第十三話 提案

地面に倒れるオーク。何とか倒せたようだ。緊張の糸が切れたのかどっと疲れが出てきたのでその場で座り込む。駆け寄ってくるメイリア達。


「龍一!大丈夫!?」

「ああ、何とかな」


その後ろには長老もいた。


「龍一様。集落を救って下さりありがとうございます」

「俺は別に、殆ど櫓の人達のお陰ですよ。それより大事な話があるんですけど。今すぐに」

「大事な話?今すぐですか?」

「はい。借りてる所で話ますから着いて来てもらってもいいですか?」

「分かりました」


長老の話から会話の方向転換。じゃないと最初の時みたいに堂々巡りになりそうだしな。敬語も様も止めて欲しいけど、これが長老の人間への接し方かも知れないし今そのことを言うのは止めておこう。大事な話があるのは本当だ。



「それで、大事な話とは何でしょうか?」

「この集落をあの数の魔物が襲って来るのは初めてですか?」

「ええ、そうです。普段は魔物なんて滅多に出ません。出てもゴブリン一体だけ程度だったりするので、この集落の防衛力でも何とでもなりました」


なるほど、ということは考えていた様に魔王の復活による影響で、魔物達が数を増やし活発に行動する様になったという線が濃厚かな?あくまでも仮説の域を出ないけど他の理由が見当たらないし。


「魔王の復活は、知ってますか?」

「ええ、知ってますよ。ついさっき、メイリアとマルスと話に行った時です。メイリア、彼女が龍一の言ってた通りだわ、本当に魔王復活の影響かも、と呟いたのを聞いて。聞いた時は驚きました」

「なら魔物の活発化が魔王復活の影響かもしれないことも?」

「何となくですがその可能性は高いと思っていました」

「高い?低くても他の可能性もあり得ると言うわけですか?」

「魔王は関係なく単なる魔物の増加。これも可能性は低いですが無いわけではありません。それに・・・」


その可能性も無くはないか。全く気付かなかった。良く考えていたら分かったかもしれないのに。


「魔王が復活したのは数年前とお聞きしました。魔物の活発化が魔王復活の影響だとしたら、数年間、我が集落に今回のような襲撃が無かったのはおかしいと思いませんか?」

「・・・確かに、おかしいかも」

「勿論、魔王復活の影響ではないとは言ってません。偶々狙われ無かったということもありましょう」

「だったら、長老にとって今回の襲撃は何が起因していると思いますか?」


そうだ。盲点だった。魔王の数年前の復活で今まで被害が無かったというのはおかしい。



「可能性は大きく3つ。一つは単純な魔物の大量発生。これは確率が低いです。二つ目は魔王復活の影響。考える限りではこれが一番確率が高いと思います。そして、三つ目・・・」


何だ?言い淀んでいるけど。それにこっちをチラチラ見てくるぞ。俺のことか?


「勿論、龍一様を疑ってる訳じゃありませんが・・・タイミングが良すぎるのです」

「タイミングが良すぎる?」

「龍一様がこの集落に来て直ぐに、前例のない数の魔物の襲撃がありました」

「・・・考えたら確かにそうだ。でも俺は何も知らないですよ?」


長老の言う通りだ。確かにタイミングは抜群だ。疑われるのも無理はない。長老は疑ってないと言ってくれてはいるが一応俺も否定しておこう。


「はい。龍一様が元凶だとしたら、自分で送った魔物を自分で倒すという意味のわからないことになりますからね。なのでやはり魔物復活の影響が一番可能性が高いと思います」

「やっぱりそれか。でも決めつけをするなって話ですよね」

「そうですね。混乱させてしまいましたか?」

「少しね、でもその結論になって良かったです」

「と、言いますと?」


本題はここからだ。果たして長老はどういう反応をするのだろう。


「魔物の活発化が魔王復活の影響なら、これからも今日みたい襲撃が続くと思います。これからどうやって対処していく予定ですか?」

「それは・・・」

「メイリアとマルスを戦わせれば、ある程度持つとは思いますが」

「彼女等は大事な友人の子供でまだ若い、危険な目に会って欲しくないのです」


長老が二人を戦わせない理由がようやく分かった。長老は二人の親の友人だった。その友人の置き土産を守りたかったのだ。いや、二人だけじゃない。守りたかったのは村の若者達だ。外に出ていたのは、長老と櫓にいたエルフ達。どの人物も白い髭を蓄えた、若者に到底思えない風貌をしていた。長老の基準で、長老の命令で、若者は家に隠れ、それ以外は外で戦っていたという訳だ。例え間違いだとしても、それが長老の選択なんだ。外野がどうこう言うべきではないはずだ。


「・・・長老。集落の防衛について一つ、提案があります」

「提案、ですか?」

「これは長老や集落のエルフにとって到底受け入れられないものかも知れない。それでも俺は、話さなければならない。そう思った。だから、聞きます」

「長老、この国の王様、レクス様に会ってみませんか?」

「はい?」


長老はポカーンとして脳が理解を拒んでいるような様子だ。そりゃそうか、国王に会ってくれはいきなり過ぎたか?でも、俺の頭じゃこうやって言うのが限界だった。


「えー、龍一様もご存知だと思いますがエルフ族は人間に警戒心を───────」

「全て分かった上での提案です。レクス様は優しい御方です。なので、二人で相談に行きましょう。きっと力になってくれるはずです」

「しかし・・・」

「返事は直ぐにではなくても大丈夫です。その為に直ぐにこの話をしたんですから。そうですね・・・俺は2週間位はここに滞在させてもらう予定なんでそれまでに答えを貰えると嬉しいです。」

「ええ、はい・・・分かりました・・・集落の者と良く話し合い、結論を出させていただきます」


長老は俺の言葉が届いてるのか、ずっと顎に手を当て考え込んでいる。


「ふぁ」


どうやら俺は俺で疲労もあって眠いようだ。話も終わったし巻こう。


「話は以上です」

「確かに大事な話でしたね」

「それでは、俺は疲労も貯まってまして今すぐ寝ようと思います」


よし、これでオッケー。直ぐに出てってくれるはずだ。


「そうでしたか。いえ、そうですよね。では私は失礼します」


よし、後は寝るd─────


余程疲れていたのか途中で気絶するように眠りについた。


10分後


「言い忘れてました」

「んあ?」


誰だあ?長老かな?頭が完全に睡眠モードだ。一回、目が覚める行動をしたらこのモードが解除され寝辛くなってしまう。半覚醒のこのまま応対しよっと。


「村を救って貰ったお礼を決めれませんでしたね。何か欲しいものはありますか?」

「ほしいもの・・・まどうぐがほしいーでーす」

「分かりました。この集落にある魔道具が欲しい。つまり私の持つ弓が欲しいということですね。龍一様は二度もこの集落のエルフを救って頂いた方、喜んでお渡ししましょう」

「まじっすかー。やったぜー」

「では明日私の家に来てください。その時にお渡ししましょう。それでは、失礼しました」

「あざーす。じゃ、ねむいんでしつれいしまー・・・ぐぅ」


何か凄いことになった気がするが、まあいいか。明日の自分に先送りだぜ!

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