第14話 教会

 カラッサに来た時恭子はまだ身分証明もなければ、お金も持っていなかった。しかしそれらの問題ほど解消すると正午が過ぎていた。その流れで3人はマルガが行きつけという飲食店に向かう事になった。商業ギルドから歩いて10分ほどの距離にある店らしい。


 向かう最中も3人は世間話をしながら歩く。本当に数時間前初対面か思うほど話していた。こも恐らくマルガがその場を回しているからだろう。


「あっ、ミラちゃん。今後恭子ちゃんの専属担当になるからよろしくね」


「マスター!本当ですか!?」


 ミラはものすごく喜んでいた。恭子は理由が分からない。


「恭子ちゃんもギルドに来たらミラちゃん探してね。もちろん私でもいいし」


 どうやら専属商人を任命されるとギルド内で格が上がるらしい。しかも恭子は気づいていないが恭子は商業ギルドから見ると超がつくほどの逸材。なんせ魔境産の素材を持ってきてくれる、しかも毛皮に至っては丁寧にした処理がされすぐに市場に流せる状態だ。これをほ高額案件かつ仕事が丁寧な人材はいない。


 それに魔境に住んでいるという事をできるだけ秘匿にする必要があった。どんな目で見られるか分からないからだ。それにマルガからしたら商人になったとはいえ恭子という存在がどこからどの組織から引き抜きに合うかわかったもんじゃなかった。ようは商業ギルドとしては恭子を大事にしたいし、囲っておきたいというのが本音だ。今回の昼食の誘いも流れとはいえ距離を縮める一環だ。


「おいまてこらぁ!!」


 3人が和やかに歩いているといきなり怒号が聞こえてきた。声の方向を見ると小汚い男がもう一人の男に追われているようだ。このままでこちらの方向にやって来るのは間違いなかった。マルガはすぐに恭子の手を引き壁際に寄った。数秒後二人の男が通りすぎた。


(なんかむかつくなぁ……)


 追っている男はものすごく必死で追われている男は余裕そうだった。恭子は空いている方の手で人差し指を追われている男の方に向けるそして極小魔術を放った。


(電光!)


 電光は恭子の魔術の一つで超音速で電撃を放つ魔術。殺傷能力はゼロに等しいが痺れさせることが出来る。


 恭子の電光を食らってしまった男は走っている勢いのまま痙攣してしまった。


「恭子ちゃん、何かした?」


「……えっ?」


「今、ちょっとビリっとしたんだけどぉ!?」


「あっ……ははは……」


 マルガと手をつないでいたせいで感づかれてしまったので笑って誤魔化すしかなかった。



 そうこうしているうちに飲食店についた。どうやらこの店は大衆食堂のようで、開いている席があればどこでも座っていいらしい。すでに食事をとっている人もいれば、これから食べる人もいるといった具合だった。3人は4人席を取ると、恭子を案内し座った。


「日替わり3つ頂戴ー」


 マルガは注文するとすぐに3人分の日替わり定食がやってきた。ものすごく速い。


「ここはおいしいしはやい、そして安い!」


(吉〇家か!!)


 心の中で恭子はツッコミを入れてしまった。


 出てきた日替わり定食はものすごくボリューミーだった。スープとサラダはもちろんついていてメインには大きな肉、そして白身魚のフライと揚げ物盛り合わせだ。その中で恭子が感動してしまった逸品があった。


(ご飯だ……)


 定食には日本人のソウルフード、白ご飯がついていたのだ。これには感動せざる負えない。メインのおかずの存在感は今回ばっかしは白ご飯が強くなってしまった。気づけば恭子の目から少しだけ涙が流れていた。


「!?……恭子ちゃん!?ど、どうしたの?」


「な、なんでも!おいしいから!」


(あぁ……久々の白ご飯……)


 恭子は涙が止まらない。異世界での生活が楽しくて忘れかけていたが、やはり白米は日本人にとって最高の食材である。それが食べられることに恭子は涙した。


 マルガが言うにこのカラッサという街、港もある事から貿易が盛んらしい。異国からの輸入品が絶えず入って来る。この定食の白ご飯もそうだ。米も輸入品で頻繁に入って来るらしい。それだけではなくいろんな各国の技術の一部も同時に流れてくる。おかげで商業ギルドは忙しいらしい。ギルドの接客がファミレスっぽく感じたのは極力トラブルを減らす為に明るさを効率性を心がけた結果だそう。


 料理を食べ終わる頃には恭子の涙は止まっていた。3人分の料金はマルガが払ってくれた。店を出たのは14時過ぎだった。


「じゃあ恭子ちゃん17時ぐらいにギルドにきてね」


 そうマルガに言われ別れた。マルガとミラ別れて恭子はカラッサを観光することにした。ようは自由時間だ。3時間ギルド内に居ても仕方がないという事だった。


 マルガ達と別れた恭子はまず広場に向かった。露店や屋台などもあってカラッサの街ではかなりの規模だ。異世界では初めての事なので恭子は内心ワクワクしていた。


「さてどうするか……」


 いざ観光しようとするとどうしていいか分からない。お金が手に入ったら買い食いと考えていたが日替わり定食をこれでもかというほど食べてお腹いっぱいだ。そうこうしているうちに、恭子はお腹のあたりに違和感があった。そう、生理現象がきてしまったのだ。日本のように公衆トイレなどはない異世界だ。かといってその辺でする勇気もない恭子はすぐ近くにあった教会に駆け込んだ。中は当然閑散としていた。


 恭子はシスターにトイレを貸してほしいと頼むと快く貸してくれた。用を足し終え、手を洗うため水場へ向かうとそこには先客が居た。修道女の服を来た女の子だ。だが服装は全体的に薄汚れて顔も少し疲れているようだった。どうやらここの修道女のようだ。恭子は軽く会釈すると、彼女はビクッと驚きすぐに恭子と同じように会釈した。


 しかし修道女の彼女はかなりやつれているようだった。気になった恭子は聞いてみたがなんでもないですと言われてしまった。


(……あんまり触られたくないのかな……)


 恭子はあまり触れないようにした。初対面で立ち入った事は聞けない。どこか居心地の悪さを感じたので足早に教会を後にした。その時恭子は気づいてしまった。教会がやたらボロボロな事に。長い期間修繕すらされていないようだ。助けてあげたいが今さっき会ったばかりだ。どうしたものかと考えながら街を歩く事にした。


 教会を後にしてすぐ教会に向かう男6人組が入れ替わるかの様に教会の中に入っていった。恭子はその場面をみて嫌な予感がして教会に戻る事にした。ばれないように中の様子を伺おうとした。すると6人組はシスターの女の子を脅しながら教会の外へ連れ出した。そして恭子はその場に出くわしてしまった。


「あっ……」


「なんだガキ?、死にたくなければさっさとどっかいけ」


 当然6人組に気づかれた。4人はチンピラ風の風貌だがリーダーらしき人物はベテラン傭兵といった風格を醸し出していた。出会いがしらいきなり高圧的に言ってきた恭子はカチンと来てしまった。


「なんだ文句あんのか?」


 恭子はマルガ達と話していた時の様に顔に出やすいのだ。そして態度にも出てしまった。恭子は不良の時の癖でつい凄んでしまった。


「いい大人6人がかりで女子を攫おうとしている。さらに言えば子供相手に脅して粋がって……情けないっ!」


 恭子はきっぱりと言い放った。


「な、なんだと!」


 恭子の態度が気に食わなかったリーダーはナイフを持ち出し恭子に襲い掛かった。


「私は今機嫌が悪くなった。目の前にいる心が汚いオス6匹悪いんだ……。手加減する気はさらさらないぞ……」


「な、なんだてめぇは!」


 リーダーの男はナイフを恭子に向けながら距離を詰めてくる。他の男達も下衆な笑みを浮かべながら近づいて来た。


「そして刃を相手に向ける意味すらもわかっていないバカときた。覚悟しろよ?刃を相手に向けた時点で……宣戦布告したんだお前らはっ……よっ!」


 恭子の足元から電撃が発生し恭子全体にまとわりつく。そして瞬時にリーダーの男の背後に回り込むと思いっきり男の後頭部を平手打ちした。


 スパァンっ!


 とても気持ちのいい音が鳴った。そして男は脳震盪を起こし前のめりに倒れた。さらに痙攣までしている。死んではいないがしばらくは立てないだろう。

 だが男達はそんなのお構いなく恭子に襲い掛かってくる。


「おう、怯まないか」


 恭子は冷静に一人一人捌いていく。それはまるで舞っているかのように優雅だった。まずリーダーを倒した事で気が緩んでいる男の懐に素早く潜り込むと、その男の顎に掌底を食らわせる。スパァンっ! そしてさらにもう一人の男には後ろ回し蹴りを放つ。足技も抜群にうまい恭子の蹴りは男達の顔にクリーンヒットした。吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる男と顔を抑えて悶絶する男。それを見ていた最後の一人は逃げ出そうとするがすぐに回り込まれてしまった。


「何逃げようとしてるの?」


 恭子は笑顔で話しているが目が笑っていない。それは怒りを通り越した笑顔だった。


「最後の一人だから特大のとっておきをお見舞いする事に今決めました」


 そう言うと恭子は男の頭上にジャンプした。


「召雷かかと落とし!!!」


 雷が落ちるの如くスピードでかかと落としを男の顔にクリーンヒットさせた。グシャッ! 男の鼻骨が折れた音がした。顔を抑えながら地面を転げ回る男、そんな男を見下ろしながら恭子は言った。


「衛兵に出すか、もっとお仕置きするか後で決める」


 完全に気絶している6人に一応、拘束魔術を施し身動きが取れないようにする。シスターが怯えて腰を抜かしていた。無理もないだろう、さっきまで攫おうとしていた盗賊まがいの冒険者たちは全員倒れていたのだから。


「怪我は!?」


「だ、だいじょうぶです……」


 恭子は尻もちをついて震えてしまっているシスターに手を貸す。そして椅子に座らせ落ち着くのを待つことにした。


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