第10話 フギンバード

 恭子はどうしたらいいのか分からなかった。全く警戒する事もなく寝息を立てならぐっすりと寝ている白い鳥の処遇を。


 全く警戒心が無いのか、それとも豪胆なのか、それともやっぱり鳥頭なのか、恭子が寝ている白い鳥の横に座っても気持ちよさそうに寝ている。ここまでくると起こすのも忍びないし起こしたとして自分はその後の行動をどうとればいいのか分からないので行動もできないでいた。


 とりあえず恭子は朝食をとる事にした。といっても例の干し肉しかないのだが。恭子は今後とる行動を頭の中で考えながらゆっくりを干し肉を食べていた。すると隣で寝ていたはずの白い鳥が目を覚ましていた。


 白い鳥は起きてもその場から動こうとはしない。むしろこちらを凝視している。恭子は不思議と危険を感じなかった。


「白の、食うか?」


 恭子は試しに食べていた干し肉を白い鳥の目の前に出す。すると間髪入れず干し肉を食べ始めた。白い鳥は恭子に比べるとかなり身体が大きい。2メートルはいかないまでもそれなりの体格だ。人用サイズの干し肉を上げたところで一口だった。


「ちっとまってね」


 恭子はテントの中に戻りまだ割いていない干し肉を半分にして白い鳥にあげてみることにした。およそB5ノートの半分ぐらいのサイズだ。口元に持っていくと元気よく食べ始めた。今回も一口でいったが口内で咀嚼しているようだ。白い鳥は相当空腹だったのだろう、あっという間に干し肉を食べきってしまった。そして物足りないのかまだほしいのかこちらをジッと見ている。


(あれ?なんか餌付けしてるみたい)


 恭子はその視線を受け、追加で半分サイズを渡してあげる。すると今度はすぐに食べずに様子を伺っているようだ。こちらの出方を見ているといったところか。そしてゆっくり食べ始めた。恭子は白い鳥が食べている間にテント等片づけを始めた。


 もう食べ終わったようで白い鳥は恭子が片づけをする様子をジッと見ている。その視線に恭子は気づいているが、敵意とかはなくただ見ているだけなので特に気にも留めず片づけを続ける。あらかた片づけが終わり恭子が振り返ると白い鳥はまだこちらを見ていた。


「悪いけど、もう無いよ」


 恭子は白い鳥にそう告げた。しかしその場からを動こうとはしない。


(目的が分からねぇ……)


 そうこうしているうちに片づけが終わり、日も登っている。白い鳥の事が気になるが埒があかない。


「じゃあ私はいくよ!」


 恭子がそう言いリュックを背負うとした瞬間……。


「!?」


 白い鳥が恭子のリュックをクチバシで掴み持ち上げた。


「おい、お前……」


 恭子は驚いて白い鳥に話しかけるが、白い鳥はリュックをクチバシで掴み持ち上げた状態でそのまま座った。しかもかなりの低姿勢だ。何かを訴えかけているように見える。恭子は白い鳥の行動でなんとなくだが察した。この鳥は自分に懐いてしまったようだと。そしてリュックを離す気は無いようだと。


(なんでこうなった……)


 さらに白い鳥はまるで『乗れ』と促しているような動きをしている。乗せてくれるのはありがたいが行く方向も分からないし乗ったとしてこの白い鳥が自分をどこかに連れ去ってしまうかもしれない。しかし、この白い鳥は自分に害を与える気は全くないように感じる。そしてリュックを離す気もないようだ。恭子は仕方ないと思い白い鳥の背中に乗る事にした。


(やっべぇ、二度寝できるわこれ……)


 恭子は白い鳥の背中に乗り、その背中に身体を預ける。この鳥の背中はクッション以上にフカフカ感だ。今まで味わったことがない感覚で身体の力が抜けていく。白い鳥はそのまま立ち上がり動くかと思ったが一向に動かない。恭子は何となくだが意思の疎通ができると思い話し掛けることにした。


「ねぇ、アーレンってわかる?」


 すると恭子の言葉を理解したようでゆっくりを歩き始めた。背に乗ったからには恭子は白い鳥を信じるしかなかった。白い鳥は大草原を進む。日が昇りある程度見晴らしがいい。最初はゆっくり走っていたがどんどん速度が上がっていく。スピードに乗った時には風を切る勢いだった。

(まだこんなに距離があるの?アーレンは……)


 恐らく時速で30kmぐらいは出ているだろう。地球とは違い信号が無いのでノンストップだ。ここまでくると気持ちがいい。しばらく走ると前方に遠くからでもわかるぐらい巨大な城壁らしきものが見えてきた。


「すっげぇ光景……」


 初めて見る城壁に恭子は感動していた。学校で社会科見学をするような感覚とは全く違うなんといえない気持ちになる。まるで映画を見ている気分だった。前方見渡す限りものすごく長い壁。まるで街を囲んでいるような感じだ。


 白い鳥は城壁に近づくにつれて速度を落としていく。恭子に気を使ってくれているようだった。そして10分後には街の入り口であろう場所に到着した。


 入り口に到着すると先ほどまで加えていた荷物は無し地面に落とした。


(……せめて置いてほしかった)


 街の門番だろうか?恭子と白い鳥みてビックリしている。とりあえず恭子は街に入る前にここまで送ってくれた白い鳥にお礼をすることにした。恭子はバックから干し肉を取り出す。


「これで本当に最後、自分の分だったんだけど」


 ≪ピィー!≫


 白い鳥は恭子の干し肉を一気に口の中にいれモグモグし始めた。残りはそんなに大きくなかったのですぐ食べ終わると白い鳥は草原に向かって走り出してしまった。


(にしても何だったんだあの鳥は……)


 白い鳥を見送ると門番が声を掛けてきた。


「き、君?あの白い鳥に乗ってきたのかい!?」


「ええ、見たまんまそうですが…」


「た、確かにそうだが…そのなんだ、あの鳥はこの辺ではかなり希少種の鳥だぞ!」


「まあ確かに初めて見る鳥でしたけど」


 恭子は門番から白い鳥について聞くことにした。 例の白い鳥はフギンバード、幸運の鳥または神の使いと言われているらしい。

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