第十四話 エルフの集落
小鳥のさえずりと窓から入る暖かな日光に照らされて目を覚ました。気持ちの良い朝だ。腕を伸ばし軽いストレッチをして、ベッドから立ち上がる。今日は何をしようか。そういえば俺全然この集落について知らないぞ?ほとんど此処に居たし、外に出た時も他の事で頭が一杯だったし。よし!今日はこの集落を見て回ろう。・・・警戒されない範囲で。あれ?何か忘れてるような・・・
「ま、いっか!忘れてるってことは大した用じゃないだろ!」
考えても思い出せないので考えるのを止めた。こういうのはふとした切っ掛けで急に思い出すもんだ。そう考える自分を納得させた直後、ぐぅと腹が鳴った。腹減ったな・・・昨日はメイリアが持って来てくれたが、今日もそうなのだろうか。いやいっそのことこっちから取りに行こう。
「あっ、龍一。おはよー」
そう思ってドアを開けたら目の前に木のトレーのような物に料理を乗せて立っていた。背の小さいメイリアがその格好だと小学生の給食の時間みたいだなと思ったが、口には出さなかった。どうせ伝わらないしな。
「おはよう。メイリア。それ俺の飯だよな?」
「そうよ。今日も持って来てあげたわ」
「ありがとう。後は自分で運ぶよ」
メイリアからトレーを受け取りテーブルに置く。メイリアは俺の後ろに続きテーブルの正面の椅子に腰掛けた。ちなみに今日のメニューは何かの肉のスープと何かの野菜のサラダだ。うん、一つも分からん。
「いただきます。・・・食いづらいんだけど」
メイリアは何も言わずこちらをジッと見ている。何だ?何かマナー違反したのか?でも怒ってるって感じでも無いんだよな。これは言うなれば観察に近い。
「何で黙ってんだよ。怖ぇーよ」
「いや、異世界人って何食べてるのかなーっと思って」
「肉も魚も野菜も何でも食うぞ」
元の世界の人間はまじで何でも食うからな。散々言われている事だが雲丹とか最初に食べた人は凄いと思う。いろんな意味で。
「食の疑問ならこっちもあるぞ。今食ってるスープもそうだけど、エルフって菜食主義者じゃないのか?」
「よく知ってるわね」
「王宮で読んだ本に書いてあったんだよ」
「昔は多かったみたいよ。若いエルフは肉を食べる人も結構いるわ。単純に食べる物が減ってきたからってことと・・・」
メイリアは俺からスプーンを奪いスープの中の肉の塊を口に運んだ。
「美味しいからっていうのが最たる理由ね」
「おい・・・俺の謎肉」
「あっごめんね。実演したほうが分かりやすいと思ったのよ」
「まあいいけどよ・・・でもそれで納得だ。本にエルフは自然を大切にする菜食主義の種族って書いてあった。それを知った上で此処を見ると、木を伐採して作られた家に肉食料理。本の内容とは違っていて違和感を覚えてた。でもエルフの価値観や思想も変わっていく。当たり前の話だよな」
「ただ自然を大切に、って考えは古いわね。今は衣食住最優先、家を建てるために木を切るし、野生動物も皮と骨を使うだけじゃなく肉も食べる。服にも植物や動物を使うしね。その後に来るのが自然を必要以上に傷つけない、といった感じね」
「自然に感謝をして必要な分だけ頂くってことか?」
「そんな感じかも」
「なるほどなー」
少し、ほんの少しだけ、日本のいただきますに近いものを感じた。木を切ることと飯を食べること、自然への感謝と料理を作った人や作物などを育てた人や果ては神への感謝。その行為と感謝の対象は違うが何か似たものを感じた。
料理を食べ終えメイリアと話していると家のドアが開いた。マルスだ。マルスはドア近くの壁に寄りかかり腕を組んでいる。そのポーズお気に入りなのか?まあカッコいいけどね。
「おはよう。マルス」
「ああ、よく寝れたか?」
「そりゃもうぐっすりと」
「そいつぁ何よりだが、快眠過ぎて何か忘れてねーか?」
「何か、そうだよ。何か忘れてんだけど思い出せないんだよ」
「何だそりゃ。長老が呼んでる。内容は知らねーけど。これがその何かじゃねーのか?」
「さあ?さっぱり。でも長老が呼んでるなら早く行かないとな。悪い」
俺は椅子から立ち上がりそのまま家を飛び出していった。その後ろで
「朝から忙しないわねぇ」
「アイツ長老の────」
というメイリアとマルスの声が聞こえた気がするが気にしない。マルスの言葉は最後までは聞き取れなかった。それが少し気になる位だ。
といって家を飛び出したものの、俺は途方に暮れていた。長老の家がどこにあるのか分からない。マルスの聞きそびれた言葉の続きが分かった。アイツ長老の家の場所知ってんのか?、だ。
知らないよ。切羽詰まって無い状況で見る集落。それは初めてのように思えた。集落はログハウスのような家が20軒ほど人口は100人に満たないだろう。他には農場と物見櫓位しか建物は無く、家とその建物達を木製の柵で広めに囲っている。それがこの集落の全貌だ。
「あの、すみません」
たまたま近くにいたエルフに話しかける。警戒されてるかもしれないけど、目があってしまったので話しかけた。
「龍一様!ずっと言いそびれてしまって申し訳ありません!娘を助けて頂きありがとうございます!」
「いえいえ」
「今娘達とその親を呼びますので少しお待ちください!」
話しかけたのは連れ去られそうになった少女の親だったようだ。少しすると少女達が駆け寄ってきた
「リューイチ!元気だった!?」
「あ、あの時はありがと」
「あ、あ、あの・・・こん、にちはリューイチさん」
「待て待て一辺に来られても困る!俺はお前らの名前すら知らないんだぞ!」
「あたしキキ!8歳」
「・・・・ララ。10歳」
「えーと、ルルです。9歳、です」
よし龍一覚えた。今抱きついて来てる元気なのがキキ(8)、その後ろで腕を組んでいるツンデレの卵の子がララ(10)、大人しい感じの子がルル(9)ね。ところでキキさん。抱きつくの止めて貰っていいっすかね?反射的に両手をあげ降参のポーズをとっちゃったじゃん。恥ずかしい。
「リューイチ、長老に会いたいの?こっちだよ!」
俺の腕を引っ張って行くキキ。途中すれ違う親御さんに、娘を助けて頂いて、いえいえー、の流れを2回ほどやった後に辿り着く長老の家。気づけば後ろは親3、娘3、俺1の大所帯のパーティー。長老の家だから大きいのかと思ったがそんなに大きくは無く、他の家と大差なかった。
「じゃあ、行ってくるわ」
パーティーの皆に見送られ俺は長老の家のドアを開ける。
「お待ちしておりました。それではこれが、お望みの魔道具です」
思い出したあああああああああ!!そういえば半寝状態で会話してたら長老の弓の魔道具を貰うっていう謎展開になったんだったあああああああああ!!!
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