第6話 魔境

 両親が残してくれたバイクが頼れる相棒という事が分かった恭子はバイクの事を調べることにした。恭子の読み通り、バイクの仕様書も書庫に置いてあった。父親である洋一のお手製だが……


「賢者の魔境専用ホバーバイク・ムラマサ、取扱説明書……エアーバイクじゃなかった……賢者の魔境?物騒な名前の場所ね」


 このお手製マニュアルは、ホバーバイクを扱う上での注意事項や扱い方が書いてあった。


 「賢者の魔境と呼ばれる大森林でありその大きさはおおよそ2000万ヘクタール、その大森林を中心に囲うように10か国の大国が連なって存在している……と」


 2000万ヘクタール、つまりアメリカとカナダを合わせたぐらいの大きさだ。その中央に位置するのが、今恭子が住んでいる家らしい。


「2000万!?」


 このホバーバイクは賢者の魔境を『超音速移動』する為に制作したバイクである。逆に言えば賢者の魔境の外では使用出来ない。その理由は単純でホバーバイクの燃料は賢者の魔境にのみ存在する純度の高い魔素が燃料であることが理由にあげられる。


 魔素とは空気中に存在する魔力の源。ホバーバイクは移動する際にこの魔素を自動で吸収する事で移動するため、『地球』の乗り物のようにガソリン等の物を必要とせず魔境が魔境であり続ければ半永久的に稼働する事ができる。また、ホバーバイクにはオート操縦機能が備わっており、目的地を設定する。


「オート操縦機能……」


 さらにこのバイクはホバー機能の他に、対魔獣用兵器が搭載されている。


 ・前部アサルトキャノン2門

 ・後部無反動ショットガン2門

 ・後部ホーミングレーザーカノン2門

 ・各種レーダー、通信機器搭載


 これらの各兵装はすべて魔境内の魔素を燃料としている為半永久的に使用可能。


「……なんだこの物騒な機能はぁ!?」


 ホバーバイクの仕様書を一通り読み終わったことで恭子はある結論に達したのだ。それは……


(これ……私が思っていた以上にヤバい代物なんじゃ……)


 まさにその通りである。もし仮にこれを外に持ち出そうとすれば間違いなく大騒ぎになるだろう。さらに魔境内であればこのホバーバイクで倒せないものはいない……と書かれていた。


 しかし、この仕様書にはホバーバイクを運用する際の注意事項も書いてあった。その注意点とは……


 ・ホバーバイクで戦闘を行なって勝利した所で『経験値』は得られない

 ・ホバーバイクで倒した魔物の肉は高濃度の魔素で汚染されるため食べると中毒を起こす。

 ・ホバーバイクは賢者の魔境の魔素でしか動くことができない


 など、まだ色々とあったが概ねこの3点に集約されていた。操作方法は恭子が思った通り単純だった。念じる事。ただそれだけである。


「要は賢者の魔境と呼ばれるこの広大すぎる森を移動する為に作ってくれたのね。にしても経験値ってなに?」


 恭子は地球に居た頃、育ちの環境から少ししかゲームをやったことがあまりない。その為小説やアニメ、ゲームと言ったサブカルチャーに疎かった。ゆえに経験値という概念が恭子の中でなかったのだ。他にも魔素という言葉がでてきたり、意味不明な単語が増え恭子は困惑し始めてしまった。


 このままでは理解できない事が増えることを懸念した恭子は『初心者の為の異世界生活』を熟読にした。この世界の理、概念、可能な限り基礎知識を付けなくてはいけない。


 果実を片手に約2時間。時にメモをしながら集中して熟読した。父が残してくれた『初心者の為の異世界生活』は非常に分かりやすく書かれていた。ヴィルトエルにおける理はもちろん、各項目の情報も書かれていた。何より専門学はさわりの部分だけ記載されている。ちゃんと頭に入るように配慮して作られている事が分かる。


 最初からこれをよく読むべきだったと恭子は後悔した。


 とりあえず今回必要な事はヴィルトエルの理。さっき出てきた単語、経験値の事ももちろん記載してあった。


 レベルという概念。経験値を得ることでレベルを上げる事が出来る。レベルが上がる事で各ステータスが上昇する。さらにレベルが上がるとステータス上昇以外にも、ギフトという特殊能力を習得する事がある。中にはユニークと呼ばれこの世界で1人しか持っていないものもあるらしい。自分のレベルを確認するには各ギルドのどれかにに登録しギルドカードを貰う必要がある。


(ふ~ん……)


 恭子は一通り読んで理解が出来たがこのレベルという概念が気に入らなかった。このレベルという概念は、この世界の生物は当たり前に持っている感覚らしい。しかし地球から来た恭子にとっては違うのだ。筋トレをすれば力がつく、走り込みをすればスタミナもつく。そんな生き物がレベルという概念を持っている事を不快と感じた。


 決してレベルという概念を否定しているわけではない。恭子の中のレベルという物はもっと大雑把であるべきという考えなのだ。決して細かな数値で決めてはならない。しかし、この世界の住人にとっては重要な事らしくこれを否定したら色々と問題が起こるだろうと思った。


(は~……こんな世界に来てしまったのか私は……)


 と大きく溜息をつき、ふと空を見上げると、そろそろ日が沈みだしていた。


「もう夕方か……とりあえず今日は終わりにするか」


 最後に熟読した本『初心者の為の異世界生活』を閉じ、その日は就寝することにした。


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