第十一話 メイリア
「別の、集落?」
「龍一も知ってる通りエルフはここだけじゃなくて色んな場所で暮らしてる。同じ一族や同じ思想を持った集まりでね。それをエルフの集落って呼んでるの」
もしこの世界のエルフがこの集落だけにいるとしたら余りにも少数すぎる。それに“西の”エルフの集落という呼び方からしてに西以外にもあるような言い方だ。だから他にもエルフはいるとは予想していたが集落の仕組みは初めて知った。でも思想や一族で集落が別れていると、ものすごく少人数の集落とかもできるよな?エルフの居住場所が地図に描かれて無かったのは、集落という小さな集まりで尚且つ複数箇所に点在していていて場所の把握があまりできなかったから、ということなんじゃないか?
「私達が住んでいたのはここよりも小さい名前も無い集落だった。ううん、有ったのかも知れないけど私にはどうでもよかった。私にとって世界はその集落だけだったから。私はそこで父さんと母さん、そして兄さんと暮らしてた。私は優しい父さんと母さん、そして集落の皆が大好きだった。ずっとこの大好きな皆と暮らすんだと思ってた。10年前までは・・・」
メイリアの表情が暗くなる。10年前に、何が起こったのかを物語っているようだ。マルスの方を見るが表情の変化はなく、ただ目を瞑っている。その時の事を思い出してるのだろうか?
「10年前、ソイツは突如現れた。最初は迷い込んだ人間かと思ったわ。人間は見たことなかったけど耳が短いのは聞いてたから。でも違った。ソイツには頭に角が生えていた」
「角?魔物か?」
全く自分でも白々しいと思う。背格好が人間に似た頭に角の魔物なんていないって分かってるのに。魔族だって分かってるのに。野良の魔族はいない。10年前から魔王軍が動いていたなんて知りたくなくて。
「違うわ。ソイツは魔族だったの。父さんはソイツを見た途端に私に自分の弓を渡して逃げるように言ったわ・・・そこからは、あまり覚えていなくて・・・」
「なら
そっからは俺が話すぞ。母にメイリアを守れと言われた俺はメイリアの手を取り必死に走った。どこに向かうでもなくただ遠くへ、ソイツから逃げることだけ考えて」
メイリアの父さんはきっと、分かってたんだ。自分の死を悟って、娘に自分の弓を渡したんんだ。おそらくだが、メイリアの父さんは長老だった。だから大事な弓を大事な娘に渡した。メイリアの母さんもそうだ。死ぬのが分かっていて夫と一緒に魔族の足止めをした。自分の子供達を逃がす時間を稼ぐために・・・
「かなりの時間走って気付いた時には森を抜けてた。魔物に会わなかったのは奇跡だった。」
「奇跡は更に続いた。飲まず食わずで歩き疲れた俺達を拾ってくれる人がいた。それもエルフの。その人に連れられて俺達はこの集落に来たって訳だ。」
「・・・」
「・・・聞かねえのか?俺達の集落がどうなったか」
「いや、いい。」
わざわざその集落はどうなったかなんて聞くはずがない。そんなもの聞かなくても分かる。メイリアの両親は魔族に・・・殺された。
「お察しの通りだ。全員殺されたよクソッタレ。俺とメイリアの故郷はソイツに焼かれた。一瞬でだ。両親も集落の奴らも全員が、一瞬で消し炭だ。」
マルスが嘲笑気味に笑う。この嘲笑は誰に向けてのものかは本人にしか分からない。
「私、アンタに目標がないってダメ出ししたわよね?」
「そうだったか?」
「私の目標はソイツを殺すことよ・・・!」
メイリアからは聞いたことがない怒気と殺意の孕んだ声。俺には計り知れないであろう絶望や怒りを感じる。そりゃそうだ。故郷を燃やされたことも、両親を殺されたこともないんだから。返答に困っていた俺を見越してか、マルスが口を開いた。
「まあ、そういった事があったんだよ。10年も前の話さ。あんま気にすんなよ」
「そうね、私は龍一が話してくれたのに私が隠すのは嫌だったから話しただけで・・・」
「・・・・」
右の拳に力を入れて、力の限りで自分の右頬を殴る。
ドガッ
「おわっ!!またいきなり何だよ!?」
「もう何か慣れちゃったわ」
二人は俺がまたしても変な行動を起こしたと思っているみたいだが違う。これは自分への戒めだ。メイリア達の過去の話を聞いた時、ほんの一瞬思ってしまった。「またか」「定番だな」
と。俺は自分を殴り続ける。バカか!!何時になったら理解するんだ!!俺がいるのは現実、小説やゲームの世界じゃないんだ!この世界にいるのはキャラクターやNPC何かじゃない!!この世界の人々一人一人に物語があるんだ。それを比較したり並べて話してはいけない。そんなのはこの世界の人々に対しての冒涜だ。
「龍一!流石にストップ!」
「二人共、ごめん」
「何に謝ってんだか知らねえが謝られる事なんてされてねえ」
「そうよ。こっちがモヤモヤするから止めて欲しいわね」
「せめて説明してくれりゃあな・・・」
「とにかく、ごめん。それだけは言わせてくれ」
「わかったわよ。許します。これでこの話は終わり!それで何の話だったかしら」
自分の贖罪のためにに二人に余計な迷惑までかけてしまった。話すなら全て話す。元の世界では小説でエルフが云々全て。話さないなら心の中で謝ればいい。俺はいつもどっち付かずの中途半端だ。話題を切り替えてくれたメイリアには感謝しかない。
「確かメイリアの過去を聞いて・・・・・」
ピュイィィィィ
「魔物だ!!魔物が現れたぞ!!」
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