第7話 本当の狩猟

 ヴィルトエルにて早くも半年経過しようとしていた。


 この半年間で今日は両親が残した本を読み漁り、それを元に錬金部屋で新しい薬を作り出していた。他にも庭先で自生していた小麦から硬いがパンを作り出し少しずつではあるが生活基盤が整い始めた。しかし恭子は生活基盤を整える為に薬やパンを作れるようになったわけではない。


(肉食いてぇ……)


 そう、恭子はまだヴィルトエルに来てから肉という肉を食べていない。菜食主義みたいな生活をしていたのだ。恭子は決して菜食主義ではない。むしろ肉が好きだ。しかし狩りをするにも後先考えず森に突っ込むのは危険すぎると自分の身で味わっている。そこで下準備をさらに整え、体術も各武器の使い方も付け焼刃だが練習もした。いざとなったらムラマサで砲撃すればいい。魔素に汚染されて肉は手に入らなくなるが……


 両親が残した本によるとムラマサの砲撃で粉砕したあの狼は名の通りサーベルウルフという魔獣らしく、食べれるらしい。5歳の子供が槍を手にしたところで勝てると思っているほど馬鹿ではない。今日は他にも秘策を用意していた。


「よぉし……んじゃやりますか」


 恭子はサーベルウルフを食らう為に特性を調べていた。動物的思考の魔獣で嗅覚の異常発達、サーベルという名に恥じない鋭い牙と鋭い爪。今の恭子なら触れただけで致命傷になるだろう。


 サーベルウルフの狩りの仕方や特徴、弱点も調べ上げ万全の対策を立てた。


「ふっふっふ、見てろよぉ」


 拠点である家の100メートルほど離れたところに1か月掛けてサーベルタイガーを倒すための陣地は構築してある。


(これで失敗したら私は菜食主義者と化してしまう……後がないな!!)


 恭子は早速サーベルウルフをおびき出す為にエサをばらまき家の玄関先に身を潜めた。その餌とはブルーベリーアップルだ。魔獣図鑑によると熟して木から落ちたブルーベリーアップルが大好物らしい。恭子が襲われたのはそれが原因だ。


 恭子は家の中から双眼鏡で監視する。そしてついにやってきた。体長が3メートルほどもあるサーベルウルフを。


(でけぇ……)


 サーベルウルフはブルーベリーアップルを夢中になって食べていた。


(いいぞぉ、そのまま食っていけぇ~)


 サーベルウルフが最後のブルーベリーアップルを食べようとした瞬間……恭子が用意した罠が発動した。


 サーベルウルフの足元から結んであるロープが出現、サーベルウルフの両手足を拘束した。さらに高い木の上から大量の小麦粉が投下され辺り一面小麦粉だらけになる。


(よしきた!!)


 恭子は今がチャンスと言わんばかりに庭に設置した長距離バリスタでサーベルウルフ付近に火矢を放った。すると……


 ボォォォォと爆発が起きた。粉塵爆発である。


(私にはまだ力はない、しかし知恵はある!くらいなっ!簡易ピタゴラスイッチ!)


 爆風で砂埃が舞い上がったのでサーベルウルフの様子は見えないが、サーベルウルフは地面に倒れていた。どうやら今の攻撃は致命傷にはならなかったらしいが、相当効いたらしい。サーベルウルフは立ちあがろうとするが、まだ手足にロープが絡まっているので身動きができないでいる。そこに恭子が現れた。


 手には子供に似つかない大きな槍。拘束されたサーベルウルフに止めを刺さんと言わんばかりにサーベルウルフの頭部を槍で刺しまくった。


 そしてサーベルウルフは絶命した。


「……いやっほぉぉぉーーーーーー!!やったぜ!やってやったぜ!!人間様舐めるなよ!!このバーローがぁ!!!」


 とどめ刺したをぶんまわし、恭子は勝利を喜んだ。


 作戦とはこうだ、まずサーベルウルフ対策として作った陣地に誘い出し罠で拘束し、バリスタから高速発射された火矢と小麦粉が粉塵爆発を起こす。そして止めを刺すというものだ。


 恭子はバイクでサーベルウルフをロープでつなぎ引きずって家に持ち帰り捕獲したサーベルウルフを食べる為に恭子は解体に開始する。参考書を熟読したとはいえ初めて解体だ。手順を間違えれば食べれる部分が減り最悪食べれる状態ではなくなる。


 先ずはサーベルウルフの腹を割る、内臓を取り出すために腹を開いていくと、サーベルウルフが腹から何か綺麗な緑色の石が出てきた。


(なんだこれ?)


 その石は何か力が込められているようだった。恭子は少し考えた後、とりあえず取っておくことにした。引き続き解体を続ける。しかし……


「うっ……おぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 解体を進める前にサーベルウルフの胃の中を見てあまりのグロさに吐いてしまった。恭子は肉を食べるために、サーベルタイガーを狩る為に、多少のグロテスクさには耐性が付いたが胃の中までは流石に無理だった。気を取り直し恭子は解体を続けとりあえず内臓を全て取り除いた。恭子の体力、そして精神的疲労は限界に達しここまで限界だった。そのままにしておくことはできない為。血抜きと少しでも鮮度を保つため庭先にある川に倒したサーベルウルフを投げ入れた。


 翌日、流水に漬けておいたサーベルウルフを食べる為に再び川にやってきた。内臓と皮の処理は済んでいる為、比較的簡単に切り分けることができた、しかも大量に。おかげで川と家を何周もする羽目になってしまった。すべて運び終え早速サーベルウルフを食べることにした。


「肉!!」


 恭子はサーベルウルフを焼いた後、早速切り分けて食べることにした。初めて食べるサーベルウルフは触感は豚肉っぽい。しかも臭みが強い。


(血抜きがいまいち?)


 まずくはない。もっと解体の経験を積みさらに塩以外の調味料があれば普通に食べられるレベルになるだろう。何より今の恭子は幼児体型。まずくても肉は食べなければいけない。健康かつ丈夫な体を作るには植物性ではなく動物性たんぱく質が必須だ。


(明日は塩漬けにするかぁ)


 そんな事を考えながらサーベルウルフを食べ、残った肉は燻製にして保存することにした。


 この世界で生活しなくてはいけないのだ、まだまだやることが山積みだ。こうして恭子は異世界の初めて狩りを終えた。


翌日から肉を食べた恭子の身体には少しずつ変化が生じていたが恭子はまだ気づいていなかった。

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