商業ギルド編
第8話 大草原
ヴィルトエルに来て早くも2年が経過した。恭子はこの2年間ほぼ毎日、書庫で勉学に励み錬金部屋で研究を、魔術の実験と鍛錬、そして森の中で狩りをやってきた。中身が15歳とはいえとても子供がするような生活ではない。これらの生活を日常的に過ごしていた為、7歳になった時には恭子はかなり強くなっていた。今ではサーベルウルフを罠無しでも倒せるようになり、他の魔獣やモンスターにも対峙できるようになっていた。
何よりあの肉を食べてから恭子はいままで感じたことがない力を感じていた。その答えは両親の手記を元にいろんな方向から推測したら結論が出たのはかなり後の話だった。
魔境にある水はほぼ魔素に汚染されている。だからといって身体に害があるわけではない。恭子は魔素で汚染された水で肉を毎回血抜きしていた為サーベルウルフの肉は自然と魔素付けされた肉になっていたのだ。それを毎日のように食していた為、恭子の魔力はとんでもないレベルまで発達していた。このような世捨て人みたいな生活をしている恭子だったが・・・・・・・
(飽きた……もう無理)
恭子は今の食事環境に飽きてしまい、もはや限界だった。その食事内容は森の獣の肉と森で取れる山菜、なぜか大量に育つ小麦から作った小麦粉を使った料理など。材料には恵まれているが調味料が塩しかなかったのだ。他にも人とまったく接していない為に人肌も恋しくなっていた。このままでは研究や鍛錬に身が入らないと思った恭子は、この現状を打開しようと決心した。
(そろそろ人里を見るべきかも……よし、決めた!明日街に出発しよう)
人里に行くとしても、どの国に向かうかが問題だ。そこで恭子は地理が乗ってありそうな資料を探し読んでみることにした。すると……
『オススメはアーレン王国 by 美優』
「……」
流石母親というべきなのか、恭子の考えは見透かされていた。
(……アーレン王国に向かうとするか)
アーレン王国とは魔境の東側に位置する商業が盛んな国だ。この2年で恭子も少しはこの国の事は知っている。といっても両親が残した資料で勉強しただけだが。実際に国を目にしたわけではないので一体どのようなものなのか。そしてこの資料はいつの物なのか少し不安だった。
(……まあいいや、明日に向けて寝よう)
そうして恭子は就寝した。翌日、まだ日が昇る前に恭子は起床し、支度を始めた。サイと呼ばれる武器を2本、自分用にリサイズした軽鎧、傷薬、換金できるらしい魔境で狩った魔獣の毛皮など。準備が整うとさっそくムラマサでアーレン王国方面に向かう事にした。
(そういえばムラマサでどうやっていくんだろう。とりあえずいつも通り念じればいいか)
恭子が念じると、ムラマサの後部から先ほどまでなかった透明なキャノピーが出現しそのまま恭子を覆った。するとムラマサは急浮上した。およそ3000メートルほどだろうか、急展開に恭子の脳はおいていない。そんな事お構いなく急浮上すると何やら機械音声が聞こえた。
《目的地、アーレン王国、発進しますか?》
(ちょ…なに!?)
さらに恭子は戸惑うがその機械音声は話を進めた。
《発進シーケンス開始……3……2……1……発進!!》
その瞬間にムラマサはものすごいスピードで進み始めた。時速にして500キロ以上は出ているだろうか。さらに速度は上がり続けている。しかし風圧や重力で飛ばされる感じはなかった。どうやらコントロールできるらしい。
「く、くそはえぇぇぇぇぇぇ!!!!」
しばらくすると、森が開けてきた。どうやらアーレン王国の国境付近に無事に到着したようだ。しかしこのまま町の上空を飛んでいたら大騒ぎだ。そう思った瞬間ムラマサは停止し地面に降りて行った。降りた先はなにやら遺跡っぽいところの内部だった。
(まあ無事に着いたし……良しとするか)
降り立った遺跡はムラマサ専用の発着場らしい。周囲と遺跡を調べると何やら見覚えのある箱が置いてあった。その箱は本拠地である住居にある箱と全く同じものだ。試しに開けてみるとその中には住居と同じものが入っていた。この箱の原理は分からないが繋がっているらしい。
(もしかしたら他の土地に向かう場合も用意されてるかも?)
だとしたら今の恭子にとってうれしい事は無い。街で大量に物資を買い込んでこの箱に放り込めば済む話なのだから。しかも箱の見た目とは関係なく大量に物が入れられそうだ。ある程度調べ恭子は表に出ることにした。
(一応それ用に魔法陣とかおぼえたんだけどなぁ…。まあいっか!)
他にも遺跡内をあれやこれや確認し、外に出ることにした。
「……おおーー!!」
恭子の目の間には緑の芝生が一面に広がっている。まさにまさに大草原という言葉に相応しい場所だった。双眼鏡で覗くと大草原にはモンスターなのか動物なのか、見たことない生物が走ったりじゃれたり寝たりしている。まるで超高画質の映像を見ているようだ。しかし恭子はすぐ現実に意識を戻す。
「ははは……まさか徒歩?」
後ろには遺跡と魔境、前は人工物は一切ない素晴らしい大草原。ここまで見晴らしが良すぎるとアーレン王国とかいう場所は最低でも歩いて1時間以上かかるはずだ。恭子が使える魔術を駆使すれば話は別になるが、アーレン王国がある方角を知らない恭子はリスクを冒す事は出来ない。こんな大草原のど真ん中で魔力切れなんて起こしたら想像するだけで恐ろしい。
かと言って周りにいるのはモンスターやら魔獣やら。明らかに乗れるような姿はしていない。
「はぁ……。しゃあない。歩く……」
考えても埒が明かないので恭子は歩くことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます