第十話 岡崎龍一について
それから俺は別の世界があること、俺はそこに住んでいたこと、弟の転移に巻き込まれたこと等、転移直前から今に至るまでの出来事を余すことなく全て話した。
「龍一は別の世界の住人で、勇者として喚ばれた弟の転移に巻き込まれた・・・・」
メイリアは何とか自分なりの解釈で理解しようとしている。マルスは
「済まなかった・・・!自分が別の世界から来たなんて言える訳がない。本当に申し訳ない・・・!」
ひたすら平謝りだ。マルスは何も悪いことはしてないのに。逆の立場でも俺はマルスのように疑っただろう。実際メイリアの時も疑って土下座したし。
「マルス、顔を上げてくれよ。俺だって自分を怪しいと思うんだからマルスの懸念は正当だって」
「ありがとな。龍一」
「メイリアの方は大丈夫か」
「ええ、何とか。でも疑問もいくつかあるわ」
「俺もそうだな。大体同じ所だろうからメイリアが聞けよ」
メイリアが頷く。疑問点か。一体何の話のことだろうか。
「まず一つ、龍一は何で戦う事を選んだの?お金は貰えるし能力が無いかもしれないのに。弟は勇者なんでしょ?弟に任せてとかそういう発想はなかったの?」
それか。龍二がいたら絶対に答えられない質問だな。確かに戦わない選択肢もあった。店を開いたり、スローライフを目指したり、俺が読んできた本の主人公はそれを実行し成功していた。だがバイトでしか働いたことのない俺に店舗経営ができるとは思えない。スローライフも同じだ。町や村を発展させるなんて俺には無理だ。畢竟、その主人公達は知恵と才能を持っていたってことだ。
「弟が戦っているってのに自分だけ貰った金でのうのうと暮らすなんてできない。・・・なんてこんなものは建前だ。俺はただ、弟に負けたくなかったんだ。弟に守られるのが嫌だった。少しならマルスも分かってくれるだろ?」
「確かに、メイリアに守られるだけってのは兄としては嫌だな」
「そういうものなの?」
「ああ、龍一の気持ち、分かるぜ」
「龍二は、弟は元の世界でも何でも俺より出来た。それは異世界でも同じだった。弟は勇者、俺は一般人。差はまた開いた。それでも俺は諦めきれなかった。結局・・・俺は・・・弟に、強いコンプレックスを持ってるんだ」
言ってしまった。元の世界から隠していた俺の本音を。でも、この二人になら話してもいいと思った。
「ならそのコンプレックスを感じないくらい強くならないとね」
「メイリア、簡単に言うけどなあ。まあでもここでの友達の数なら勝ってんじゃね?俺とメイリアで。そういう小さいとこからやってるとその内感じなくなるもんじゃねのーか」
「マルス・・・」「兄さん・・・」
「「今友達って」」
「はあ!?言ってねーよ!!別に友達だとも思ってねーし!」
「友達だと思ってくれてるなんて・・・!」
「やっと兄さんに友達が・・・!」
「お前ら話を聞けよ!!」
その後たっぷりとマルスの言い訳を聞き一段落したところで話は再び俺の話に戻った。
「疑問はもう一つあるわ。」
「今度は何だ?」
「龍一は別の世界から来たのよね?」
「そうだ」
「この世界での龍一の目標が見えてこないわ」
「魔王を倒すことだ」
「それは王のやりたいことでアンタのやりたいことじゃない」
「それは・・・」
「やっぱり、元の世界に戻るのが目標?」
そう言うメイリアは少し伏し目がちだ。元の世界に戻るか・・・魔王を倒したあとなら確かに少しは戻りたい気持ちはあるし、龍二が戻りたいというなら戻らせてやりたい。
でもそれより・・・
「目標か、あるにはあるが・・・」
「何だよ。勿体ぶらず言えよ」
「神に会う。神に会って俺達が行き来可能な状態にさせる」
「良いじゃない!神にギャフンと言わせてやりましょ」
「その神のせいで巻き込まれたんだろ。そんくらいしてもバチは当たらねーよ」
「この世界の神だろ?そんなに言っていいのか?」
「さあ?知らないわ」
「人間が信仰している神だろ?エルフには関係ねーよ」
適当だなぁ・・・でも、だからこそ、その適当さが心強い。なにせ王都では大体の人があの神を崇拝まではいかなくとも善神と信じている。俺からしたらはこの前まで邪神で一応能力を与えられたから今は一応神だ。
「俺からも一つ。お前は魔王を倒すと言ったが今のお前は盗賊にギリギリ勝つ程度。その避けられる能力だけじゃ魔王は厳しいんじゃねーか? 」
「確かに今のままじゃ魔王どころか魔族にも勝てないだろうな。だから弓を学びたかったんだ。」
「エルフとしては弓は否定したくねーが、魔族に効くのか?」
「弓だけじゃない。本命はこっちだ」
俺はずっと視界には入っていたが触れなかったそれを手に取る。
「盗賊の頭が持っていた魔道具か!?」
「そうだ。これだけじゃない。俺は魔道具を集める。どうせ俺の能力も貰い物だ。ならいっそのこと貰い物で固めてやろうと思ったんだ」
「なるほどな。魔道具は様々な効果がある。それを使えば剣士にも魔法使いにもなれるな」
「じゃらじゃらと全身に魔道具着けてる龍一を想像したらちょっと面白いわ」
「笑うなよ。俺は本気だぞ?」
「ええ、分かってるわよ。問題はそう簡単に見つけられないことね」
「運良く盗賊が持っていたけど、魔力切れを起こさないものは貴重なものだからな」
一番の問題点はそこだ。戦闘に役に立つ魔道具は簡単には見つからないのだ。盗賊が持っていたこれもきっと元の持ち主は商人か貴族のものだろう。あいつはそれを奪って装備していたと思われる。
「この集落にもあるぞ」
「え?」
急にマルスから爆弾発言が飛び出した。え?ここにもあるの?隣を見るとメイリアも驚いた顔をしている。
「メイリアもなに驚いた顔してんだよ。お前の弓だって魔道具じゃねーか」
「え?え?」
再びメイリアを見るがやっぱり驚いた顔をしている。
「エルフは一つの集落基本的にに一つ、弓の魔道具を所持している。他の亜人達も村長、長老、それらに託された守り手。その誰かが魔道具を持っているもんだぞ。メイリア、常識だろうが」
知らなかった・・・じゃあ思ったより苦労しないんじゃないか?
「それに魔道具を一番多く所有しているのは人間だぞ」
大商人や貴族が集めているのだろうか?それともギルドの冒険者が多く保持しているのか。俺と同じ考えの奴も多そうだな。
「ん?ちょっと待てよ」
「・・・どうした?」
何かおかしくないか?一つの集落に魔道具は一つ。メイリアの弓は魔道具。これまでの話を聞く限りメイリアは弱い。長老から託されたとは思えない
「さっき会話でメイリアの弓も魔道具っていってたよな?マルスが言ってたこの村にもあるって、そのメイリアの弓のことじゃないよな?」
「失言だったか。まあいいだろ。実はな・・・」
「待って兄さん。私から話すわ」
何だ?聞いちゃいけないことを聞いちゃったのか?でもマルスから話を振ったしな。見ればメイリアもマルスも真剣な顔をしている。
「龍一、少し長くなるけど、聞いてくれる?」
メイリアと初めて出会った時の事を思い出す。まだ会って2、3日しか経ってないのに昔の事のように感じる。メイリアの言葉は俺がその時に言った言葉だ。彼女をエルフだと思った証拠を言えと言われて早口で捲し立てたあれだ。だが今のメイリアの言葉はそんなチンケなものではなく、子供に言い聞かせるような優しい声色だった。
「ああ、何時間でも」
「実はね・・・私達は別の集落に住んでいたの・・・」
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