第15話 拠点

 落ち着いたようで恭子はシスターから事の経路を聞くことにした。


「私はこの教会のシスタ-でマリアと申します……」


 マリアが言うに先ほどの6人組はどうやら悪質な地上げ屋だという事らしい。今までも何回もこの教会にやって来ては土地を譲れと言ってきた。この教会を取り壊して新しい店を出店させるのが狙いらしい。いままで何度も断ってきたが今回とうとう、実力行使にでてきたという事だった。


 教会が閑散としている原因も地上げ屋たちがやってきた嫌がらせの一種だった。それらが原因で唯一の収入源である寄付も無くなってしまい、現状に至っているという事だった。


「地上げ屋さん達を撃退できてももう時間の問題なのです……」


 カラッサは交易都市だ。金が動きまくる活気のある街だ。寄付ぐらい普通にあるが裏でいろいろされたらさすがに太刀打ちが出来ない。


「ん~、ちなみ権利書は?」


「……ええ、常に持ち歩いています。女は隠し場所が多いので」


 シスターにあるまじきと思った恭子だが突っ込まないで置いた。


「よし、行こう」


「え?え?」


 シスターが困惑しているが恭子はかまわず彼女を外に引っ張って行く。そして先ほど教会を囲んでいた者たちのところに行く。そしてリーダー格の男の顔を思いっきり引っぱたいた。


「よう、起きたか?」


「てめえはさっきのクソガキ!何しに来やがった!」


「お前らに用があって来たんだよ。誰の手先だお前ら?」


 恭子は男たちが最初から喋るとは思っていない。そうなるとやる事は一つだ。


「……があぁぁぁぁぁぁ!!」


 恭子は容赦なく電流を流す。


「喋るまでやるよ~♪。死ぬまでやるよ~♪。やめないよ~♪別にしゃべらなくていいよ~♪」


 恭子はサイコパスを演じ始める。そして容赦なく拷問を繰り返す。もちろん殺さないように微弱な電撃を連続で行う。微弱な電撃死にはしないが効果はデカい。でもマリアは両手で顔を覆っている。見たくないのだろう。しかし今回は我慢してもらう。それでも男たちは言わない。


「時間稼ぎ?それとも魔力切れを狙ってる?それとも殺さないと思ってる?」


「……」


「まず、魔力切れはあり得ないんだわ。まだ1%も使ってない。まあ殺さないようにやってるの間違いないけどね、世の中にはショック死とかいう突然死する場合があんだわ。それはコントロールできないのよね私。それにもしかしたら精神的に死んじゃうかもしれないね。これがずーっと続くから。まあ言わなきゃ言わないで最終的にお前ら全員衛兵に突き出すから。もちろん話を盛りに盛りまくって。私にに対して幼女誘拐未遂及び暴漢未遂、殺人未遂等々。シスターが出来なくても私はできるんだわ。少し演技すれば済む話だし。お前らの肉体は死ななくても世間的に抹殺する事は出来るの、お分かり?」


 恭子の本気にリーダーは焦る。


「ま、待ってくれ!」


「じゃあさっさと話しさないよ!3秒以内に話せ!いーち、にー……」


「俺たちは衛兵なんか怖くない!本当だ!」


 男は叫ぶように言う。


「じゃなんでとっとと話さないかな~?」


「……ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」


「今後は私の質問だけに答えてくださーい。あー、そうだ。いくらでも大声出してもいいよ?まわり遮音してあるから誰も気づかないから」


 恭子はどんどん心をへし折りにかかる。微かな希望、チャンスを打ち砕いているのだ。


「……そこのお前、さっきからゴソゴソして私が気づいてないと思う?」


 スパァンっ!スパァンっ!スパァンっ!スパァンっ!


 恭子は容赦なく往復ビンタをぶちかます。恭子は知っている。場合によっては拳より平手打ちの方が効果的であることを。特に恭子の様な小柄な者はグーよりパーの方が強いのだ。恭子が何回もビンタするものだから叩かれた男は泣き出してしまった。


「も、も、やめでぇ!ごぶぇんなさい!ごぶぇんなさい!」


「……んで?」


 次は他の男を睨みつける。その目と顔はとても7歳の少女がするような眼ではない。決して怒っているというわけではなく目は血走り殺気がこもっていることはもちろん+、痛みつけることが楽しくて仕方がないと言わせるような笑顔。狂人と言わずなんというのか、そのような印象を受ける。このような不気味な表情を見た他の男は次は自分の出番ではないかと考えると心がぽっきり折れるのに時間はかからなかった。


「カ、カザールです!カザール商会!!」


「……マリア知ってる?」


「え?…ええ、カラッサの大きな商会一つです。商業ギルドに所属せずに独立独歩で大きくなった商会で有名です」


「そう……マリア。権利書」


「えっ?」


「権利書」


 恭子にいわれマリアは権利書をだし恭子に手渡した。そしてその剣所を見せびらかせて恭子は言った。


「今日からこの土地と教会は私の『管理下』なの、お分かり?今拘束を解いてあげるから飼い主に伝えてくれるかな?」


 すると恭子の様子はさらに一変した。


「……この場所に手を出したつけは払ってもらう。近いうちカザール商会のすべてを潰しに行くから今のうちに余生を楽しんでおけ、ブタ野郎ってね」


 そして恭子はいつもの恭子に戻る。ただし目が笑っていない。恭子は6人の拘束を解除すると男たちは逃げるように去っていた。見届けるとマリアの方を見る。


「ご、ごめん。勝手な事しちゃった……」


 そう、ここまでの出来事は完全に恭子の暴走だ。マリアが助けてほしいと言ったわけではなく恭子が許可なく行ってしまったのだ。その事を恭子は謝罪した。


「う、うぇぇぇぇぇん!!」


 すると大の大人であるマリアは恭子に抱き着き大声で泣いた。今まで我慢していたのだろう、その涙には安堵の涙も入っていた。


「いままで、ぐすっ……こんな風に助けてもらったことなぐでぇぇ!!ぐすっ……どうやって助けをもどめでいいがもわかんなくでぇ!」


「マリア……」


 恭子はマリアの頭を撫でて落ち着かせようとした。そしてしばらくしてマリアは落ち着く。そして二人は教会の中へと戻る。


 マリアはこの教会の唯一のシスターという立場上弱みは見せることはできないと常に気を張ってきたらしい。先ほどの男たちにいい寄られたのは一度や二度ではない。時には金品を強奪されそうになった時もあったらしい。その都度、シスターとしての務めとして追い払ってきたそうだ。その生活が数か月続いていて限界だったらしい。そして今日たまたま恭子という少女が現れると地上げ屋を撃退した。マリアは恭子に心から感謝した。


 恭子はこの教会をどうするべきか考えた。そして決意する。


「マリア、この教会をこの先も守りたい?」


「はい……でもどうすれば」


「正直カザール商会はどうとにでもなるわ。私も無償で金を出す気はない。そこで条件があるわ。聞いてくれる?」


「はい……」


「私はカラッサ出身じゃないの。なんなら今日来たばかりの新参者よ。そこで拠点が欲しいのよ」


「拠点ですか?」


「そう、要は別宅。そこでこの教会の一部を使わせてほしいわけ」


「そんなことで良いんですか?部屋ならいっぱい余ってますよ?」


 マリアは不思議そうに恭子に聞く。カラッサでの拠点を作りたい。しかも自分専用の拠点を作る必要があった。それは転送魔法陣を設置できる場所である。魔境の自宅からカラッサまではとんでもない距離がある。商人としての活動拠点であるカラッサとは最短で移動する為魔法陣を一目がつかない場所に設置したいという恭子の希望はこの教会は条件にぴったしだった。カラッサの転送魔法陣設置許可をもらう。そして商人としての拠点作りをする。これが恭子が考えた今後の活動方針だった。


 恭子はさっそくマリアに理由を伝えると二つ返事で即答された。この教会はマリア一人で運営している為決定権はすべてマリアにあったのだ。


「恭子さんには教会を守ってもらわなくちゃ。なんせ管理下にありますからね!」


 そういいながらマリアはほほ笑んだ。

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