第八話 王都にて

「はあ!?龍一が行方不明!?」


王様に呼び出されてなんの用かと思ったら身内の不祥事だった。


「何!?護衛も付けずに街の外まで行ってそこで消えた!?あのバカなにしてんだ!」


あいつは自虐で自分のことをバカだとよく言ってるのを聞いててそこまでではないだろと思っていたが撤回する。あいつバカだ。無警戒がすぎる。しかも聞くところによると鍛冶屋でナイフを買った後に消息を絶ったらしい。その光景がありありと浮かぶ。ナイフを買ってウキウキの龍一。早く試したいから森に行こう。どうせこんな感じだ。小学生か!


「私達にも悪いところはあった。彼ばかり攻めるのも・・・」

「いや!あいつが100悪いです。王様、捜索部隊も必要ありません」

「そうはいうが・・・」

「・・・分かりました。メンツもあるでしょうからこの件はそちらにお任せします」

「龍二よ。龍一が、兄が心配ではないのか?」

「心配はしてません。あいつのことだからその内何かしら連絡が来ると思いますよ。ただの勘ですが」

「ふむ・・・経験則から来る歪な信頼といったところか」

「さあ、そうなんですかね?自分でもよく分かりません」

「そうか。だが龍一捜索の件は、私が責任を持って行うと誓おう」

「はい。ありがとうございます。では、失礼します」

「すまぬがもう一つだけよいか」

「なんでしょうか」

「最近エリアーナと仲が良いようだな」

「・・・よくお声を掛けてはいただきますが・・・」


エリアーナ様か、エリアーナ・ボルド・グランベルグ。この国の王女様だ。異世界に興味があるらしく訓練の後に声を掛けられてからというもの、エリアーナ様とのお茶会という名の異世界話等の雑談の時間が日課になった。はっきり言ってめちゃめちゃ緊張するし気まずいが拒否する訳にもいかない。その事を言っているのだろうか?やはり勇者として扱われているとはいえ一般人の俺が王女様と席を並べるのは良くなかったのか。


「いや、今後共、仲良くしてやってくれ。あの子は周りに対等に話せる者がおらんのだ。龍二がそうなってくれたら私は嬉しく思う」


俺の表情を見て考えていることが何となく分かったのか、王様はそれを否定し対等な友人になってくれと言い出した。荷が、重い・・・


「・・・善処します・・・」


結局俺は政治家のような曖昧な言葉で濁し、王様の前から去るのだった。



部屋に戻った俺はベッドに横になりながら兄について思考を巡らす。


「そもそも何で戦おうとしてるんだ?」


最初から疑問だった。あいつは巻き込まれたのだから無理に戦う必要は無いんじゃないか?あいつの決めたことだから口には出さないが、あいつが訓練に参加している時もずっとそう感じていた。俺を心配してくれていることは伝わるがこっちの方が心配だ。何かの能力は貰っているのかもしれないが身体能力は一般人なのだから。・・・いや、この考えは少し傲慢か。


「取り敢えず、帰って来たら腹割って話すか・・・」



次の日、俺はいつものようにエリアーナ様とお茶会をしていた。


「、という訳です」

「その様にしてこちらへ来られたのですね。龍二様もですが龍一様には何と言っていいやら・・・」

「王様にも言いましたがエリアーナ様が気に病まれる事はありませんよ。龍一も別に怒ってもいません」


神にはぶちギレてたけども。あの時はビビった。目がヤバイ奴のそれだった。


「やはり、あちらに残されたご家族や友人は心配ですか?」

「心配はしてません。元の世界はこっちと比べたら安全ですから。向こうは心配しているとは思いますが」


うちの両親は割と放任主義だが何も気にしてなかったらさすがに傷つくぞ。友人達はいい奴らだから貼り紙とかしてくれてるかもしれない。


「・・・」

「どうされました?」

「やはり敬語は辞められませんか。慣れていないのでしょう?クレアさんと話すように私にも普通に話して貰いたいです。私は貴方と・・・」


確かに敬語なんて教師とか目上の人にしか使わないし、会話する頻度も少ないから拙いと思う。前から敬語は止めて欲しいとは言われてたが王女だしな・・・で避けて来たが昨日王様に言われたからな。だからもう一度この話題がでたら敬語を止めようと決めていた。


「・・・分かったよ。エリアーナさん」

「エリアーナ!」

「・・・エリアーナ」

「よろしい。です」

「それでエリアーナは敬語を止めないのか?」

「私はこれがスタンダードですので」

「何かずるくないか?」

「いえ!何もずるくないです!」


そういって胸を張るエリアーナが、王族とかけ離れた、あまりにも普通の少女そのもので。俺は未だに少しあった緊張がほぐれていくのと同時に、何故だか知らないがこの国を守りたいという決意が固くなった。


「ぷっ、そうか」

「あ!何を笑ってるんですか!?」

「いや、王女といっても普通の女の子だなあって」

「なっ・・・・」

「え!?何か怒らせる事言ったか!?」


エリアーナは固まってしまった。何故だ?


「ああ、龍二さん!ここに居ましたか!国王がお呼びです!」

「すまんエリアーナ。急ぎの用みたいだ」


急に現れた文官は話すには急いで来て欲しいとのこと。俺を呼ぶって事は龍一関係か?

急いでその場を離れ国王の居る謁見の間の玉座へ向かう。途中に文官から「お邪魔でしたか?」と言われたが「ナイスタイミングだ」と返した。あの状態の女の子がどういう心境なのかわからんからな。触らぬ神に祟り無しだ。


謁見の間に入ると王様と宰相、文官が数人集まっていた


「エルフ族からの手紙だ。龍二、お前当てらしい」


王様に渡されたそれは想像している手紙というより羊皮紙に書かれたもののようだ。


「西の集落のエルフ族からの手紙だ。それと我々の知らない文字の羅列だ。龍二、これはもしかしたら・・・」

「ええ、俺の元いた世界で使われている文字です」

「やはりか」


俺は広げた羊皮紙を読み込む。

手紙には二種類の言語の文が書かれていた。この国の文字と日本語。宛先が俺だというなら送った人物は一人しかいない。


「王様、言ったでしょう?あいつならその内連絡してくるって」


手紙には「龍二へ、心配かけてすまん。ちょっと怪我してこっちで静養したらそのうち戻るわ。龍一より」と、日本語の汚い文字で書かれていた。







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