第13話 マルガ
買取をしてもらおうと商業ギルドで商人登録の手続きを終え、サーベルウルフの毛皮の買取をしてもらおうと思ったら、現在別室に呼ばれお茶を飲みながら待っている。
(やっぱダメなのかなぁ買取)
サーベルウルフの毛皮が買取不可だった場合、恭子の予定はすべて頓挫してしまう事になる。そうなれば魔境にとんぼ返りすることになるだろう。もう商人になってしまった為、冒険者の道はすでに絶たれている。今思えば先にサーベルウルフは買取できるか確認してから商人登録するべきだったと後悔した。
「失礼します。お待たせいたしました」
待っていると先ほどのギルド職員のミラと一人の女性が入ってきた。恭子は席を立ちあがり、挨拶を交わす。
「当ギルドの責任者、マスターをしておりますマルガ・リーフレットと申します。どうぞお掛けになってください」
マルガ・リーフレット。ブロンドロングヘアーで眼鏡を掛けた女性。知的な雰囲気を持ちながら同性でも見惚れるプロポーションの持ち主だった。
ここでさらに恭子を不安にさせる要素が増えた。ギルドの最高権力者がなぜか今日の前に現れた。買取の不安にして責任者まで登場。もうこの先は想像ができない。
「ウフフ……そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ。ご説明しますね」
マルガは恭子の不安を取り除くかの様に話を始めた。まず素材の買取について。結論は可だった。しかし高額すぎたのだ。高額案件を人が多い場所でやり取りするのは危険と判断し別室に案内して続けるというミラの対応だったらしい。あの場で多くを語れなかったのは極力情報を漏らさらないようにする為だった。
「……ということです。他にも最大の理由が一つ」
「最大の理由…」
「これが魔境産という事です。カウンターでの鑑別器はおおよその産地まで算出されます。あの毛皮はサーベルウルフ・亜種という結果がでました。つまり一般棲息ではないという事です。カラッサ近郊で通常種ではない場所、それは魔境だけですので、そう判断いたしました。お間違いないですか?」
「はい、私が魔境で倒しているサーベルウルフです」
ここで恭子が嘘をつかなければならない理由はない。
「わかりました。こちらの素材はぜひ当ギルドで買取させていただこうと思います」
するとマルガは紙に数字を書き始める。どんどん桁数が増えていく。それを見て恭子は心臓がバクバクしている。
「こちらでどうでしょう?」
「いちじゅうしゃくせんま……450万!?」
マルガが提示したのは450万コインという金額だった。これにはしっかりとした理由があった。まず魔境産という時点で高額になる、そしてサーベルウルフの毛皮は人気素材で通常でも希少性が高い。それらを合わせると450万というとんでもない金額になるという事だった。恭子はもちろん二つ返事で買取をお願いすることになった。
「これだけの大金持ちは持ち運ぶのは大変だと思います。よろしければ先ほど発行したギルドカードに当ギルドの口座機能を付与しますがいかがいたしますか?」
「口座機能?」
「ええ、各ギルドのカードには口座機能という付与することができます。少なくともアーレン国内の主要都市は現金でなくともギルドカードで決済できます。決済時は本人がカードに触れていないと行えないので紛失したとしても他人が引き出す事はできません」
なんとそんな便利な機能があったのかと恭子は驚く。もちろん口座機能が付与されるカードを即決でお願いした。ギルドカードに口座機能が付加された為、今後の買取はすべて口座に直接振り込まれることになった。今回の報酬も口座にいれ一部だけ引き下ろす事にした。
「先ほどと違い、顔が柔らかくなりましたね」
「えっ?」
この時点で恭子の不安要素はほとんど解消されたことになる。素材の買取が可能な事、年間利益額、魔境産の素材が高額という事。恭子の顔は自然と笑みがこぼれていた。
「それでは今後の対応についてお話を」
「今後の対応ですか?」
「ええ、恭子様は魔虚に出入りできる数少ないお方の様です。少なくとも私の知人えそんな『命知らず』は存じ上げません」
「えっ!?私魔境に住んでいますけど……」
「「!!」」
マルガとミラは空いた口が塞がらなかった。
マルガとミラが説明するに賢者の魔境はとても人が住める環境ではない。魔素の濃度が非常に高く魔力酔いを起こしやすい環境、森が茂っている為いつどこからでも襲われる可能性が高い、周囲は常に木しかないので迷いやすい等とてもじゃないが人が住むところではないとの事。両親の遺産があるとはいえそんなところに恭子は住んでいるのだ。
マルガはあまりにも世間知らずな恭子が気になり今の状況を聞き始めた。
恭子は魔境で住んでいる事やどうやって生活しているのか等、転生してきた事を除き赤裸々に話し始めた。恭子はこの世界で初めて会話という会話を今している。それがどれだけ嬉しい事なのか脳と身体が体感している真っ最中だ。そんな恭子を止めることはできないだろう。
マルガはマルガで恭子にいろんな意味で興味津々だ。恭子という少女、年齢の割にまるで大人と対話しているような感覚。しかし実際盛り上がると少女の様に話す。とても自分では生きて行けるような環境で平然と生活している。マルガはすべてちぐはぐな恭子に興味がでた。
マルガとミラはギルドの職員というフィルターを通す事が出来るのでこの異様な状況を受け入れられるのだ。恭子も二人の話を静かに聞いている。するとマルガが何か思いついた様に突然喋りだす。
「そういえば今日はこの後どうするのですか?」
「えーっとまずは宿を決めないと。さっきまで先立つものが無かったので……」
「でしたらぜひ私の屋敷にお越しください。時間的にこれからですと宿を決めるのは大変でしょうから」
部屋の大きな時計を見ると時間は正午をすでに過ぎていた。
≪グ~……≫
「あつ……」
恭子は時間を見てしまったせいでお腹が鳴ってしまった。今思えば朝干し肉を少し食べただけだ。育ち盛りの恭子がお腹を減るのも無理がない。
「その前にランチですね。よろしかったら一緒に行きましょ。私の行きつけがあるんですよ。ミラあなたも昼食まだでしょう?」
マルガに流されるまま恭子とミラはマルガの行きつけという店に行くことになった。
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