第18話 その後

 マルガ達が到着したころにはすべてが終わっており恭子に膝枕された状態でマリアは横になっていた。


「恭子ちゃん!!大丈夫!?」


 12番ドック内は誰も死んではいないもののその光景はまるで死屍累累。意識はあるが激痛で泣いている者や、おかしな方向に関節が曲がりのたうち回っている者や見るに堪えないものが多数いた。


 マルガが連れてきたのは衛兵ではなく辺境伯騎士団だった。騎士団もそんな状況を見てあっけにとられている。


「全員拘束!!」


「あの人は……?」


「私の姉で現辺境伯、アルマ・リーフレットよ」


 そんな騎士団に喝いれるかの如く声が響いた。その声の主はマルガの姉であり辺境伯アルマだった。マルガは姉妹という繋がりがあるという事で衛兵を動かすよりこの街のトップを動かす方が早いとマルガは判断したのだった。アルマは即座に指示を出しカザールの私兵を連行していく。その光景を確認すると恭子は一安心したせいか力が抜けてしまった。


 マルガはマルガで恭子の様子がおかしい事に気づいた。やたら顔色が悪く不自然な脱力をしているのだ。マルガはそんな状態の身を案じていると恭子の指先がおかしい事に気づいた。


「恭子ちゃん!?えっ……その指……指どうしたの!!?」


 恭子の両指は真っ黒になり負傷していた。自分の限界を超え魔術を釣瓶撃ちを撃ちまくったのが原因で焼けただれていたのだ。釣瓶撃ちは指先から電気の弾丸化をイメージして発射される魔術だ。通常の銃と同じで連発して撃てば砲身がダメになると同様にガトリングガンの様に撃ちまくれば指の負担も尋常ではなかった。


 恭子自身は戦っている最中はアドレナリンが出まくっていたおかげで痛みは全くなかったが、緊張が解けた今、痛みは無いが感覚がなくなっていた。


「マルガさんごめん。今日は夕食……食べれないかもしれない……。後は任せてもいいですか?」


「そんなこといい!!喋らなくていい!」


「衛生兵!!こっちに来なさい!!」


 恭子はその言葉を聞いて意識を失うのだった。恭子が目を覚ますと知らない建物のベッドで寝ていた。身後を見るとマリアが椅子に座って寝ている。


(マリア、無事だった……よかった)


 すると奥の扉から誰かが入ってくる。白衣をきた女性とマルガだった。


「やっと目を覚ましたのね。お寝坊さん!」


 恭子は起き上がろうとしたがマルガに止めれられた。両手は包帯でグルグル巻きに。両指は重度の火傷を負っている状態だった。しかし恭子の治癒速度が異常に早く実質完治に向かっているらしい。とは言え体力と魔力は大分失っているようでまだ横になっているように言われた。その間にマリアも目を覚ましたのだった。


「!!……きょ、恭子さぁぁぁん!!」


「……また泣いてるじゃないの」


「だって!だってぇ!」


「……恭子ちゃん、1週間寝てたのよ」


「……マジ?」


「大マジ。それに毎日包帯を交換して薬を塗ってくれたのはシスターマリアよ」


 恭子が大暴れして気を失ったあとすぐに目を覚ましたマリアは恭子が衛生兵に手当てを受けている状況を見て、自分も手伝うと衛生兵に懇願。結果、恭子のお世話をするのだった。そして恭子が失神してから1週間が経過しているらしい。


 その後マルガは事の詳細を説明した。辺境伯騎士団が12番ドックにいた私兵たちを拘束し、全員に対して尋問を行なった結果、拷問する事もなくあっけなくカザール商会に雇われたという事を吐いたらしい。理由は恭子が怖すぎたらしい。恭子自身は分かっていないが戦っている最中笑っていたらしい。しかも歯をむき出しにして。その表情は悪魔そのものだったと大半の人が言っていた。辺境伯陣営はそれを利用して『嘘をついたらあの子がまた来る』と言ったら白状したらしい。


 多数の証言からカザール商会は営業停止命令がくだされ、辺境伯直々に家宅捜索を受けている最中だそうだ。ちなみに暴行、誘拐、殺人未遂、不法占拠、殺人教唆、脅迫等様々な罪が確定している。今行われている捜査は消化試合と化している。


 とはいえいち早く危険を察したカザール本人とその家族は姿をくらませており現在捜索中だそうだ。


「おかげで新しい事が分かってきたのよ」


「新しい事?」


「冒険者ギルドも関係しているっぽいのよね」


 私兵の半分以上が現役の冒険者だった。しかし正式に依頼された形跡もない。だが私兵の一部からは冒険者ギルドで仕事を斡旋されたとも白状していた。つまり非公式で仕事を斡旋したことになる。これでわかる事は冒険者ギルドとカザール商会の関係はズブズブという事になる。ただまだギルド関与された証拠も出てきていないことも事実。その為捜査は継続される事になったようだ。


「恭子ちゃんは動いちゃだめよ」


「えっ?」


「カザール商会関係すべて潰すまでやる気でしょ?残念ながら辺境伯直々に動いているからだーめ!」


 マルガは封筒をを取り出すと中身を恭子に見せた。


「接近禁止……命令?」


 封筒の中にはマルガ宛に辺境伯から恭子へ接近禁止命令が出ている。今回の件で恭子は冒険者ギルドやカザール商会に対して接近禁止命令が辺境伯直々に命令が出されていた。ようは『後は任せてなさい』と辺境伯は言っているのだ。恭子を別に犯罪者にするつもりは無い。とはいえこれを破れば前科者になってしまう。恭子は折れるしかなかった。マルガは立ち上がり恭子の髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。恭子は反論できないため頬を膨らませていた。その様子をみたマリアもマルガと一緒になって頭を撫でるのだった。


 3日後に恭子は退院することになった。退院した初日マルガの屋敷に招待されるとマリアも来ていた。教会の改修工事がすでに始まっていた為マリアはマルガの家にお世話になっているようだった。かなり大規模な工事になる為しばらく教会には寝泊まりできないようだった。


「ちなみにいくらかかりそうですか?」


「えーっと8000万コインぐらい」


「はっ…せん…まん!!!?」


「あー大丈夫よ。全部辺境伯持ちだから。カザールの件のお礼の先払いだってさ!大丈夫よ、アルマ姉さんはカラッサの領主で金だけ持ってるのよ!!」


「誰が金だけだって!?」


「げっ……」


 アルマがマルガの背後から現れた。


「よう、ちっこいの!息災か?」

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