第3話 遺産
光が収まり目を開けると、先ほどまで朽ち果てていた建物がまるで新築と言わんばかりに綺麗になっていた。さらに先ほどまで無かった家具や小物類まで置かれている。恐らく恭子が先ほどの日記を読み終えるとこの状態になるように細工されていたのだろう、
もちろん見慣れない物が沢山ある。例えば武器。壁に飾ってあるのは装飾された細身の剣や2メートルぐらいありそうな槍。壁に飾ってあるという事は恐らく観賞用で実戦用ではないだろう。こんなものがあるなんて改めて異世界を実感した。
恭子は家の中を探索する。綺麗になった家は異世界なのだが作りが所々日本家屋のような作りをしていた。例えば石材で出来た浴槽があったり、畳の上には座卓やちゃぶ台があったりする。そんな日本風の建物で異彩を放つ部屋が何か所かあった。
まずはこれでもかと大量に貯蔵された書物がある部屋。図書館までとはいかないもののかなりの量の本が複数の本棚に収まっている。ざっと見る限りジャンルは多岐に渡る。ここにある本を読み込めばある程度ヴィルトエルが分かるだろう。
次に錬金部屋と言われる部屋。ビーカーやフラスコ、聞いたことや見たことが無い薬品、乾燥した葉が置いてあった。恭子は知識がない状態でこの部屋を使用するのは危険と判断しわかる範囲で危険物が無い事を確認しその場を後にした。
次の部屋は工房と呼ばれる部屋だ。数々の工具が壁に飾ってあり、炉もある。工具の中にはヴィルトエルで使わないだろうと思われる現代工具も置いてあった。
「なんでレンチやドライバーまで置いてあるの……」
恭子は混乱した。異世界=中世レベルと思い込んでいたからだ。これまで除いた部屋を見ても中世レベル程度と思ってもおかしくはなかった。現代工具が置いてあった答えがわかる事になる。
次の部屋はガレージと書かれていた。その部屋の一角に明らかに場違いな物体が置かれていた。
「なにこれ……」
恭子の前においてあるのは大型バイクらしき物であった。しかもタイヤが無い。恭子は恐る恐るそのバイクに近づく。よく見るとタイヤを付けるところがない。代わりに吹き出し口のようなものが付いている。
恭子は恐る恐るそのバイクにまたがってみた。すると……。
「ちょ……うわっ!?」
恭子がまたぐとバイクが起動したらしくエンジン音らしきものがうねり始めた。そしてバイクは低空で浮き始めたのだ。さすがの恭子はこれには慌てた。なんせ普通のバイクはもちろん宙に浮くバイクなんて乗ったことが無いのだから。そして恭子の目の前に半透明な画面のような物が映し出された。しかし空中に浮いていてバイクのハンドルを握ったまま表示されているので見づらかったが、 速度メーターだろう。この文字が何故か日本語なので理解が出来た。
(起動したのはいいけどどうやって動かすのよ!)
恭子はそう思った瞬間バイクが前進を始めてしまった、
(えっ?ちょっと!?)
動き始めたバイクは急発進する。そしてガレージを突き破りスピードを上げながら前進する。その速度は時速50キロを超えている。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
恭子は振り落とされない様にハンドルをしっかりと握る、そして制御の方法もわからないまま森のある巨木が目の前に迫る。
(ぶつかる!止まって!止まれぇ!!)
恭子の強い願いが届いたのか、バイクは急ブレーキをかける。結果、慣性の法則によって恭子は前方に投げ出される。投げ出された恭子は背中から巨木にぶつかる羽目になってしまった。
背中を強く打ち付けた恭子は意識を失いそうになるがなんとか堪える。幸いにも地面が柔らかかったため衝撃も少なかったようだ。恭子は自分が生きていることに安心したが、怪我をしていないか確認した。幸い主だった怪我をしていなかった。身体の状態を確認し終えるとその流れで今日はぶつかった巨木をみてしまった。
(マジで……)
巨木は恭子のバイクにぶつかった部分がへこんでいた。いやへこんでいたなんて生易しい。抉れている。ぶつかった衝撃がすさまじかった事が分かる。だが恭子が最初に感じたことはそういう事ではない。
(これだけ派手にぶつかったのに重症じゃない!?)
恭子は自分の身体能力の高さに驚きを隠せなかった。普通なら死ぬような衝撃だったはずなのに重症では無い、それどころか打撲やかすり傷程度であった。しかも5歳程度の子供の身体だ。
(もしかして私って結構強い?)
そう思いながら恭子は巨木の方に目を向けると違和感を覚えた。恭子は不思議に思って近づいてみる。恭子は巨木に触れる。その表面はひんやりとしていた。どうやらこの巨木は大量の水分を含んでいるらしい。恭子はさらに観察を続けると、その巨木の表面から水滴が落ちていることに気づく。
(もしかして、この巨木って……)
恭子は危うく勘違いするとこだった。自分の身体は確かに地球にいた時に比べれば丈夫になっている。今回はいたってはぶつかった巨木の大半が水分で構成されている事がクッションになり大怪我をせずに済んだのだ。恭子は危うく自分は無敵なのだと勘違いするところだった。丈夫な体とはいえ痛いものは痛いし怪我もする。
恭子は改めて気を引き締め直した。
恭子はとりあえずこの場を離れる事にした。理由は特に無い。だが、ここにいるのは危険な気がしたからだ。そして何となく操作方法がわかったバイクに乗り家に戻る為走り出した。
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