第十二話 襲撃

「魔物!?そうか、ここは王都じゃないもんな!」


王都周辺には殆どいないから魔物に襲われるっていうのは初めてだ。泊めさせてもらっている恩もあるし、加勢に行こう。ナイフを手に取り、魔道具の腕輪にも手を伸ばす。メイリアとマルスの様子がおかしい。


「お前らは行かないのか!?」

「私達は魔物討伐に加わっちゃ駄目なんだって」

「どうして!?」

「村長からしたら部外者は下がってろって言いたいんじゃねーか?」


メイリアもマルスも動こうとしない。


「村長がそう言ったのかよ!?」

「それは・・・」

「魔王復活で魔物も凶暴になっているかもしれない。俺は行くぞ!」


家を飛び出しエルフ達の声がする方へ走る。走りながら魔道具を腕につける。瞬間、俺の速度は格段に加速した。時速50km以上出ているだろう。しかしこの魔道具は・・・今は魔物が先だ。


いた。集落の入り口近くまで魔物が来ているようだ。物見櫓のようなところから矢を放っている。近くに長老の姿を確認した。


「長老!魔物の数は!?」

「貴方は家に戻っていてください」

「ああ、もう!後で罰でも何でも受けてやるから!何匹いるんだ!?」

「っ・・・ゴブリン20体にオーク5体です」

「応戦してるのが4人しか居ない。押しきられる!長老!この村で他に戦闘にだせるのは!?」

「居ない。強いて言うならマルスだ」

「そんなら戦闘に参加させるべきだろ!」

「それは、」

「なら連れてきてくれ!!アンタが部外者は戦わせたくないと思ってるって言ってたぞ!!」

「何!?そんな事は・・・」

「なら早く連れてきてくれ!魔物と戦うのは初めてなんだ!どのくらいやれるかわからない!!」

「分かりました!」


長老が走っていったところで同時に入り口の門が破られる。入って来たのはゴブリン7体、オーク3体だ。半分以上減らしたのか、流石防衛を任されているだけはある。ゴブリン。オーク、共に王宮の本で確認はしていたが、間近で見ると・・・思ったよりも醜悪だな。


ナイフを構えゴブリン達に突撃する。オークは櫓のエルフが気を引いている。今のうちにゴブリンを倒さないといけない。ゴブリンは7体。いけるか?俺は先ず一番先頭のゴブリンの首をすれ違い様に掻っ切る。先ずは1体。俺の中でゴブリンは人間というより野生動物の認識だったようでためらいは殆ど無かった。次の2体は俺を挟むように両横から棍棒を振るう。俺はそれを後ろに最小限の動きで避ける。下がったことでその二体は俺の目の前で無防備だ。大振りの一撃で2体の頭と胴体が離れた。



どうやら能力が発動したようだ。俺のこの能力は自分の意思で発動できる。だがこうやって勝手に発動する時もある。それはおそらく俺に危険が迫っている時だ。物凄く基準が曖昧だな。

いずれそのせいで致命的なミスを犯さないといいんだが。いや絶対そうなる。それよりもこのナイフ、切れ味やべえ。盗賊の時は刺すか投げるかだったから良く刺さるなー位だったのだが、ゴブリンの首を切り落とす瞬間の刃への抵抗が全くない。流石有能鍛治師のクロードのナイフだ。でもクロードさん、これ扱いに失敗すれば自分の指もパックリいきますよね?そんなの初心者に売っていいんですか?


ゴブリンは残り4体、そのゴブリン達は俺を取り囲むような位置取りをしている。能力は・・・大丈夫、まだ続いてる。発動のサインも終了のサインも無いのも弱点だな。この能力弱点多すぎだろ!!数えて無いけど両手の指でも足りない位だ。


4体のゴブリン達が一斉に襲い掛かって来た。逃げ場は、無い。今までなら。


俺はゴブリンが迫り、棍棒を振るう直前に大きく跳んだ。魔道具によって強化された身体能力により2m以上跳んだ俺はゴブリンの頭を持っていた。跳ぶ直前にゴブリンの頭を両手で掴み、力の限り回転させ、跳躍と同時に引っ張ることで頭をもいだからだ。残り3体。


自分の攻撃の不発と敵は宙に逃げたと理解したゴブリン達は上を向き追撃を掛けようとするが、俺は持っていたゴブリンの頭を全力で投げつける。そしてそのまま一体の顔にナイフを突き刺し着地。あと2体。


残りのうち一体は投げた頭で体制を崩しているのでもう一体の方の棍棒を横に躱して、通り過ぎると同時に首を刎ねた。そしてそのまま体制を崩しているゴブリンの首も切り落とした。


「何とか、やれたな」


額の汗を拭う。結果的には一発ももらってないがいつ終わるか分からない能力を気にしながらの戦闘は思いの外体力と精神を削った。


「後はオークか。流石に厳しいな」


オーク達は櫓を壊そうとしていてこっちを見ていない。俺はオークの後ろまで走り、そのまま跳んでオークの背中に着地しそのまま後ろから首にナイフを突き立てた。


「グァアアア」


もがくオーク。一撃では無理だったか。残りのオークも此方を向く。それでいい。俺がヘイトを稼いで、櫓のエルフ達に後ろから無防備な背中を弓で打ってもらう。ゲームで言うところの回避タンクってやつだ。問題があるとすれば、俺の能力が切れている事ぐらいだ。


「うわっ!」


この世界のオークの体長は2mを優に越えている。緑の体色の人型の魔物ゴブリン、それを大きく逞しくしたものがオークだ。別に豚顔でも無いし、ゴブリンが成長したら成るという訳でもない。別種だ。オークの特徴として挙げられるのは、その手に1mを優に越す大きな棍棒を好んで使うということだ。今の俺はその棍棒でぐちゃぐちゃにされる寸前だった。


「はぁはぁはぁ、くそっ早く死ねよ!」


能力は切れたが腕輪のお陰で何とか攻撃を避け続けられていた。数十秒逃げ回りようやく一体が倒れた。オークは後二体。逃げ続ける自信はない。オークから少し離れて息を整えていると後ろから声が聞こえてきた。


「龍一!大丈夫!?」


弓を構えたメイリアと


「悪い。待たせた」


剣を握るマルスだった。長老が約束通りマルスを連れて来てくれたんだ。メイリアも自分だけ仲間外れは嫌だと着いて来たのだろうか。


「兄さん!右から行くわ!」

「了解」


メイリアが矢を弓につがえて引き絞り矢を放つ。二連射だ。その矢は俺に向かって来るオークの両目に吸い込まれるように刺さった。


「おらよっ!」


それを分かっていたかのように先に動いていたマルスはそのままオークの首を切り飛ばした。メイリア、マルス、こんなに凄かったのか・・・


「はい、次!」


マルスはもう一体のオークの方に向かおうとしている。メイリアも次の矢をつがえている。

このまま2体目も難なく倒すだろう。・・・俺はそれでいいのか?


「待ってくれ」


二人を手で制す。櫓のエルフも。エルフ達は俺の話を聞く義務はないので無視されるかと思ったが、どうしてか動きを止めていた。


「何だよ」

「あいつは俺にやらせてくれ」

「はぁ?・・・ま、やりたいなら好きにしろよ」

「その代わり、集落や龍一が危険だと思ったら手を出すわ」

「勿論、それで構わない」


向かって来るオークに此方も駆け出す。これは単なる俺の我が儘。この先オークより強い奴と戦う事なんてごまんとある。そのためにこんな相手に手こずってられない。ただそれだけの我が儘。


相手を良く見ろ。俺の能力は身体能力が上がるわけじゃない。なら能力が切れた今の状態でも同じ動きとは言わずとも近い動きならできるはずなんだ。オークはどう動く?


オークの攻撃は、棍棒の横振り。来た!オークとの距離は3mほど、横振りの予備動作の段階でスライディングのように滑り込んだ。オークの身長は高い。結果、それは空振りとなり、オークに隙が生まれた。スライディングから起き上がり屈んだ状態からの跳躍。通り過ぎ様にナイフを突き刺す。まだだ。刺したナイフを起点にオークの上半身に張り付く。首を刺され暴れるオークから振り落とされないように捕まり、首に刺したナイフを力強く握った。そして首を切るジェスチャーと同じ動きでオークの首をを刎ねるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る