。しかし10秒ぐらいすると何事もなかったかのように混ざり合ったのさ。もちろん他の種族も試したが、同じような現象だったらしい。つまりあの子は多数の種族の混血種である可能性が高い。聞いたことがないから断言はできないけどね。今のところ候補に挙がっているの竜族と魔族、そして魔人族だね」
魔人族は特殊で他種族と交わる事が無く、ハーフは存在しない。しかし竜族と魔族はごく稀に人族と交わる事がある。しかし竜族と魔族が交わる事は無い。交わったとして子をなす事が出来ないのだ。しかも恭子の場合はそれらの血を所持しているという事になる。
マルガそれに関して少し心当たりがあった。恭子のギルドカード見た時に称号に気になる項目があった。
(確か魔族や竜族に愛された者って書かれていたわ……)
ギルドカードは偽造や偽装が出来ない様に特殊な魔法が掛けられている。マルガは恭子の称号欄には確かに魔族に愛された者や竜族に愛された者と記載されていたのだ。
(もしかするとあの子は……)
「やっぱり何か知っているんじゃない?……別段騎士団に誘おうとかは考えていないさ。いくら実力者とはいえあんな幼気な少女を騎士団に迎えたら何を言われるか分かったものじゃない。ただ今後の方針を決めたいから知りたいのさ」
マルガはアルマを信用して正直に話す事にした。恭子は魔境出身で今も魔境で住んでいる事。サーベルウルフを退治でき、マルガのステータスを凌駕するほどの実力者である事。そして……
「……彼女は魔術師です。そして種族欄はクォーターと書かれており称号欄には魔族に愛されし者、竜族に愛されし者、他にいろいろ書かれていましたがもしかしたらその称号こそが混血の証拠かもしれません。とはいえ魔族と竜族と書かれているとはいえ少し大雑把な気がします。例えば魔族なら魔王に愛されされし者とかならもっとわかりやすいですが……」
「なるほどね……。いろいろ納得かな」
「ん?」
「実はね、彼女のあの指、黒く変色してかなり焼けただれていたと思うけど覚えているかい」
「え、ええ……」
「もう完治してるんだよ実は」
「はぁ!?」
「この病院に運んで翌日には完治してたんだよ。しかも跡も残らず綺麗に。けど指以外の身体には古い傷跡の様なものが無数に残っていたけどね。あの年齢なら死んでいるであろう無数の傷が。多分今回ついた傷ではなく退部前についた傷跡だろう。まあそれらを加味しても竜族特有の再生能力、魔族特有の膨大な魔力、魔人族特有のタフさ。もしそれらの種族の要素を彼女が持ち合わせていたとしたら、奴らの巣窟に単身突入して自身の怪我をもろともせず、奴らを蹂躙……僕は納得できるね。今、あの子が目を覚まさないのは単純に過労と魔力切れだそうだ」
アルマの予想にマルガは驚く事しか出来なかった。魔族、竜族、魔人族……いずれも並の人間では太刀打ちできない種族ばかりだ。恭子がそんな種族と関わりがあるとは思えなかったのだ。しかし今回も恭子は証明してしまっている。低ランクとはいえそれなりの実力者である冒険者100人以上を瀕死に追い込んだ。マルガはもう恭子の事を隠し通せる状況ではなくなっていた。
「とりあえず今後の方針は決めたよ、接近禁止令発令さ」
「えっ?」
「あの子には調査が終わるまで冒険者ギルドとカザール商会の接近禁止命令を出す。多分完治したら再び暴れかねない。僕がもしあの子がだったら攻撃を再開すると思うし。それにまたあんな状態になる可能性のあの子をマルガは見たくないだろ?」
アルマはマルガが恭子を気にかけている事を今までのやり取りでわかっていた。
「今回の一件で僕は彼女に興味が沸いた。もっとお近づきになりたいものだね」
「……彼女は商人です。……何を考えているんです姉さん?」
「いや、別段取って食べようなんて思っていないさ。ただ……」
「ただ?」
「彼女、おもしろそうじゃない。僕の勘がそう告げているのさ。あの子は今後もっと面白い事をやらかすってね。例えばそうだねぇ……、一国を相手取るとか」
「……はぁ、やめてください。姉さんの勘はよく当たるので」
アルマの勘は当たる。それをよく知っているマルガは今から胃が痛くなる思いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます