第十五話 弓の魔道具
どうしようどうしよう。寝ぼけてましたー、なんてそんな空気じゃないし、くそっ恨むぞ昨日の俺!眠いからって適当に返事すんなバカヤロー!!と責めたところで昨日の俺も今日の俺も等しく俺なのでブーメランが後頭部に刺さるだけだ。
「どうかなさいましたか?」
俺が余りに考え込んでるので、長老が心配したのか話し掛けてきた。くそっとりあえず話ださないと。
「いえ、大丈夫です。それで・・・魔道具をくれると?」
「はい」
「この弓の魔道具を?」
「はい」
「長老の物ですよね!?大事なものなんですよね!?」
「・・・」
よし!これで長老も考え直してくれるはず・・・
「ええ、確かに大切な物です。それに戦いに使えば強力な武器になるでしょう。しかし、私はもう戦える年齢じゃないのです。それと、知っていますか?エルフの長老達の弓の魔道具は、渡すべきと判断した者に渡すという掟があるのです」
「マジですか・・・」
もう無理だ。断りきれない。ここまで頑なに渡そうとしてるってことは、渡すべきと長老が判断しているってことだ。よく考えると、何でくれるって言ってる物を断ろうとしてるのかと一瞬思うが荷が重いって事と、これは本当に自分勝手な話だが都合のいい、いや都合が良すぎる話に諸手を挙げて乗っかりたくなかった。別に長老を疑ってるという訳ではない。
「分かりました。この弓、お借りさせて頂きます。」
「後で返す、ということですか」
「はい、今はご厚意に甘えさせてもらいますが、後で必ずお返しします」
「どうぞ龍一様のお好きなように。龍一様は勇者なのですから」
「二人のどちらかから聞いたんですね。でも巻き込まれただけで勇者じゃないですよ」
「私は貴方がこの世界に来たのは何か意味があると思っています。それに勇者というのは最初から与えられる称号ではなく、その行動や活躍によってそう呼ばれるものだと思っております」
「長老・・・ありがとうございます」
確かにそうだ。巻き込まれただけと腐っていても何も始まらない。勇者になりたい訳ではないけれど勇者の龍二と肩を並べる位にはなりたい。俺は決意を新たに弓を受け取る。
「この矢筒もです。弓と矢筒、合わせて一つの魔道具です」
そう言って長老は矢筒を渡してきた。軽いな。矢が入って無いのかと思い軽く振るが、音がしない。矢筒を開けるとやっぱり中は空だった。これなんすか?と言わんばかりの困惑顔を長老に向けた。
「この弓は必中の弓。放った矢を風の魔法で威力と速度を上げ、さらにある程度までなら狙った位置に自動で調整しながら飛んでいきます」
「ある程度とは・・・?」
「そうですね・・・真上に射って正面の敵を攻撃することはできません。簡単に言うと目線の真ん中くらいに敵を捉えていれば必ず当たります」
「数メートル程度なら風魔法で位置調整できるってことかな?実際に使ってみないと使用感は分からないですね。何キロメートル届くのかとかも。2キロメートルは届くと嬉しいですけど」
「練習は必要でしょうね。数キロも届くかは分かりませんが」
なるほどね。通じるのか。
「次いでこの矢筒の説明を。普通の矢筒には矢を貯めておきすが、この矢筒が貯めるのは魔力です」
「貯まったらどうなるんですか?」
「ある程度まで貯めると矢の形状に変化します。いわゆる魔法矢ですね。さらに弓に矢を番えていない状態で弓の弦を引くと、矢筒の魔法矢がその手元まで転移します」
「・・・つまりこの矢筒があれば矢を大量に持つ必要はないし、魔法矢を使えば矢筒から矢を取り出しつがえるという手順が省略されるってことですか」
「そういうことになります。魔法矢は10分に一本なのでそこは気を付けなければいけません。勿論弓も矢筒も魔道具、道具なので持ち主の好きなタイミングで効果を発揮することができます」
「なるほど、、なるほど・・・」
強くね?というか強すぎじゃね?自動調整の弓に魔法矢を生成する矢筒って・・・他の長老も同じような物を持ってるんだよね?エルフ族こわいよー。あれ、よく考えたらメイリアも持ってんじゃん!!今度からメイリア様って呼ばなきゃダメかもな・・・
「長老、一つ聞いても?」
「何でしょうか」
「あの~、メイリア様の弓は一体どの様な効果がお有りにならせられるのでしょうか・・・?」
「とてもとても、私の口からは。しかし昔彼女の父と大喧嘩したことがありましてね・・・その時に彼がその弓を放ったことがあったんです」
「そ、それで・・・?」
「あの時は確か周囲一体・・・この話は止めておきましょう」
「何でですか!?その後は!?教えて下さいよ!何で黙るんですか!!将来俺も食らうかも知れないんですよ!?」
沈黙する長老をグラグラ揺すりながら必死に情報を聞き出そうとしたが、長老は無言で首を振っている。長老さん。警戒せず打ち解けて接してくれるのは嬉いんだけどさ・・・これは
「命に関わるんですよおおおおおおおおお!!!」
比較的広い長老の家に俺の叫びは空しく響き渡るのだった。勿論何故かいたメイリアを含む、外で待ってた人達が入って来たのは言うまでもない。そこで長老にすがり付く俺を目撃したメイリア達はめちゃくちゃ引いていた。メイリアに、え、何やってんの・・・と冷めた目で見られ俺のハートは脆く崩れ去った。
10分位経ったか。10分間長老に励まされメンタルをヒールした俺は立ち上がった。いやー長老マジ優しい。俺が女だったら好きになってたかもしれない。まあ男のままでも好きだけど。・・・Likeの意味な。
そんなメンタルも体も立ち上がった俺に、長老が決意を固めたような真剣な口調で話す。
「龍一様。覚悟は決めました。レクス様に会いに行きましょう」
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