第11話 カラッサ
フギンバード……
アーレン王国に伝わる幸運の鳥、または神の使いと言われている光輝く鳥。フギンバードを見たものは今後、幸運をくれる神が遣わした白い鳥と言われているらしい。
と言っても物語よりの文献の抜粋なので創作の一種の表現だろう。とはいえその存在はまさに希少種と言われても全く恥ずかしくないほど珍しい。アーレン王国でも見たことが無い者が大半を占める。
「でも門番さん、知ってますよね?フギンバード」
「あ、ああ……。俺もガキの頃見たことがあったんだよ。といってもあそこまで立派な奴じゃないけどね」
「……」
「ああ、すまん。少しテンションが上がっちまった。カラッサに用かい?」
(この街はカラッサと言うのか)
「ええ。魔獣の素材を売りたくて」
「換金希望ね。身分証明は持っているかい?」
「持ってないです」
「じゃあこっちに来て手続きしてくれ」
「あの、お金はかかりますか?」
「んあ?……いや入場手続きは無料だから大丈夫だ」
恭子が入場手続きをしている間に門番は街について説明を始めた。
まずこの街はアーレン王国、辺境伯領カラッサ。カラッサは海に面している事だけあって王国の中でも最大の貿易都市、そして防衛都市でもある。
アーレン王国は基本的に入場料を徴収しない。ただし身分証明を所持していないものは手続きを行う必要があり、最大滞在期間は1週間限定という事になっている。手続き後に発行される入場証をなくすと罰金か奴隷落ちするらしい。1週間過ぎた場合も同様の処分を科すというなかなか厳しい制度だ。1週間以上滞在する場合は、身分証明を取得するか再度手続きをしなくてはいけない。
「身分証明をもらう場合どうすれば?」
「そうだな…。最短は冒険者ギルドか商業ギルドだろうな。冒険者か商人は問題なければ即日発行可能だ。まあ俺は生まれてから衛兵とか門番ばっかだから審査内容はわからねぇ。他のギルドは主に製造系だから即日は無理だろうな」
「ちなみに素材の買取は冒険者ギルドですか?」
「ああ、身分証明がないなら冒険者ギルド一択だな。商業ギルドの方が買取価格は高いようだが商人登録しないと買取できねぇはずだ」
(なるほど……身分証明か……。素材を売る前に商業ギルドに行って話を聞くべきかな)
恭子はそもそも冒険者になる気はなかった。戦う術は身に付けているがそれはあくまでも自衛のために過ぎない。自分の実力がこの世界でどの位置にあるのかは気になるところではあるが、仮に上位クラスの実力と判断された場合何をやらされるかわかったもんじゃない。
ここは条件次第ではあるが商人として登録する道も模索するべきだろうと恭子は考えるのだった。
「ご丁寧にありがとうございました!」
「おう!困ったことがあったら俺のところに来なよ。ここにいるからなっ!」
「はい」
恭子は丁寧にお礼を言い、門番を後にした。恭子は門番から借りた街の地図を頼りに商業ギルドを目指す事にした。
道中、街中は露店が多く出店されている。まるで祭りの縁を彷彿をさせるようだ。露天は食べ物屋はもちろん小物や生活雑貨等、その種類は多岐に渡っている。
恭子は特に食べ物露天にやられかけていた。今まで塩のみで頑張ってきた恭子にとって香辛料の様な香ばしい匂いは強烈な印象を残した。まだ文無しの恭子は買う事が出来ない為、歩く脚はどんどん早くなっていた。
(早く換金して露店で食べ歩きをしてやるっ!)
歩いている人々は様々だ。剣を腰に下げている者や頭に大きなかごと荷物を乗せて歩いている者。これだけで文化レベルがわかる。
(予想通り、中世ぐらいかな?)
この人観察も恭子の中で重要なファクターの一つだ。この街に来て人に初めて会った恭子は文化レベルや技術レベルの確認は大事だった。恭子が使っている武器は錬金釜で作ったサイと呼ばれる三又の短剣の様な物2本である。斬るというより突き刺す感じの武器だ。これを好んで使う理由は軽いからだ。恭子の身体はまだ7歳、剣や槍は手に余るのだ。
この武器を使うにあたりこの世界の文明や文化レベルが高く、『銃』なんてもの所持していたら恭子は太刀打ちが出来なくなる。つまり自分の身を守る事が出来なくなるという事だ。門番たちは大きな槍を持っていたが、街に入り人を観察した結果、近接武器や弓が主な武器だろうと裏付けできたと判断した恭子だった。
商業ギルドに近づくにつれ、露天は無くなっていき逆に店舗を構えている店が増え始めてきた。露天とは違い少しだけ高級感が出てくる。ガラスの奥に商品が展示されていたりして見ただけでも何を扱っている店なのか一目瞭然だ。露天との違いは一言で言えば店の信頼だろう。安い露天より店舗を構えている露店のより値は張るが信頼が物を言う。例として同じ武器を扱う露天と店舗ったとすれば露天はアフターケアができるという事だ。その証拠にほとんどの店は閑古鳥はなっていない。
カラッサは恐らく区画整備をしっかり行っているのだろう。住宅地区、商業地区、工業地区と。恭子が見た限り商業地区に住宅街や鍛冶、工房等は見当たらないからだ。
恭子は歩きながらもメモを取りながらカラッサを観察、考察していく。
この世界なのかアーレン王国だけか不明だが通貨はコインと呼ばれているらしい。露天で売っていたパンは100コイン前後、店舗売りは200コイン前後、その事からおおよそ日本と価値が近いとみて間違いないだろう。恭子からすれば大変わかりやすく結構な事だ。
不動産屋の様な店もあった。店のショーケースに一部物件が記載されている。といってもこの世界に高層マンションなんて存在しない。長期滞在の冒険者向きだろうと思われる貸家等の物件だや一軒家の建物等だ。
(一日1500コイン……狭いけど安すぎないか?……最低30日、なるほどね。一軒家は……7590万コイン!?高っ!やっぱり金の力は強いな……)
ちなみに宿屋等の情報も記載されていた。大体の相場が1泊食事付きで3000~5000コイン前後らしい。一部屋あたりの設備がどの程度か不明だが街に入った際見た限りでは3階建て以上の建物はなかったはず。もちろん1泊50000とか言う値段がやばすぎる宿の情報も記載されていた。
金の力は世界が違えど、紙幣や通貨が存在すればその力は絶大と改めて恭子は思うのだった。そうこうしているうちに恭子は商業ギルドの前に到着した。
「おー!すごい立派」
商業ギルドの外観はものすごく目立った。全体が赤レンガで作られており、建物の真ん中には大きな時計塔がそびえ立つ。人の出入りもいい。商業ギルドが正常に機能している証拠だ。期待を胸に恭子は商業ギルドに足を踏み入れたのだった。
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